※この記事は2017年12月08日にBLOGOSで公開されたものです

首都圏に住む直美(17、仮名)は、小学生の頃にいじめに遭っていた。女子にはトイレで水をかけられたり、男子からは殴られたりした。しかし、小学生の直美には、いじめられているという自覚はなかったという。

「理由は覚えていないんですが、机がなくなったり、ランドセルがなくなったりもしました」

地域の公立中学校に進学しても、小学校時代の同級生がいたことで同じ立場が続いた。ようやくこの頃、自分がされているのはいじめだと思った。家庭は直美にとって居場所と呼べるようなものではなく、常に違和感を抱いていた。当然、家族とはいじめを相談できる関係ではなかった。

フェイスブックで知り合った男から性暴力被害。そして自殺願望

高校に進学しても家庭内の違和感は変わらない。そんなとき、SNSの一つ、フェイスブックで知り合った、自称、“30代の医者”が悩みを聞いてくれた。今年1月、その男に呼び出され、秋葉原に行った。公務員を目指していた直美は、将来の話がしたかった。しかし、「誰もいないところで話そう」と言われ、男の自宅に向かったところ男性の態度が急変し、レイプされてしまう。

「ネットで知り合った最初の人で、信用していました。抵抗したんですが、無理でした。終わったあとは一人で外に出て、震えていました。被害届は出しましたが、どうなるかわかりません。最初は外にも出られませんでした。学校にも行けない。だからやめようと思いました」

この事件の影響か、病院に行くと、心的外傷後ストレス障害と診断される状況だった。外出もできなくなった直美は今年6月、高校を中退した。ただ、加害者男性への社会的制裁については躊躇してしまうという。

「ムカついてるけれど、そのひとの仕事が奪われるのは嫌なんです。だって、何年も生きてきて、新人の医者と言っていたけれど、もったいないじゃないですか」

フェイスブックは日本では実名で登録というイメージが強く、犯罪に結びつくイメージは薄い。しかし、実際には、実名かどうかは登録時の保証はない。また、犯罪とも無縁ではない。

例えば、2011年11月、愛知県豊橋市のアパートで、そこに住む女性(当時53)が殺害された。現金3千円とテレビ(約8千円相当)が盗まれた。殺人と窃盗の疑いで逮捕されたのは、トラック運転手の男。09年ごろ、被害者とFacebookで知り合い、男が愛知県に立ち寄った際に数回会っていた。17年9月、男は初公判で起訴内容を認めている。

また、13年10月、東京都三鷹市の路上で女子高生(当時18)が殺害された。逮捕された男とは11年10月ごろ、フェイスブックを通じて知り合い、交際を始めていた。女子高生が留学をしたことを機に2人は別れたが、女子高生が帰国?後、男はストーカー行為を繰り返した。この事件では、2人の性的画像の流出が問題となり、リベンジポルノ規制法(私事性的画像記録の提供等による被害帽子に関する法律)が成立するきっかけとなった。

息抜きの散歩中に、再び性暴力被害に

直美のトラウマ体験はこれだけではない。10月中旬、夜9時前に、気分転換に外を歩いていた。辛い時にはよく散歩をしていた。このときに道に迷ってしまい、見ず知らずの人に車内に連れ込まれ、レイプされた。

「車のナンバーも覚えていますし、警察にも被害届けを出しました。男の家には行ったようですが、『知らない』と言われたようで、まだ逮捕されていません」

こうした性被害の体験もあるために、直美の自殺願望は消えない。

「20歳までは生きてないと思います。今は、死にたいまま生きています」

こうした絶望感がネットの闇に引き寄せられるベースになった。

白石容疑者とDMでつながった直美

小田急線の相武台駅(神奈川県座間市)。東京の中心部から同心円上に通る、国道16号線のやや外側に位置する。2003年に連鎖した「ネット心中」の中で最初に報道されたケースが起きた埼玉県入間市も国道16号線沿線だ。

脱線するが、私は国道16号線に注目している。新しい犯罪が起きることが多いからだ。2001年1月、栃木県内の男子高校生(当時18)が埼玉県内の主婦(当時32)を刺し、重傷を負わせた。2人は、個人運営の出会い系サイトで知り合っていた。出会い系サイトで知り合った者同士で殺人未遂が起きたのは始めてで、この主婦が住んでいた岩槻市(現在さいたま市)も国道16号沿線だった。

