※この記事は2011年07月16日にBLOGOSで公開されたものです

　暑い。

　震災絡みで電力が大変になっているときぐらい、冷夏になってくれてもいいと思っていたが、そんなささやかな願いも空しく、とにかく暑い。

　節電がどうのと言うけれども、身体を壊しては元も子もないので、クーラーをしっかり使って、そのかわりにテレビを消して、無駄なワイドショーなどを見ない方が、身体にも頭にも良くて、一石二鳥だろう。

　さて、こんな暑い夏には、海で遊んで涼しくなりたいものだが、神戸市須磨区の須磨海水浴場では、今年からタトゥーの露出が禁止になり、海開きがあった７日には、13人に対してタトゥーを隠すように指導したという。(*1)

　銭湯やプールならともかく、海水浴場という公共の場でのタトゥー禁止は珍しいなと思って興味をもったのだが、去年の神戸新聞の記事(*2)によると、海水浴場への入場者数減る中で、音楽などの若者向けのイベントが行われ、家族連れが敬遠する傾向があった。そして、海の家のイベントで麻薬所持や使用(*3)で取り締まられる若者がいたことから、若者に対する牽制として、タトゥーを付けた若者の入場を規制し、家族連れを呼び込もうということで、タトゥー禁止のルールができたという。

　また、海水浴場にありがちな花火の音やゴミのトラブルなども、禁止項目の追加の原因のようだ。(*4)


　暑い時期になると、開放的になる若者が多くなって、周囲に迷惑をかけるというが、それは親子連れでも同じことであって、海ではみんな非日常を楽しんでいるのであり、そうした場所では騒音やゴミの問題が必ず発生して、近隣住民から苦情が行くようなことになる。

　しかし、それは「騒いだり、ゴミを片づけない悪いヤツがいる」ことではなく、海という「ハレ」の場所が、誰かの日常生活、すなわち「ケの場所」と近すぎることが、問題なのではないだろうか。

　お役人にとっては「利用者がマナーを守ればいい」ということになるのだろうが、若者や家族連れ、というか人間というのはそんなに行儀よくできている存在ではない。暑い日差しと青い空の下の解放感を味わえば、自ずと日常から開放され、その振る舞いから理性が失われて行く。海が観光資源になったり、その周辺の商店にお金が落ちるのは、そうした開放による理性のタガが外れた結果としてである。

　マナーを守るという理性と、来場者のタガが外れて海が観光資源として成立する状態が両立すると考えるのは、どう考えても無理がある。

　ならば、そのような不可能なことを考えるのではなく「ここはハレの場」「ここはケの場」としっかりゾーニングし、ケにハレを、そしてハレにケを持ち込まないようにと、考える必要があるのではないか。

　たとえば海岸の周囲１キロぐらいを居住禁止にし、音を防ぐ壁などを建てて、花火や音楽イベントなどを安心して開ける場所にするような工夫はできないものか。


　私は「ハレの場なんだから、マナーとかルールなどという堅苦しいことは言うな」と主張したいわけではない。ハレの場にもそれなりのルールは必要である。また当然、薬物の利用や暴力行為を認めるわけではない。

　しかし、ハレの場にケの論理を一方的に持ち込み「これは迷惑だからマナーを守りなさい」と一方的に取り締まるのでは、海岸という観光資源の魅力が失われることになりはしないだろうか。

　ただでさえ近年は、マナーに厳しい風潮がある。

　街では気軽にタバコも吸えなくなったし、公園で子供たちが遊んでもうるさいと苦情が来るという。そうしたケの場が人々をぎゅうぎゅうと締めつける中で、海岸のようなハレの場所だけは、あまり細かい規制を作らず、開放的であって欲しいと考えるのは、ワガママだろうか？


*1：須磨海水浴場　条例で規制のタトゥーの１３人に指導（スポーツニッポン）http://www.sponichi.co.jp/society/news/2011/07/08/kiji/K20110708001172130.html
*2：須磨の海タトゥーお断り　神戸市が規制検討へ（神戸新聞）http://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/0003384770.shtml
*3：兵庫・須磨海水浴場に覚醒剤注射器　使用容疑で女に逮捕状（産経新聞）http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110706-00000635-san-soci
*4：須磨海水浴場が海開き　マナー向上にあの手この手（神戸新聞）http://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/0004246085.shtml