射程伸びたのは軽くしたから? 北朝鮮「新型ICBM」発表に「フェイク」の可能性
北朝鮮が2022年3月24日に発射し、新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」型だと主張しているミサイルは、実は既存のICBMを発射したに過ぎないとの見方が韓国で出ている。
北朝鮮は13年の中央委総会で、核開発と経済建設の「並進路線」を打ち出し、17年に「火星15」の発射に成功したとして「国家核戦力の完成」を宣言。18年4月には核実験とICBMの発射中止を表明していた。仮に今回発射されたミサイルが新型でないとすれば、自国の技術を偽装してでも瀬戸際外交への回帰を急いでいるとも言えそうだ。
「17」のエンジンノズルは4つなのに「火星15型と同様に2つであることを確認」
北朝鮮がICBMを発射したと主張するのは、17年11月の「火星15」以来、約4年半ぶり。北朝鮮の発表によると、「15」は高度4475キロまで上昇し、950キロ飛行した。日本側の分析でも、高度は約4000キロ、1000キロにわたって飛行したとみている。高い角度で打ち上げて飛距離を抑える「ロフテッド軌道」をとったとみられ、専門家は
「これら(飛距離と高度)が正しく、もしロフテッド軌道ではなく通常軌道で発射されたとしたら、ミサイルの射程は1万3000キロ以上だろう」
として、
「ワシントンDCや、実際に米国全土に届くのに十分だ」
とみていた。
これに対して「17」は、北朝鮮側の発表によると、高度は6248.5キロ、飛距離は1090キロ。日本側も最高高度6000キロ、飛距離1100キロ超と分析している。北朝鮮は「周辺国家の安全を考慮してロフテッド軌道で行われた」と発表。日本政府は、仮に通常軌道で発射した場合は1万5000キロを超えるとみている。こういった経緯から、岸信夫防衛相は3月25日朝の記者会見で、「17」を
「これまでの一連の発射とは次元の異なる、わが国、地域及び国際社会の平和と安定に対する深刻な脅威」
と述べた。
ただ、3月27日になって、「米韓当局の分析」として、こういった前提に疑問符をつけるような報道が韓国で相次いでいる。「17」は20年10月の軍事パレードで初公開され、その時点でエンジンノズルが4つあることが分かっている。だが、聯合ニュースによると、今回発射されたICBMについて「火星15型と同様に2つであることを確認」。17年よりも弾頭を軽くして「15」を発射し、「17」が飛んだかのように偽装した可能性を指摘している。
日本政府「現時点で分析に変更はない」
KBSテレビは、大きく2つの問題を指摘している。一つ目が発射時の気候の問題。北朝鮮は、「17」は平壌国際空港から発射したと主張しており、国営メディアが公表した発射時の写真は晴れていた。だが、発射された3月24日午後の平壌の天気は曇りだった。さらに、写真に映り込んだ発射台の方向から分析すると「(撮影されたのは)午前である可能性が高い」と指摘している。つまり、北朝鮮は実際の発射場面とは別の写真を公表した可能性がある。
2つめが実験失敗からの間隔が短すぎる点だ。韓国政府は、北朝鮮が22年に入ってから3回にわたって「17」の性能実験を行ったとみている。特に3回目の3月16日の実験では、空中爆発を起こしたと分析している。そのわずか8日後に再実験を行うのは難しい、という見立てだ。KBSテレビは、
「失敗した場合、設計データを検討して原因を把握するのに2〜3か月かかる」
という識者の分析を紹介している。
ただ、KBSテレビは、北朝鮮が「15」を「17」に偽装したとの見方には懐疑的な声も伝えている。北朝鮮の国営メディアは、金正恩総書記が「『火星砲-17』型の試射を断行することに関する親筆命令を下した」と報じている。この点を理由に、
「いくら北朝鮮が統制社会であっても、金正恩が直接指示したことが偽であったことが広がれば体制に大きな影響がある」
という指摘だ。
今回のミサイルは移動式発射車両(TEL)から発射されており、聯合ニュースは「北朝鮮がTELを利用してICBMを発射したのは今回が初めて」だと指摘している。仮に発射されたのは「15」であったとしても、機動性が増して事前の探知が難しくなったという点では、脅威は増している。
松野博一官房長官は3月28日午前の記者会見で、韓国の報道に対する見解を問われ、
「政府としては飛翔の高度などを含め、諸情報を総合的に勘案した結果、今般発射されたミサイルは、新型のICBM級の弾道ミサイルであると考えており、現時点で分析に変更はない」
と答弁している。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)