※この記事は2014年09月12日にBLOGOSで公開されたものです

9月11日19時半より朝日新聞社が、いわゆる“吉田調書”をめぐる一連の報道について会見を行った。朝日新聞は、同調書を5月19日、入手したことを明らかにし、紙面およびデジタル版で「吉田調書」のキャンペーン報道を開始していた。会見には木村伊量社長、編集担当取締役・杉浦信之氏、喜園尚史・広報担当執行役員が出席した。

頭を下げる木村社長

木村朝日新聞社長・冒頭発言

朝日新聞は、東京電力福島第一原発事故の政府事故調の調査委員会が作成いたしました、いわゆる「吉田調書」を政府が非公開としていた段階で独自に入手いたしまして、5月20日付朝刊で第一報を報じました。

その内容は、「東日本大震災4日後の、2011年3月15日朝、福島第一原発にいた東電社員ら9割にあたる、およそ650人が吉田所長の待機命令に反し、10km南の第二原発に撤退をした」というものでありました。

吉田所長の発言を紹介して、過酷な事故の教訓を引き出し、政府に全文公開を求める内容でございました。しかし、その後の社内での精査の結果、吉田調書を読み解く過程で評価を誤り、「命令違反撤退」という言葉を使った結果、多くの東電社員らが、その場から逃げだしたかのような印象を与える、間違った記事だと判断いたしました。

「命令違反で撤退」の表現を取り消すとともに、読者および東電の皆様に深くお詫びを申し上げます。

これに伴い、報道部門の最高責任者である杉浦信之編集担当の職を解き、関係者を厳正に処罰をいたします。無論、経営トップとして私も責任を逃れません。報道にとどまらず朝日新聞に対する読者の信頼を大きく傷つけた危機だと重く受け止めており、私が先頭に立って、編集部門を中心とする抜本改革など、再生に向けて、おおよその道筋をつけた上で、速やかに進退について決断をいたします。その間は、社長報酬を全額返納いたします。

吉田調書は朝日新聞が独自取材に基づいて、報道することがなければ、その内容は世に知らされることがなかったかもしれませんでした。世に問うことの意義を大きく感じていたものであるだけに、誤った内容の報道となったことは痛恨の極みでございます。

現時点では、記者の思い込みや、記事のチェック不足が重なったことが原因と考えておりますが、新しい編集担当を中心に、これは仮称ではありますが、「信頼回復と再生のための委員会」を早急に立ち上げ、あらゆる観点から取材、報道上で浮かび上がった問題点を抉り出し、読者の皆様の信頼回復のために、何が必要なのか、ゼロから再スタートを切る決意で検討してもらいます。

同時に誤った記事がもたらした影響などについて、朝日新聞社の第三者機関であります 「報道と人権委員会」、私もは通称PRCと呼称しておりますが、そのPRCに審議を申し立てました。速やかな審議をお願いし、その結果は紙面でお知らせいたします。

慰安婦報道についても第三者委員会を立ち上げ

今回、お集まりいただきました会見は吉田証言報道についてのご説明が議題ではございますが、 この間、様々なご批判、ご指摘をいただいております慰安婦報道についてもご説明をさせていただきます。

朝日新聞は8月5日付朝刊の特集「慰安婦問題を考える」の中で、韓国済州島で慰安婦を強制連行したとする故人ですが、吉田清治氏の証言に基づく記事について、証言は虚偽と判断して取り消しました。ただ、記事を取り消しながら謝罪の言葉がなかったことで、ご批判をいただきました。「裏付け取材が不十分であった点は反省します」としましたが、事実に基づく報道を旨とする ジャーナリズムとして、より謙虚であるべきであった痛感しております。

吉田氏に関する誤った記事を掲載したこと、そしてその訂正が遅きを失したことについて、読者の皆様にお詫び申し上げます。

慰安婦報道につきましては、先ほど申し上げましたPRCとは別に社外の弁護士や歴史学者、ジャーナリストら有識者に依頼して、第三者委員会を新たに立ち上げ、寄せられた疑問の声を元に過去の記事の作成や訂正に至る経緯、今回の特集紙面の妥当性、そして、朝日新聞の慰安婦報道が日韓関係をはじめ、国際社会に与えた影響などについて、徹底して検証していただきます。こちらも速やかな検証をお願いし、その結果は紙面でお知らせをいたします。

吉田調書のような調査報道も、慰安婦問題のような過去の歴史の負の部分に迫る報道のすべては朝日新聞に対する読者の皆様の厚い信頼があってこそ成り立つものでございます。私たちは今回の事態を大きな教訓としつつ、様々なご意見やご批判に謙虚に耳を澄まします。

そして、初心に帰って、何よりも記事の正確さを重んじる報道姿勢を再構築いたします。そうした弊社の今後の取り組みを厳しく見守っていただくよう皆様にお願いをいたします。 以上でございます。

“捻じ曲げ”を行うような意図はなかった

この後、行われた質疑応答では、読売や産経といったメディアから原発事故、慰安婦問題をめぐる朝日のスタンスから、「事実を捻じ曲げようとする意図があったのではないか」という指摘が相次いだが、これについては編集担当の杉浦執行役員が否定した。また、木村社長は、記事の取り消しについて謝罪がなかったこと、吉田清治氏の証言が虚偽であったことは認めたが、8月5、6日の慰安婦報道の特集内容には「自信を持っている」とも話し、読売、産経といった保守系メディアの記者との認識の違いが見られた。

掲載をめぐって波乱のあったジャーナリスト池上彰氏のコラムについては、木村社長が「厳しいな」との感想を漏らしたという。これについて記者からは「(社長の気持ちを)忖度したのか」と杉浦氏に質問が飛んだ。杉浦氏は「私の判断。当時の朝日新聞を取り巻く環境を考えた際に過敏になりすぎ、掲載を見送るという判断をしたが、結果として、その判断は間違っていたと思っております」と話した。

また、このコラムの掲載をめぐって、Twitter上で朝日新聞の記者からも批判があったことについて、木村社長は、「多くの記者からTwitterで批判が向けられたことは厳しく受け止めたい。ただ、自由な言論空間が保障されることが我々のモットーであり誇り。Twitter利用者を増やすことはあっても制限することはない」と話した。

また、朝日新聞は、今回の一連の報道についての批判を行ったいくつかのメディアに対し、法的措置などを検討するといった抗議文を送付したが、それについては広報担当の喜園執行役員が「抗議の前提となる記事が取り消されたので、これまで出した抗議は撤回したい。抗議したメディア、ジャーナリストには説明を行いたい」とした。

質疑の後半で、「吉田所長のご遺族やその周辺については、どのように対応するのか?」と問われると、「まず、明日以降、記事を取消、お詫びの記事を掲載したい。その後については、我々でできることを考えていきたい」と話すにとどめた。

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