急速普及のスマートロック、実は思わぬ落とし穴も!? ユーザーへの取材で浮かび上がる「格差」問題
スマートフォンやICカードで錠の開閉ができる“スマートロック”。2021年11月18日、都内の会場で国内における主要スマートロック製品の一つ『Qrio Lock』の新製品が発表された。
その中で強烈な存在感を示したのが『Qrio Pad』である。『Qrio Lock』のセット製品である『Qrio Pad』は、デジタル式の暗証番号キーを搭載する。これにより、鍵を忘れてしまったときの締め出しを防止できる。
スマートロックは、一般家庭でも普及しつつある。特殊な工事を必要とせず、その気になれば自分の手で設置できるIoT機器だ。古い型の錠前も、まるでホテルのようなオートロックにすることができる。
一軒家からアパートまで、今やごく普通の家庭がスマートロックを設置する時代になっている。言うなれば、我々現代人は「錠前革命」を目の当たりにしているのだ。
人類の歴史は錠と共に
画像:Anna-Mari West/Shutterstock人類の歴史において、「錠と鍵」は欠かせないものである。
全ての人間が善良な心の持ち主ではない以上、自宅のセキュリティーはどうしても考慮せざるを得ない。留守中の自宅の安全を守るのは、今も昔も専ら玄関の錠前である。しかし、だからといって複雑過ぎる解錠方法では利便性に欠けてしまう。錠とは堅牢さと解錠の容易さを兼ね備えていなければならない。
東洋では古代から利用されていた海老錠は、極めてシンプルかつ合理的な仕組みの錠である。本体内部に挿入する牡金具の先端はV字型のバネになっていて、その傘が横の取っ掛かりに当たって牡金具自体が抜けなくなるという仕組みだ。鍵はそのV字バネの傘を閉じるような円環状になっている。
機構自体はかなり単純だから、熟練の錠前師にかかればすぐに破られてしまうという欠点もある。そこで昔の職人は、鍵穴の場所が一目では分からないような錠を開発した。鍵穴がどこにあるのか判別できないようにすれば、泥棒はそれを探すのに時間を奪われてしまう。こうした技巧的な錠前は、現代ではネットオークションで出品されていることもある。
鍵があれば簡単に開けられるが、そうでなければ難攻不落とも言うべき難易度の錠前。これはある意味で「人類の夢」とも言える製品だ。スマートフォンやICカードがあれば簡単に開くが、錠が閉まる物理的な仕組みがあるわけではなく、鍵がなければなかなか開けられないスマートロックは、安全性や利便性が高いと言えるだろう。
しかし、そこには懸念すべき点もある。
問題は「大家さん」
画像:筆者撮影「『Qrio Lock』を購入したのは、確か2年前だったかな? ええ、ものすごく便利ですよ」
そう語るのは、都内在住の30代会社員Aさん。ワンルームのアパートに暮らす男性で、その玄関には『Qrio Lock』が設置されている。
「まずはオートロックである点と、スマホを使って解錠できる点。これは本当にすごいと思います。セキュリティー面で不安に感じたことはないですね。」
それまではIoT製品に一切縁がなく、そもそも「IoT」という単語の意味すら知らなかったというAさん。今ではスマートロックのない生活は考慮できないという。
「僕はよく、玄関の鍵を閉め忘れてしまうということがありましたから……。でも、懸念していることもあります。それは僕のアパートの大家さんが、かなり保守的な人物ということです。」
『Qrio Lock』が特殊な工事を必要としない製品ということは前述した。しかし、それを集合住宅の経営者がしっかり認識しているかどうかというのは別問題だ。「勝手に玄関を改造したのでは?」という疑念を持たれてしまうらしく、Aさんがその誤解を是正しようとしてもなかなか納得してくれないという。
「自分がスマートロックというものを導入するようになって、そういう意識格差が見えてきたというのは自覚しています。恩恵ばかりじゃないんです。何て言うんだろう……それを持っている人と持ってない人との間に溝がある、という感じかな?」
「使える人」と「使えない人」の格差
画像:筆者撮影『Qrio Lock』が利便性の高いスマートロックとして、その存在感を示しているというのは事実である。そして、スマートロックというものが今後より身近なものになっていくのは確実だろう。
しかし、そこにも意識格差や情報格差がつきまとう。
「アパートの経営者がIoTについてまったく知識のない人だったら」という問題は、スマートロックを導入する上で障害になってしまう可能性もある。また、これが公営の集合住宅だったらどうか? スマートロックを設置するためにわざわざ自治体の許可を得なければならないのか、という疑問も生じるだろう。自治体側の担当者が、スマートロックを知っているかどうかという問題もある。
また、もしもスマートロック自体に何かしらの通信障害が発生したら……という懸念もある。 実際につい先日、そのようなことが起こった。『Qrio Lock』を遠隔操作するためのデバイス『Qrio Hub』で、11月27日にネットワーク障害が発生。6日間に渡って遠隔解錠ができない状態が続いた。これはIoT製品故のリスクと言える。
現代の「錠前革命」は、人々のライフスタイルを大きく変革する可能性がある。それ故に、今まで問題にすらならなかったことが大きな懸念材料になってしまう場合もある。