アメリカ大統領専用車「ビースト」とは?

オバマ氏やトランプ氏が乗ったキャデラック プレジデンシャルリムジン(2009年)

アメリカ合衆国の大統領専用車両「ビースト」は「プレジデンシャルリムジン」とも呼ばれる、最高峰のセキュリティが施された特別なリムジンのことです。様々なGM(ゼネラル・モーターズ)車をもとにして作られてはいますが市販車としては流通しておらず、既存車種から車名を踏襲しないオリジナルモデル。

大統領専用機が「エアフォース・ワン」と呼ばれていることから、大統領専用車を「キャデラック・ワン」と呼ぶこともあります。

ビーストはアメリカ国内だけでなく、アメリカ大統領が他国で陸路を移動する際も使用されます。

トランプ前大統領が2019年5月に来日した際、都内の移動手段としてビーストが登場したことでテレビやネットで話題に。2022年5月にバイデン現大統領が来日したことで再び話題になっています。

アメリカ大統領が「ビースト」で移動する際の特徴

アメリカ大統領がビーストで移動する際の特徴をいくつかご紹介します。

■①車列には常に2台のビーストが!

こちらは、2018の5月の伊勢志摩サミットで撮影された、大統領専用車を警護する車列とビーストです。

車列にはビーストが2台いますが、これは大統領がどちらに乗車しているのか分からなくすることで、外敵からの攻撃に備えるという意図があります。

これと同様に、大統領専用飛行機「エアフォース・ワン」も2機用意することでリスクを分散させています。

■②「ビースト」は前後に異なるナンバープレートをつけている?

外交官ナンバープレート

国によってはアメリカのナンバープレートのまま走行できる国もありますが、日本だとビーストには外交官ナンバーが装着されます。

その際、車両が特定されるリスクを少なくするため、前後に異なるナンバーをつけるとのこと。

2018年11月5日のトランプ前大統領が初来日した際、国内での移動に用いたビーストは前後に異なるナンバーを付けていたそうです。

大統領専用車「ビースト」のスペックや価格は?

レーガン大統領が使用した1983年モデルのキャデラック・フリートウッド

アメリカのトップである大統領を守るために、最新鋭の装備と最高の防御力を備えているという「ビースト」は、そのスペックのほとんどが最高機密となっています。

「ビースト」はキャデラックのリムジンですが、大統領専用車としての特別仕様になっています。一般に公開されているわずかな情報から判明している、「ビースト」のスペックは以下の通りです。

GMCのピックアップトラック「トップキック」のシャシーに、キャデラックのボディを乗せ、サイズは全長5.5m、全高1.8m、車両重量は約8トン。まさに「ビースト」の呼び名に相応しい巨体です。

■「ビースト」の車両価格

推定車両価格は日本円にして1億7,000万円と海外メディアが報じている一方、トランプ氏はビーストのアップデートに17億円以上かけたとも報じられています。

推定ではありますが、世界を守る役目もある大統領専用車ですから、これぐらいの金額は妥当かもしれません。

■まるで動くシェルター!ドアの厚さは20cm以上

大統領専用車は、あらゆる攻撃から大統領を守るための「動くシェルター」とでもいうべき防御性能を持っています。

まず、車体全体がチタンやセラミック、特殊鉄鋼を素材とした、厚さ5インチ(12.7cm)の複合装甲で覆われており、ロケット砲や爆弾の爆発でもびくともしません。ドアの厚さは20cm以上、防弾ガラスの厚さも12cm以上あるとされ、ドアだけでもかなりの重量があります。

また、タイヤにはグッドイヤー製のランフラットタイヤが採用されており、銃弾を受けてパンクをしたとしても、100km以上の距離を走ることが可能です。

さらに、核・生物・化学兵器(NBC兵器)への対策も万全で、車内は完全な気密性があるとされており、車内の空気は常に清浄に保たれます。

そして、暗視カメラや酸素ボンベ、輸血用血液製剤といった緊急用の装備や、催涙弾やショットガン等の大統領を守るための銃火器も搭載しています。

大統領専用車は、これらの装備によって重量が増加したために、最高速度は約100km/h、燃費は約2.8km/L程度だとされています。なお、8トンというヘビー級の車体を動かすエンジンには、燃料が発火しにくく、トルクの大きいディーゼルエンジンが採用されており、燃料タンクには自動消火装置まで備えているそうです。

■移動司令室としても使える最新通信機器を搭載

キャデラック プレジデンシャルリムジン(1996年)

あらゆる攻撃を防ぐ防御性能を持った大統領専用車ですが、当然、通信機能も最高レベルのものを搭載しています。

まず、地球上のどこだろうとネットワーク通信と電話を利用することができる衛星通信システムが搭載されており、核ミサイルの発射も車内から命令できます。当然、最高レベルの高度な暗号化が行われているので、ハッキングや盗聴はまず不可能でしょう。

たとえホワイトハウスが壊滅しようとも、大統領がビーストで脱出さえしていれば、そこが新たな指令室として機能するのです。

最新のビースト(キャデラック・ワン)は2018年に登場

新型のビースト(キャデラック・ワン)は2018年にデビューしていました。当時の大統領だったトランプ氏は就任当時、2009年製のビーストに乗っていましたが2018年からは最新モデルに乗っています。バイデン大統領が乗っているのもこちらのモデルです。

約9年ぶりのフルモデルチェンジとなったビースト。次回の刷新ではどういった最新機能を備えるのか注目。もしかしたら次期型ビーストは電気自動車になって登場するかもしれません。