さて、相武台駅から徒歩10分ほどの住宅街に、事件現場となったアパートを見つけることができる。静かな住宅街だが、小田急線の線路が近く、列車が通過する音が聞こえる。ただ、他の音はほとんど聞こえない。そんなアパートの一室で、10月末、男女9人の遺体が発見された。

死体遺棄の疑いと、のちに一人の女性の殺人罪でも逮捕されたのは、同じアパートに住む白石隆浩容疑(27)だ。ツイッターで「死にたい」や「自殺」とつぶやいていた人たちを誘い出したとみられている。

白石容疑者は少なくとも2つのアカウントを犯行に使っていた。そのうちの一つで、今年8月に開設した「死にたい」というアカウントで、フリーターの直美に9月12日、ダイレクトメール(DM)を送ってきた。直美によると、アカウントは5つあり、そのうちの「病み垢」でツイートしたものに白石容疑者が反応し、DMが送られてきたのだという。

白石:自殺をお考えですか?
直美:はい
白石:一緒に死にますか?
直美:何歳ですか?
白石:22歳です。首吊りの道具と薬を用意してあります
直美:殺してもらえないですよね 首絞めて
白石:本気で言ってるんですか?
直美:首吊り2週間くらい前に失敗してなんかもー首吊りのやり方が失敗するとしか思えなくて

こうしたやりとりは、自殺系掲示板の書き込みや「ネット心中」の相手募集のやりとりでは、よく見られる。自殺をめぐるネット・コミュニケーションでは、手段や道具などについて、具体的な話になっていくことは珍しいことではない。むしろ、そうしたリアルなやりとりがないと続かない場合も多い。

直美が、白石容疑者とやりとりをしたツイッターのDMの画面

首吊りをしたこともあったとDMしているが、その他にも200錠の風邪薬を飲んで死のうとしたこともある。精神科には通っているが、処方薬は溜め込んでいる。300錠は溜まっている状態だ。そんな中で追い詰められれば、リストカットを繰り返す。

ツイッターのDMからカカオトークへ

ツイッターのDM後、直美と容疑者のやりとりは、無料通信アプリ「カカオトーク」に移行し、話題は首吊りの具体的な方法へと移っていく。

白石:色々つらそうなので、死にますか?
    結び方、緩衝材、高さ、薬、ちゃんと勉強すれば死ねます
    痛い、苦しい、未遂になると言っている人は勉強してないから楽に死ぬ方法がわかってないだけです
    実際に吊ってみて苦しかったらやめていいので、試しに釣ってみますか?
直美:あのー、本気で考えてますか?
白石:本気です。
   安楽死出来るよう、勉強して、道具を揃えて私も吊りました。

こうしたやりとりができる相手は自殺願望が強い人にとって、信用できる可能性が高い。

「(白石容疑者は)カカオで通話したがっていました。『信用できたら、会いませんか?』とも言っていました。たまたま、別の人と電話をしていたので、通話することはありませんでした」

「私だって被害者と同じ立場」

結局、白石容疑者との連絡は15日に途絶え、直美は会うこともなかった。性暴力によって自殺願望が生まれて白石容疑者とつながったが、性暴力を心配して、会わなかったのだ。

「言っていることは本当なのか?と考えました。神奈川は家からも遠いし、何もなかったら、時間と交通費だけがかかる。バイトのシフトも入っていたし、未遂だったら、バイト先に迷惑をかけるだけ。でも、(報道を見て)言っていることと同じことをしたんだな、と思いました」

自殺未遂を繰り返したり、自殺を考えている人の中には、殺されたい願望を持つ人がいる。直美はまさにその一人だ。

「『死にたい』というのは、信頼してないから親には言いたくないです。反抗期なのかどうかはわからないけど、どうしても嫌です」

「報道で、容疑者は『本当に死にたい人はいなかった』と供述していたが、よくわからない。だって、私だって被害者と同じ立場。自分でも『いつ、死のう?』と考えていましたから。電話していれば行っていたかもしれない。殺されていればよかったと思うことはあります。」