72時間ホンネテレビに見た、テレビメディアの圧倒的な強さ - 赤木智弘
※この記事は2017年11月12日にBLOGOSで公開されたものです
ジャニーズ事務所を退所し、今後の活動が注目される草なぎ剛、稲垣吾郎、香取慎吾の3人が、11月2日から5日までの72時間、ネットメディアであるAbemaTVで「72時間ホンネテレビ」を配信した。番組では元SMAPで、現在はオートレーサーとして活躍する森且行との共演を果たすなど、ジャニーズ時代にはありえない配信としてネット中で注目を集めた。
視聴数は3日間の累計で7200万人を超え、Twitterのトレンドなどにも番組内でのワードが上位に上がったという。(*1)
さて、僕が気になったのは、ホンネテレビの盛り上がりを受けて、ネット上で文化人を始めとする一部の人達が「これからはネット配信の時代!テレビはオワコン!!」などと誇らしげに語っていたことだ。
僕もホンネテレビは注目していたし、72時間のうちの2時間くらいを見た。僕の見たシーンでは、巨大コーラにたくさんのメントスを入れて、吹き上がるかと思ったら失敗していたり、何故かカースタントで視聴者の思い出の品を爆破するという企画だった。それを見て僕は、なんとなくテリー伊藤が手掛けた番組を思い出した。
あと、キャイ~ンの二人が出ているコーナーもちらっと見たが、ウドちゃんが香取のことを「王子」と呼んでいて、かつて日曜日の夕方に日本テレビで放送されていた「天声慎吾」を思い出した。
他の企画についても、ネット上でどんな内容を放送したかなどを見聞きしたが、その上で僕が思ったのは「ああ、8,90年代にテレビでやってた内容が多くて懐かしいな」ということだった。そもそも「72時間生放送」という考え方からして、日本テレビ系列で毎年放送されている「24時間テレビ」的で、極めてテレビの印象が強いものである。
僕が思うに、ホンネテレビはネットよりも遥かにテレビ文化を踏襲した「テレビのようなネット配信」であった。
AbemaTVは、サイバーエージェントとテレビ朝日が出資した株式会社AbemaTVが運営しており、そのオリジナル番組作りにはテレビ朝日で培われたノウハウが生かされている。
そして現場には8,90年代のテレビを見て育った世代がいるのだろう。そうした人達が「あのころの、もっと自由だったテレビ」をAbemaTVで実現させているような印象が、AbemaTVオリジナル番組には感じられる。
AbemaTVではネット配信の方式にもテレビの手法を使っている。番組は個別の動画として並ぶのではなく、ドラマやアニメにスポーツ、そして将棋や麻雀といったチャンネルとして、テレビ番組を見る際におなじみの番組表に並んでいる。視聴者は、あたかもテレビを付けてそのときにたまたま流れている番組を見るかのように、AbemaTVの番組を見ることができる。
これらを見てもAbemaTVで行われているのは、他ならぬ「テレビとネットの融合」であり、ネット配信だからといってテレビ放送と対立するものではないのである。
そもそも、ホンネテレビの主役になった3人だって、ジャニーズ事務所を退所した今もなお、テレビやラジオで活躍する「マスメディアのスター」である。
これが例えば、今回のホンネテレビにも出演していた「ヒカキン」や「はじめしゃちょー」と言った、ネットから出てきた人達が主役として扱われ、これだけの注目を浴びたのであれば「これからはネット配信の時代!テレビはオワコン!!」と騒いでもいいだろう。しかし結局のところ、未だネット単体では3人のような大スターは生み出すことができないのだ。その3人が少しネットの側に降りてきてくれただけで、これだけの話題になるのである。こんなスターを生み出すことができるのは、今のところはテレビだけである。
今回のホンネテレビは、テレビが廃れてネットの時代になったことを示すどころか、いくらテレビ離れが進んだとは言え、それでもテレビメディアの力は圧倒的に強く、また偉大であるということを天下に示したと僕は考える。
しかしそれは決してネットがテレビに敗れ去ったという意味ではない。そもそもネットとテレビを対局に置いて「あっちが勝ち、あっちが負け」と考えるほうがおかしいのだ。
AbemaTVのようなネット配信が認知されるにつれ、テレビとネットの垣根は徐々に低くなっていく。それは決してテレビの負けではない。勝ち負けではなく、そのどちらもに利点と欠点があるのだから、互いにそれを利用して相互補完的に活用すればいいだけのことである。
ただ少なくとも、イデオロギー的にネットとテレビを自分勝手に対立させて、ドヤ顔で勝ち負けを語って恥じないような人自身は、いずれ負けるだろうとは思うけれども。
*1:稲垣・草なぎ・香取「72時間ホンネテレビ」視聴数7200万以上&107ワード以上がトレンド入り!総記録が発表(シネマトゥデイ)https://www.cinematoday.jp/news/N0095895