※この記事は2017年12月11日にBLOGOSで公開されたものです

幼い頃に、「上の乳歯が抜けたら床下へ、下の乳歯は屋根の上に投げれば丈夫な永久歯が生えてくる」という言い伝えを聞いたことがある人もいることだろう。一方、西洋では抜けた乳歯を枕元に置いて寝ると、夜中に歯の妖精がやってきて、プレゼントと交換してくれるという寓話がある。

この歯の妖精(=TOOTH FAIRY)のように、使用しなくなった金歯・銀歯の金属で、苦境に置かれた子ども達を支援する寄付プロジェクトがある。日本財団が主催し、(公社)日本歯科医師会の協力によって運営されている「歯の妖精TOOTH FAIRYプロジェクト」だ。このプロジェクトの詳細を日本財団ドネーション事業部ファンドレイジングチームの小村悠子氏に聞いた。

寄付の累計額は12億4千万円

―このプロジェクトの仕組みを教えてください

全国の歯科医院で、患者さんが治療のため金歯や銀歯を撤去した際に、そこに使われている金属を寄付していただきます。そして、その金属を金属会社に引き渡して得たお金を使って、病気の子どもたちやミャンマーの子どもたちに対する支援を行うという仕組みになっています。日本歯科医師会には、プロジェクトのPRやボランティアの派遣といった形でもお手伝いいただいています。

TOOTH FAIRY参加歯科医院では、金歯・銀歯を抜いた時に、歯医者さんはまず患者さんにその金属を持って帰るか、あるいは寄付するかを尋ねます。そこで、「寄付します」とお答えいただいた場合、この「TOOTH FAIRYプロジェクト」に使用させていただくことになるのです。

また、亡くなったご家族の金歯や銀歯が残っていた際に、捨てるのも気が引けるので、「せっかくですから使って下さい」と寄付くださる方もいらっしゃいます。

―プロジェクトには、どれぐらいの数の歯科医院が参加しているでしょうか

現在参加している医院の数は約6500です。歯科医院は全国で約7万医院あるといわれているので、約1割にご協力いただいています。日本歯科医師会や都道府県、地域ごとの歯科医師会の皆さんにご協力いただいて参加を呼びかけており、年間約1.5億円から2億円ぐらいほどの寄付が集まっています。おかげさまで今年10月末までの累計寄付金額は12億4千万円になります。

このプロジェクトの特徴はひとつの業界がまとまって寄付を集めている点で、その意味では世界的にも類を見ない寄付のプロジェクトなんです。参加を希望する歯科医院には初回に活動啓発のポスターや金歯・銀歯を送付するケースなども提供しているので、患者さんから寄付して頂いた金歯や銀歯をとりまとめてTOOTH FAIRY事務局へ送るだけで社会貢献することが出来ます。

難病や障害のあるお子さんによっては、あごがうまく動かせず歯みがきに苦労しているなど、口腔に問題を抱えているお子さんがいらっしゃいます。そこで、歯磨き指導や保護者の方たち向けの相談といった活動も行い、好評を得ています 。

難病を抱える子どもとその家族から届く喜びの声

―寄付金の主な使い道はどのようなものなのでしょうか?

3つの活動を行っています。ミャンマーへき地の貧しい村々に学校を建設する事業、小児がんなど難病の子どもの支援を行う事業、そして障害者アスリートに対してマウスガードの作製や障害者歯科・スポーツ歯科に関する講習を行う事業に使用しています。

なかでも、難病児の支援には力を入れていて、難病のお子さんとその家庭に対する支援を行っています。

具体的には、難病のお子さんたちとそのご両親が一緒に参加できるキャンプの開催や、日中にお子さんをお預かりし、家族の生活をサポートする施設の建設といった取り組みを行っています。すでに、全国で7施設が建設、整備され、大変好評いただいています。

―支援を受けた方々からの喜びの声というのはどういったものがありますか?

キャンプに参加した子どもたちからは「楽しかった」という声が寄せられています。個人的に印象的だったのは保護者の方々の声です。難病のお子さんを抱え、在宅で看病していると「24時間気が休まらない」という方もいらっしゃいます。人工呼吸器をつけて2~3時間ごとに痰の吸引をしなければいけないからです。

小児在宅医療の支援制度は途上段階にあり、家族が、特に母親がお子さんのケアを抱え込んでしまい、孤立感に心身共に疲弊してし まう方も少なくありません。

そういう状態にあったご家族が、「TOOTH FAIRYプロジェクト」によって作られた難病児の日中一時預かり支援をする施設を利用することで、「他の人が自分の子育てに関わってくれることが嬉しかった」とおっしゃっていただきました。

また、難病のお子さんのケアに懸命になるあまり、きょうだいが我慢を強いられているケースも多いのですが、支援施設を利用することで一時でもお母さんが看病から離れることで、「お母さんに甘えることができた」という声も寄せられました。

TOOTH FAIRYの支援がひろがることで、新しい喜びの声も生まれています。

首都圏のTOOTH FAIRY支援施設を利用するお子さんが、北海道のそらぷちキッズキャンプという難病児専門のキャンプ場を訪問し、生まれて初めて雪あそびや乗馬を体験しました。普段病院や自宅のベッドの上で過ごすことの多いお子さんが、キャンプでの体験を通じて成長する姿に、本人はもとより、家族にとっても大きな自信となり、つらい闘病生活を乗り越える活力につながるんです。

12月は寄付月間「欲しい未来へ、寄付を送ろう」

― 「自分の歯の詰め物を寄付しよう」と思った場合、具体的にどうすればいいのでしょうか

参加している歯科医院には、目印となるステッカーを貼っています。また、TOOTH FAIRYのホームページで、お住まいの近くの参加歯科医院を検索できるので、寄付できる歯科医院を探していただければと思います

金歯や銀歯はむし歯の治療などで取り替える必要があるので、今金属を詰めている方は今後取り替えるタイミングで寄付をご検討いただけると嬉しいですね。

今後は参加している歯医者さんを増やしていきたいです。歯医者さんは誰でも利用する身近な存在なので、寄付だけではなく私たちが取り組んでいる社会問題の啓発PRという側面でも非常に大きな効果があるのではないかと考えています。

寄付は単なるお金のやり取りなく、「繋がりを作るツール」です。何故なら、「お金を渡して終わり」になるわけではなく、寄付をすることで、社会問題に対する興味関心が高まるからです。

「TOOTH FAIRYプロジェクト」を通じて、日本各地の歯医者さんを中心に、地域で病気と闘うお子さんたちと家族に笑顔を届けられるようになることが、私の夢です。

12月は、「欲しい未来へ、寄付を送ろう」をキャッチフレーズとする寄付月間(Giving December)でもあります。「TOOTH FAIRYプロジェクト」はどこにでもある歯医者さんで気軽に出来る社会貢献なので、ぜひ参加を検討していただけると嬉しいですね。

子どもたちに笑顔を、歯医者さんの団結力。 (ソーシャルイノベーション最前線03)
posted with amazlet at 17.12.05
ソーシャルイノベーション研究会
日経BPコンサルティング
Amazon.co.jpで詳細を見る