アクティビジョン・ブリザード(Activision Blizzard)のeスポーツリーグ「オーバーウォッチ・リーグ(Overwatch League:以下、OWL)」が、NCAA(全米大学体育協会)の戦略を取り入れている。

5月6日に開幕したOWLのレギュラーシーズンへの関心を高めて人々を呼び込むため、NCAAの「マーチ・マッドネス(March Madness、男子バスケットボールトーナメントのこと)」の時期に行われるトーナメント結果予想コンテストに似たコンテスト「ピッケム(Pick'em)」に改変を加え、コンテストに参加したファンに賞金とゲーム内特典を提供することにしたのだ。

OWLは今回が5シーズン目で、アクティビジョン・ブリザードの人気FPSゲーム「オーバーウォッチ(Overwatch)」の続編「オーバーウォッチ2(Overwatch 2)」が初めて競技に使用される。ピッケムの開催は2回目だが、2020年に初めて行われたときは、OWLのファンから高く評価され、ソーシャルメディアで話題となった。「(1回目のピッケムが)とても好評だったため、その経験を活かしてよりエキサイティングなものにするだけだった」と、アクティビジョン・ブリザードのeスポーツ部門でブランドマーケティングディレクターを務め、このコンテストの立ち上げを主導したエレノア・フォルティエ氏は話す。

効果的なマーケティングツール



今回のコンテストは1回目とよく似ているが、ちょっとした変更が加えられている。コンテストの勝者に賞金を贈るだけでなく、ゲームで使えるスキンやほかのゲームアイテムの購入に使用できるトークンといったゲーム内賞品を提供することにしたのだ。また、参加のハードルを下げるため、ピッケムの機能をOWLのモバイルアプリに初めて統合した。

「ゲームの状況がわかるだけでなく、自分の予想がどれくらい当たっているのかを確認できるため、ますます夢中になる」というのは、eスポーツ・エンジン(Esports Engine)のデジタルおよびソーシャルメディアマネージャーで、長いあいだピッケムを熱心に利用しているマシュー・シフレット氏だ。「私たちがeスポーツを好きな理由は、とにかく競争が好きだからだ。つまり、競争できる場所がもうひとつ増えたことになる」と、同氏は話す。アクティビジョン・ブリザードが勝者予想コンテストのピッケムを導入するまで、シフレット氏は友人とともに、Discord(ディスコード)のサーバーからエクセル(Excel)のスプレッドシートを引っ張り出し、自前の予想コンテストを楽しんでいた。そして、2020年にOWLの公式なコンテストが始まると、すぐに参加したという。

アクティビジョン・ブリザードにとって、ピッケムはOWLのファンに新たな楽しみを提供するだけでなく、OWLとオーバーウォッチ自体のための効果的なマーケティングツールとなっている。オーバーウォッチに関する知識のない新たなファンを取り込むことは難しいだろうが、今のファンにこのゲームへの関心を深めてもらい、積極的な参加を促す効果はある。「私の大雑把な推測では、プレイヤーの半分以上、それに視聴者の半分以上がコンテストに参加しており、エンゲージメントは週を追うごとに高まっている」と、フォルティエ氏は語る。

eスポーツ組織は伝統的なスポーツのモデルから徐々に脱しつつある。だがピッケムは、マーチ・マッドネスやテニスのメジャー大会のトーナメント予想「ラケット・ブラケット(Racket Bracket)」のような伝統をうまく取り入れたマーケティング戦略の一例だ。また、無料で楽しめ、子供も参加できるオンラインスポーツベッティングやeスポーツベッティングへの関心が高まっている最近の状況にうまく乗っているともいえる。

公平で本物のイベントでこそ効果を発揮する



「広告主からは、オンラインギャンブルの複雑な法的問題に対処することなくこの分野に参入できる、きわめて安全性の高い手段と見られているようだ」と、カルチャーイベントやゲームを専門とするエージェンシーのOSスタジオ(OS Studios)でクリエイティブ責任者を務めるエリック・フィッシュマン氏はいう。同氏はかつて、アクティビジョン・ブリザードの放送およびコンテンツ担当プロデューサーだった人物だ。

実際、伝統的なスポーツがブランドスポンサー付きでリプレイ映像を流しているのと同様に、ピッケムが盛り上がって参加するファンが増えれば、彼らにブランドを紹介できるパッケージ製品としてピッケムを大手企業に売り込める可能性がある。OWLが以前のように大手企業のスポンサーを獲得できていない今、ブランドがeスポーツへの理解を深め、ありきたりな提携を結んだり、単なるロゴ掲載に意味がないことに気づくにつれて、ピッケムのような機能はOWLが今も大きな影響力を持ち、競技ゲームコミュニティで高い認知度を誇っていることを示す存在となるはずだ。

「営業面だけを考えれば、どのスポンサーも多くの関心と多くの注目が集まる場所に関わりたいと考えている」と、フィッシュマン氏は話す。「このような製品は確実に売れるし、スポンサーも利用したがるはずだと私は確信している」

アクティビジョン・ブリザードは、ピッケムにOWLへのファンの関心を高めるマーケティングツールとしての価値があることをすでに証明している。今後は、スポンサーシップに関する問題を解決するために、こうした補完的な取り組みを通じて視聴者の体験を強化して関心を高め、ブランドパートナーを積極的に呼び込むのが有効かもしれない。「賞品のようなものが追加されるのは、素晴らしいことだ」と、シフレット氏はいう。「ただし、それがうまくいくのは、公平で本物のイベントだと感じられる場合に限られる」と、同氏は語った。

[原文:How the Overwatch League is generating fan engagement with a March-Madness-style bracket contest]

Alexander Lee(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:分島翔平)