山の日なんていらない - 赤木智弘
※この記事は2016年08月13日にBLOGOSで公開されたものです
8月11日は「山の日」という、今年から新たに加わった祝日であった。山の日の趣旨としては「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する」という、意味があるのかないのかよくわからないものではあるが、実際にはお盆と合わせて連休とすることで、旅行などの経済効果を期待するものだ。(*1)
この山の日を含め、日本の祝日は年に16日となったわけだが、世界的に見れば日本は祝日が多い方になる。1つ、2014年のデータを見ると日本は世界で同率3位の日数の多さだ。(*2)
僕はこの祝日の多さというのは、極めて過保護だと考えている。そもそも「休日だから休みだ」というのは、公務員などをはじめとする、ごく一部の職種にすぎない。
非正規労働者を始めとした、接客業に就く人たちは、むしろ休日にこそ仕事に借り出されるわけで、休日の観光地の賑わいはそのまま、非正規の仕事の忙しさに他ならないのである。
だから僕は、祝日のたびに正社員と非正規の格差というものを感じさせられ、気分が悪くなってしまう。
そもそも、どうして祝日などというものを、土日以外に設定する必要があるのだろうか?
そんなに休みたいなら、各自で有給をとって休めばいいではないか?
しかも、今回の山の日は決して何かの記念日ではない。それをわざわざ祝日に設定する意味などあるのだろうか?
そんなことをつらつらと考えていると、法学者の白田秀彰氏のツイートが目に入った。(*3)
内容的には「休みを与えて趣味が深化すれば、経済は活性化するはずだ」という内容であり、一見、僕の考えている内容とは真逆であるように思える。しかし、よくよく考えるに「趣味」というのは個人のものであるのだから、白田氏の論旨の中での「休み」とは「個人のための休み」であるということが分かる。
しかし一方で、日本に設定されている祝日で想定されるのは「家族で過ごす休日」である。旅行などの経済効果として認識されるものも、一人旅ではなく、恋人や家族での旅行が基本であろうことはいうまでもない。
そう考えると、日本人が家族全員が休める「公休」を重視する一方で、働いている個人でしか休みを取れない「有給」を余り重視しない理由が見えてくる。つまり、元々「個人が休む」ことに対するモチベーションが日本人にはあまりなく、家族などのある程度のまとまりで休めないと、休日の意味が無いという風に思われているのではないだろうか。
しかし、家族連れが一斉に祝日に家族と出かけるという形式が産まれてしまった結果、家族を持たなかったり、休めないような人たちに対して一方的に負担を強いることになってしまっている。
そもそも、観光地はもちろん、そこにたどり着くための道路やインフラにおいても、混雑というのは基本的には都合が悪いのだ。休む方も満員の電車で立ったり、渋滞にハマったりしながら「もっと人が少なければ楽しめるのに」と思っているに違いない。日本中の家族が一斉に出かけてしまう休日の形は、みんなにとって満足度の低いものとなる。
だからこそ、僕は公的な祝日は極力減らして、個別に有給休暇を取って休むという形を推し進めるべきだと思う。
しかし、黙っていると祝日は増え続ける。今回は山の日が増えたが、次に増えるのは「天皇誕生日」だろう。
先日、天皇陛下が国民に対して「生前退位を実現させて欲しい」という旨の「お気持ち」を表明された。
もし天皇が代替わりすると、明治天皇の誕生日が文化の日に、昭和天皇の誕生日が昭和の日になったように、今上天皇の誕生日である12月23日は「平成の日」という新しい休日になり、今の皇太子さまの誕生日である2月23日が次の天皇誕生日となる。こうなると、また祝日が増えてしまう。
僕は、社会人であるならば、自分の休みは自分で決めるべきだと思う。それは家族の休みだけではなく、個人の休みを大切にするという意味合いもあるし、また自分の待遇を自分で決めるという、労働市場の基本を再確認する意味合いもある。その上で、家族に依存する形ではない、自分一人での休日を趣味などを通して充実して過ごせるようになれば、結果として、経済もより活性化するのではないか。
国に決められた休みにしか家族で出かけられないからと、人混みの中に出かけて余計に疲れるという、休みなんだか仕事なんだかわからない祝日という名前の愚を繰り返す必要はない。
そのためにも、山の日をはじめとする、特に由来のない、経済対策のためだけの祝日を減らすとともに、天皇陛下の誕生日についても先代天皇の誕生日は平日に戻し、今上天皇の誕生日のみを休日にする必要があると考えている。
*1:8月11日は「山の日」で祝日に 16年から、改正法成立(日本経済新聞)
*2:マーサー、年間祝祭日数世界ランキングを発表(マーサージャパン)
*3:庶民に休みを与えて彼らの趣味を深化させると、経済が活性化するというのは私の脳内だけの妄想なんだろうか。だいたい批判されるんだけどねえ。批判する人たちは滅私奉公し休日返上で働くと経済が活性化すると言いたいようなんだが、誰が消費するんだろう? 貴族?(白田秀彰)