2022年4月、Appleはユーザーが自分の手でiPhoneを修理することができるようになる「セルフサービス修理プログラム」をスタートしました。このプログラムではiPhoneを修理するためのディスプレイやバッテリー、カメラといったパーツが提供されているのですが、実際にプログラムを通じてiPhoneの修理に挑戦した海外メディアのThe Vergeが、「Appleはユーザー自身の手で端末を修理することを望んでいないのでは」という感想をもらしています。

Apple shipped me a 79-pound iPhone repair kit to fix a 1.1-ounce battery - The Verge

https://www.theverge.com/2022/5/21/23079058/apple-self-service-iphone-repair-kit-hands-on

Appleはこれまで故障したApple製品を修理する方法を、「Appleに郵送する」「直営店舗であるApple Storeで依頼する」「正規サービスプロバイダとして登録された代理店に依頼する」の3つに限定していました。しかし、世界的な「自分が所有する製品は誰でも自分で修理する権利がある」と主張する動きの拡大により、Appleは最終的にセルフサービス修理プログラムをスタートすることになりました。「これはDIY支持者にとって大きな瞬間であったものの、実際に修理プロセスを試した身から言わせてもらうと、このプログラムはまったくオススメできません」とThe Vergeは報じています。

The Vergeによると、Appleの修理プログラムが提供する修理キットは「従来のDIYとはかけ離れています。修理マニュアルにはApple独自のツールの説明しか含まれていません」とのこと。Appleがユーザーに送付する修理キットは以下のように非常に巨大で、The Vergeは「ドライバーなどの工具が入った小さなボックスが送られてくるものかと思っていたら、巨大な2つのトランクケースが送られてきた」としています。



この2つのケースの中に入っている修理キットが以下の通り。



iPhoneを分解するために最初に使うのが以下の機器。この機器はiPhoneを温めてディスプレイの接着剤を溶かすためのもの。以下の写真で手で持っているのがiPhoneを収納する「加熱ポケット」で、ここにiPhoneを入れることで熱が均等に分散するようになっている模様。そして加熱ポケットの下にある赤色のセーフティダイヤルをひねると、ディスプレイをはがすための「吸盤付きリフトアーム」が降りてきます。



加熱ポケットに降りてきたのが「吸盤付きリフトアーム」。



実際にこの機器を使ってiPhoneのディスプレイをはがそうとしたThe Vergeは、「この機器はディスプレイをはがす際にエラーコードを吐きましたが、マニュアルにはエラーコードが出た際に何をすればいいのかについて説明がありませんでした。そのため、私はiPhoneを2度加熱することになりました。それでも吸盤付きリフトアームがディスプレイガラスをすぐに持ち上げることはなかったため、吸盤付きリフトアームについているノブを回したところ、ディスプレイ全体にひびが入ってしまいました」と記し、マニュアルに詳細な説明がないため誤った操作でディスプレイを割ってしまったとしています。

ディスプレイをはがすことができたら、小型のカッターを使って接着剤をカットする必要があるのですが、「マニュアルにあるように片手でディスプレイを持って接着剤をカットすることはできなかった」とThe Vergeは記しています。



また、修理キットにはiPhoneのネジをきつく締め過ぎないようにするための専用ドライバーも付属しているのですが、The Vergeは「Appleはユーザーの手で修理することが困難になるように、ディスプレイを取り外すためだけに3つの異なるドライバービットを使用しており、このビットはどれもネジが滑らないよう磁化されていません」と不満点を挙げています。



ディスプレイを取り外して不要な接着剤を除去した状態のiPhoneがコレ



さらに、ここからリチウムイオンバッテリーを取り付ける専用機器を使用してバッテリーを設置します。The Vergeは「長いアームを備えたバッテリープレス機を使って新しいバッテリーを設置することになっているのですが、私は手でこれを行うことができたでしょう」と記しています。

次に、ディスプレイを本体に設置するためのプレス機を使用。しかし、「プレスを使用してもディスプレイとフレームが完全に一致することはありませんでした。おそらく余分な接着剤を取り除くことができなかったためです」とThe Verge。



その後、ディスプレイを接着したあとに電源ボタンを押したもののディスプレイは点灯しなかったそうで、「Appleはバッテリーとディスプレイコネクタが正確に接続されているかどうかをテストするプロセスをマニュアルに書いていなかったことに気づきました」とThe Verge。

iPhoneのディスプレイが点灯してからも、「交換したバッテリーがApple純正品として認識されなかった」とThe Vergeは記しています。これを直すには修理完了後にAppleのサードパーティーロジスティックに電話をかけ、部品を検証する必要があるとのこと。iPhoneを診断モードで再起動し、サードパーティーロジスティックにリモートアクセスしてもらう必要があるため、「自宅で自身の端末を修理する意味とは」とThe Vergeは記しています。

なお、修理キットを1週間レンタルするのに49ドル(約6300円)かかり、修理パーツの料金はAppleの提供する修理サービスの料金と同じであるとのことで、「ハッキリ言って、iPhoneのバッテリーを新しいものに交換したいだけの人にとって、自身の手でバッテリー交換修理を行うことは馬鹿げたリスクのある行為であると言えます」とThe Vergeは記しました。