ザ・ビートルズ最後のオリジナルアルバム『Let It Be』が、最新リミックスや未発表音源などを追加したスペシャル・エディションで再発。11月にDisney+で配信されるドキュメンタリー映画『ザ・ビートルズ:Get Back』と共に、これまで誤解されてきたセッションの過程に新たなスポットライトを当てている。今回のリイシューにおける聞きどころを掘り下げた、米ローリングストーン誌のレビューをお届けする。

1969年1月のある冷え込む朝、リンゴ・スターはロンドンにあるトゥイッケナム・フィルム・スタジオに入ると、「ごきげんよう」とバンドメンバーに声をかけた。「またいい天気だね。カメラさんも、おはよう」とご機嫌な様子だった。

ザ・ビートルズがスタジオ内で交わす何気ない会話からは、ファブ・フォーのありのままの姿を垣間見ることができる。彼らの個性的な魅力やメンバー同士の関係性が、くすんだステンドグラス越しに透けて見えてくる。「Youve Got to Hide Your Love Away」(邦題:悲しみはぶっとばせ)は、ジョン・レノンが書いた最も美しく心に染みるバラードの1曲だと言える。しかし『Anthology 2』に収録されたバージョンを聴くと、誰もが笑わずにはいられないだろう。ジョンが曲を始めようとしたところでポール・マッカートニーがグラスを落として割ってしまう。するとジョンは、即興のラップで場を和ませる。50年以上前のやり取りを聞いていると、史上最高のバンドも人間だったのだと実感できる。

『Let It Be』のレコーディングと撮影が行われたトゥイッケナム・スタジオにおける乱雑で和気あいあいとした雰囲気を伺えるのは、とても貴重だ。『Let It Be』の新たなスペシャル・エディションは、先にリリースされた『Sgt. Pepper』『the White Album』『Abbey Road』のボックスセットとは異なり、新たな事実を浮き彫りにする作品だ。バンドは解散寸前の状態だったが、グラスを割っても即興ラップで切り抜けるような雰囲気がまだ残っていた。

『Let It Be』5枚組ボックスセットは、書籍『ザ・ビートルズ:Get Back』(ネタバレ注意:本書にはバンドが交わした会話も記録されている!)や、ピーター・ジャクソン監督による同名のドキュメンタリー映画(ネタバレ注意:当時のバンドはまだ仲が良かった)と共に、『Let It Be』誕生の軌跡を記録する資料となっている。各資料はバンドを巡るさまざまな謎を解く記録でもあり、特にアルバムのスペシャル・エディションからは、ポールが当初から目指していた音楽の理想像が見えてくる。「ザ・ビートルズを記録する理想的な形だ」とポールは、デラックス・エディション付属のハードカバー本の前書きで述べている。

4人が思い描いたアルバムの理想像

ポールはかつて、『Let It Be… Naked』(2003年)で、フィル・スペクターによるプロデュース作品への不満要素を排除しようとした。そして今、スペクターによる「ウォール・オブ・サウンド」が公式に解体され、グリン・ジョンズによるバンドのありのままの姿を捉えたオリジナル音源に置き換えられた。ボブ・ディラン&ザ・バンドによる『ザ・ベースメント・テープス』に似た生のクオリティが感じられる作品で、ザ・ビートルズのセッションでも同様のサウンドを目指したに違いない(当時ウッドストックでザ・バンドと交流のあったジョージ・ハリスンは、ソロアルバム『All Things Must Pass』の初期のテイクは「ザ・バンド風」だったと述べている)。スペシャル・エディションにはまた、「Dont Let Me Down」も収録されている。悲しいことにオリジナル版アルバムには収録されなかった作品だが、今回はルーズで騒々しいメドレーと珠玉の「Dig A Pony」の間の、本来あるべき場所へと戻された。

3枚目のディスク『Rehearsals and Apple Jams』では、ザ・ビートルズ後の展開を垣間見ることができる。ジョンが後にソロアルバム『Imagine』に収録した「Gimme Some Truth」に加え、ザ・ビートルズのアルバム『Abbey Road』に収められた「She Came In Through The Bathroom Window」や「Oh! Darling」などが聴ける。「Something」の歌詞が浮かばずに行き詰まったジョージがポールに助けを求めると、ジョンが割って入った。「頭に浮かんだものを口に出していけばいいんだよ。歌詞が決まるまでは、”カリフラワーのように魅惑して”みたいな感じで歌えばいい」とアドバイスしている。ジョンが、ソングライターとしての”ハリソングス”を心からリスペクトしている様子が伺える。ジョージの代表作『All Things Must Pass』へと導いたのは、ジョンなのかもしれない。

