※この記事は2014年08月08日にBLOGOSで公開されたものです

写真一覧
広告費の減少などにより、テレビ報道の凋落が叫ばれて久しい。テレビメディアの報道は、現在、どのような問題を抱えているのだろうか。元解説委員として、お茶の間にもお馴染みの安倍宏行氏が、テレビ局記者の仕事やテレビ報道の問題について、7月に「絶望のテレビ報道 (PHP新書) 」を上梓した。昨年フジテレビを退職し、現在は「Japan In-Depth」」編集長も務める安倍氏に話を聞いた。【大谷 広太(編集部)】

テレビ局記者は“24時間・常在戦場”


―新聞記者については、OBも含め、メディアで発言する人が多いと思いますが、それに比べるとテレビの報道記者については情報が少なく、世の中にあまり知られていない印象を持っています。新聞同様、基本的には新卒で入るパターンが多いと思いますが、安倍さんは中途採用ということですので、人材の流動性もあるのでしょうか。

安倍宏行氏(以下、安倍):僕は昭和30年生まれで、就職活動は第二次オイルショックの後だったので、就職難の時代でした。本当は商社マンを目指していたのですが、大手商社の採用は数名という超難関だったため、日産自動車に入社し、輸出を13年ほどやっていました。

その後、1992年にフジテレビに入社したのですが、その頃は、ありとあらゆる業種から採用していましたし、生え抜きの人ばかりではなかったので、仕事もしやすかったと思いますね。フジは東京のキー局の中でも後発でしたし、視聴率も"振り向けばテレ東"、つまり4位という時期がありました。そういうこともあって、わりと中途採用には積極的だったと思います。当時は、どのテレビ局も積極的に外部の人材を採用していました。特にTBSは雑誌や通信社から金融・経済に強い記者を十数名採用して、"一大経済部"を作ろうとしていたんです。

そういう意味で、人材の流動性はあるとも言えます。ただ、局にもよると思いますが、テレビ局の社員は辞めないんですよね。考えられないような給料で囲い込んでいますから、辞めようというインセンティブは基本的に働かないですよね。

―テレビ局の記者と新聞記者との違い、難しさはなんでしょうか。

安倍:「取材して記事を書く」という意味では同じです。アナウンサーがスタジオで読むための、長くて1分半分、短ければ30秒分程度の原稿を現場で書いて送稿します。最近では映像とともにウェブサイトに掲載されている記事も、記者が書いています。

ただ、テレビの場合は、画面に出てリポートする、“しゃべってなんぼ”という部分が新聞記者と圧倒的に違います。また、新聞記者は原稿の締め切りが、朝刊と夕刊の1日2回しかありませんが、テレビは締め切りがありません。24時間"常在戦場"で、何かあれば記事を書いて、必要であれば画面に出てしゃべるというのが特徴だと思います。

さらに、リポートを撮るということになると、現場にカメラマンが来て、その前でしゃべる。その映像が本社で編集され、オンエアされます。大きな事件・事故の場合は、現場に中継車が来て、生中継でしゃべるということもあります。NHKなどでよくみられるように、スタジオで記者が解説するというケースもありますから、そういう意味では、新聞記者と比べて特殊な技能を要求されるかもしれません。

今、お話ししたような内容が、本来のテレビ記者の仕事なんですが、おっさんの記者が出てきて噛みながらしゃべるよりも、若くて爽やかな男性アナや女子アナが出てきて「こちらが現場です」って言う方が良いでしょ、という視聴率至上主義、VTR至上主義になってきたために、そういう機会も減り、記者の存在感が薄れてきています。

こういう状況が、まさに最初の質問のような、テレビの記者ってあまり見ないけど何をしているんだろう、という疑問が生まれる理由になっているんだと思います。

"ニュース"と"ワイドショー"は何が違うのか?


―視聴者にとっては、"ニュース"と"ワイドショー"の境界は曖昧です。同じだと思っている人もいると思いますが、内部で制作している人間は、どのように切り分けて考えているのでしょうか。

安倍:確かに一般の人にはわからないと思いますね。最近では"ワイドショー"のことを"情報番組"と言っていますが、まず、ニュース番組とは作っている部局が違うんですね。フジテレビの場合、情報番組である「めざましテレビ」や「とくダネ!」、「Mr.サンデー」は、情報制作局が作っています。そして、ニュース番組である「スーパーニュース」やお昼の「スピーク」、夜の「ニュースJAPAN」は報道局が作っている。

情報番組はほとんどが外注で、放送時間も長いので、ものすごい数の制作会社・スタッフが関わっています。系列によってはバラエティの制作局が作っているパターンもあると思います。フジテレビの場合も午前中は、朝4時台から11時半くらいまで情報制作局の番組で埋まっていますよね。

基本的に、取材して原稿を書いて、映像を撮っているのは報道局です。それらの素材が情報制作局に貸し出されています。もちろん情報制作局も独自でカメラを回すんですが、一次素材は報道局が持っています。作っている人達は自分の番組だけを意識していますから、他の部署の番組については特段意識していません。ですから、視聴者の"全部同じフジテレビが作っているもの"という認識は、テレビマンにはあまりないのではないでしょうか。

