※この記事は2014年08月23日にBLOGOSで公開されたものです

 最近、なぜか各界の著名人が頭から氷水を被る動画をアップしている。
 もちろん、あまりの暑さに理性の糸がぶちきれる人が連鎖的に発生していると言うことではなく「ALSアイスバケツチャレンジ」という、難病であるALS(筋萎縮性側索硬化症)への認知度を広めるために行われているという。

 友人、知人などから指名を受けた人が100ドルをALS協会に募金するか、あるいは24時間以外に氷水を被るかを選び、また次の3人を指名するというものだという。(*1)

 率直な感想としては、全く感心できない手法だと思う。
 まずはこれが典型的なチェーンメールであるということ。今更「チェーンメールはネットのリソースを食う」などという古臭いことを言う気はないが、こうした善意のチェーンは、非常に断りにくい雰囲気をまとってしまう。今、これだけニュースとして注目される中で、有名人がこれを断るのは、イメージの低下などの懸念もあり、大変なことかもしれない。

 また、有名人であれば100ドル程度を募金することはなんともないかもしれないが、多くの人にとって1万円は十分大金である。氷水を被ることについても、万が一にも心臓麻痺のような事故が起きるかもしれない。

 他にも、指名した人とされた人の関係が友人関係ならまだしも、これが上司が部下に送ったりすると、とたんにパワハラに変質してしまうということもある。
 そうした意味で、手法的には様々な問題を含むやり方だと思う。

 それでも「やらないよりマシ」とか「認知が広まる」と主張する人もいるだろう。
 確かに、このチャレンジにより僕もALSという難病の存在を知ったし、募金額も米ALS協会では13億円以上を集めたそうだ。(*2)

 今は先行者利益でALSが寄付金や認知を集めているが、いずれ他の団体もこうした過激な手法で寄付金を集めたり、認知を広めようとするだろう。

 環境保護団体の女性が全裸になったり、海賊まがいの行為を行うのも、寄付金や認知を狙ったパフォーマンスである。こうしたことも「やらないよりはマシ」と肯定できることであろうか?

 また、この世界で「難病」と呼ばれるものはALSだけではない。ALS協会が得た募金は、本来であればその他の団体に寄付されていたはずのお金ではないだろうか?

 たとえ認知が広まったとしても、寄付者の収入が突然増えて、寄付に使えるお金の余裕が増えるわけではない。つまり、誰かがある団体に寄付すれば、その他の団体には寄付が行かなくなる。要は、こうしたキャンペーンは結局のところ、寄付金や寄付者の取り合いにしかならないのではないだろうか?

 難病はALSだけではないし、また寄付を必要とする人は難病患者だけでもない。寄付は誰かの命を救うかも知れないが、一方で選ばれなかった誰かの命を救わないかも知れない。

 寄付をするしないは私たちが選択することができるが、寄付をされる側は選択されなければ命に関わるのだ。
 「寄付をすることで命が救われる」ということは、寄付者の意思によって命が選択されるということでもある。氷水を頭から被っている人たちは、果たしてそのことに気づいているのだろうか。

 それでも、個人が氷水を被るなら、勝手にやればいいと思う。
 問題は企業経営者などが頭から水をかぶって、さも良いことをしたかのように思い込んでいることだ。

 寄付はあくまでも個人の選択であり、かつ一時的なことでもある。今でこそALS協会にはお金が集まるだろうが、そのうちチャレンジが下火になれば、またお金は集まらなくなるだろう。しかし、寄付金に合わせて患者が増減するわけではないのだから、それでは困るのである。

 そうした個人の興味に頼らずに、難病患者や貧困者など、寄付を必要とする人たちを救う方法はなんだろうか?
 それは、まっとうな社会保障であり、再分配である。

 まっとうな社会保障を担う原資は税金である。企業経営者は難病支援のために氷水を被るなんてことより、企業が節税などといって法人税をごまかすような事をせずにちゃんと支払えば、それだけ国の税収は増え、それを国が難病支援などに使ってくれれば、個人の寄付とは違い、継続的に難病患者を支援することができるのである。

 企業経営者であれば、こうしたパフォーマンスに参加するよりは、企業としての義務を果たすことに注力して欲しい。

 少なくとも、有名人が頭から氷水を被っただけでは誰の命も救われない。
 アイスバケツチャレンジに参加する人も参加しない人も、そのことだけは自覚するべきであろう。

追伸
 もし、アイスバケツチャレンジに賛同し、自分自身で寄付をしたり氷水を被ることは厭わなくても、「でも、他の人を指名するのは申し訳ない」と思っている方がいれば、ぜひ僕を指名してください。僕は喜んで、その指名を無視します。

 つまり、あなたは指名をするという趣旨を守ることができますし、僕はチェーンメールを1つ潰すことができるというWin-Winが達成できますので、お気軽に。

*1:日本の芸能界でも「アイス・バケツ・チャレンジ」が大流行(RBB TODAY)
http://www.rbbtoday.com/article/2014/08/20/122601.html
*2:米セレブの間で「アイスバケツチャレンジ」が大流行! あのビル・ゲイツが氷水をかぶりまくった動画が YouTube で再生回数600万超!!(ロケットニュース24)
http://rocketnews24.com/2014/08/20/477428/