トップや役員は両方を見ていますが、報道と情報制作が連携を密にしていないことには、問題があると思います。

「10分以上視聴者を惹きつけられる面白いネタはそうそうない」

―ネット媒体では、可愛い猫の写真はPV(ページビュー)を取るけれども、硬派な記事はあまり読まれない、というような議論があります。テレビ番組でも、硬派な報道は必要だけれども、あまり見られない、という議論があると思いますが、ニュース番組といえども、視聴率を意識しなければいけません。ドラマなどであれば、20%超えでヒットと報じられると思いますが、ニュース番組の場合はどのような基準で判断しているのでしょうか?

安倍:他局との相対比較、横並び、分単位で競争しているわけです。ただ、報道番組全般の視聴率は下がってきているような気がしますね。昔、幸田シャーミンさんと逸見政孝さんが出ていた頃の「スーパーニュース」や久米宏さんの「ニュースステーション」なんて、視聴率20%を超えたこともありましたから。

例えば夕方のニュース番組を見てみると、ストレートニュースの部分は少ないんです。初めの十数分くらいで、あとはエンタメやスポーツなどで構成されています。その理由は、(ストレートニュースだけだと)視聴率が良くないからなんです。

また、10分~15分くらいの"特報"ってあるじゃないですか。「xx警察24時」とか、「スーパーの万引きGメン」とか「500円ランチ」とか…。いわゆる定番のネタですよね。「銀座」「ハワイ」…みたいな、女性誌の特集と同じです(笑)。ああいう特報は、つい主婦の方たちなんかが家事をしながら見ちゃうんですよ。そこで視聴率が悪いと、その後のコーナーもずっと悪いですね。

もちろん新しい切り口を求めて編集会議もやって、各局が切磋琢磨しているんですけど、人を10分以上惹きつけられるような面白いネタはそうそうないんですよね。

―安倍さんが出演していた番組「BSフジLIVE プライムニュース」(2009年~)など、BSでは、一つのテーマを掘り下げたり、話題の経営者が2時間丸々しゃべるといった、挑戦的な取り組みも出てきているように思いますが。

安倍:そうですね。「プライムニュース」に関していえば、予想に反して非常に評判が良かったです。

あの番組は日枝会長直々のプロジェクトで、一人のゲストに2時間、徹底的に話を聞くというコンセプトの、「志の高い番組をやるんだ」とスタートしましたが、はじめは出演者も含め、「冗談でしょ」という反応でした。現場スタッフも社員も初めての試みでしたから、プレッシャーも大きかったです。

番組の知名度もありませんでしたし、取材で顔見知りになった経営者たちに企画書を持って周りましたが、一笑に付されました。どこも学生の時に落ちまっくた就職活動の時を思い出したぐらいです。

それでも、何とかゲストに出演してもらって、始めてみると、みなさん必ず「しゃべり足りなかったなあ」と言って気持よく帰って行くんです。つまり、それまでそういう場が無かったんですね。取材する側も見ている側も、インタビューが細切れになることにフラストレーションがあったんです。政治家にとっても、BSは全国どこの選挙区でも見られますから、メリットがあるんですよ。かなり早い段階で、津田大介さんにも出演してもらって、Twitterを画面に出すような、実験的なこともやりましたね。

ただ視聴者の中心はM3層、50歳以上男性なので、若い層、女性にも見て欲しいと思っていますけどね。

―NHKの場合「NHKスペシャル」がありますが、民放では、いわゆる調査報道など、時間をかけた取材や番組制作は難しいのでしょうか。

安倍:NHKさんは潤沢にお金がありますからね。「『クロ現』みたいなのをやりたい!」とも思いますが、民放の場合は取材費が増える状況でもないでしょう。もちろん人を増やして、調査報道や解説に軸足に置くべきだと思いますけれどもね、難しいですよね。

フジテレビだって1,400人の社員のうち、報道局は150人~170人くらい、記者は海外の特派員も入れて50人~80人くらいです。逆に言うと、その人数でよく毎日放送しているなと思います。地上波が報道にシフトしていくとは思えないので、ジャーナリスティックなものはBSとか、住み分けが進んでいくのかもしれませんが。(※後編に続く)

■プロフィール

安倍 宏行(あべ ひろゆき)
ジャーナリスト、「Japan In-Depth」編集長。1955年東京都生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、日産自動車入社。1992年フジテレビ入社、報道局取材センター記者。経済担当キャップ、政治担当キャップ、ニューヨーク支局特派員・同支局長、経済部長を経て、2006年解説委員。2002年からはニュースジャパンのキャスター、2009年からはBSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターも務める。2013年9月、フジテレビを退社、株式会社安倍宏行を設立。

リンク先を見る
絶望のテレビ報道 (PHP新書)
posted with amazlet at 14.08.08
安倍 宏行
PHP研究所

Amazon.co.jpで詳細を見る