メンバー間の関係が険悪になり、1970年春、史上最高の伝説のバンドが公式に解散した。『Let It Be』セッション、アラン・クラインの失態、訴訟騒ぎ、カネを巡るトラブルを見ていくと、どうしてもジョンが豚にしがみつく姿を写したモノクロ写真が頭に浮かぶ。羊につかまるポールの写真を使った、ソロアルバム『Ram』のジャケットを皮肉ったものだ。それもこれも全て、「おはよう、カメラさん」とスタジオに入ってきたリンゴのひと言で洗い流された。そして、「Two of Us」(テイク4)のセッションが始まる。ポールが妻リンダのために書いたラブソングだが、レインコートを来て一人でお日さまの下に立つ、と歌うポールとジョンのハーモニーは、ザ・ビートルズ結成時のキラキラした友情を思わせる。『Let It Be』を通じてメンバーは、原点へと回帰したかったのだ。

From Rolling Stone US.


ザ・ビートルズ 
『レット・イット・ビー』スペシャル・エディション
発売中

(1)<スペシャル・エディション[スーパー・デラックス]>(5CD + 1ブルーレイ収録)
<輸入国内仕様/完全生産限定盤> UICY-79760 19,800円税込
●CD全57曲収録
●CD1:オリジナル・アルバム ニュー・ステレオ・ミックス:12曲
●CD2&3:未発表アウトテイク、スタジオ・ジャム、リハーサル:27曲
●CD4:未発表1969年『ゲット・バックLP』(グリン・ジョンズ・ミックス)新マスタリング:14曲
●CD5:『レット・イット・ビー』EP:4曲
●ブルーレイ:オリジナル・アルバム ニュー・ステレオ・ミックスのハイレゾ(96kHz/24-bit)、5.1サラウンドDTS、ドルビー・アトモス・ミックスのオーディオ収録
●ダイカット・スリップケース
●本文100ページの豪華ブックレット付
<日本盤のみ>
SHM-CD仕様 英文ライナー翻訳付/歌詞対訳付

(2)<スペシャル・エディション[2CDデラックス]>
UICY-16030/1 3,960円税込
●26曲収録
●CD1:オリジナル・アルバム ニュー・ステレオ・ミックス:12曲
●CD2:未発表アウトテイク、スタジオ・ジャム、リハーサル:13曲 未発表「アクロス・ザ・ユニヴァース」1970ミックス
●40ページのブックレット付
<日本盤のみ>
SHM-CD仕様 英文ライナー翻訳付/歌詞対訳付

(3)<スペシャル・エディション[1CD]>
UICY-16032 2,860円税込
●オリジナル・アルバム ニュー・ステレオ・ミックス:12曲
<日本盤のみ>
SHM-CD仕様 英文ライナー翻訳付/歌詞対訳付

(4)<スペシャル・エディション[LPスーパー・デラックス]>
<直輸入仕様/完全生産限定盤> UIJY-75215/9 25,300円税込
●全57曲収録(4枚の180g/ハーフスピード・マスタリングLP+45rpm 12インチEP)
●LP1:オリジナル・アルバム ニュー・ステレオ・ミックス:12曲
●LP2&3:未発表アウトテイク、スタジオ・ジャム、リハーサル:27曲
●LP4:未発表1969年『ゲット・バックLP』(グリン・ジョンズ・ミックス)新マスタリング:14曲
●EP:『レット・イット・ビー』EP:4曲
●ダイカット・スリップケース
●本文100ページの豪華ブックレット付
<日本盤のみ>
英文ライナー翻訳付/歌詞対訳付

(5)<スペシャル・エディション[1LP]>
<直輸入仕様/完全生産限定盤> UIJY-75220 5,500円税込
●オリジナル・アルバム ニュー・ステレオ・ミックス:12曲
●180g/ハーフスピード・マスタリングLP
<日本盤のみ>
英文ライナー翻訳付/歌詞対訳付

(6)<スペシャル・エディション[1LPピクチャー・ディスク]><THE BEATLES STORE JAPAN限定商品>
<直輸入仕様/完全生産限定盤> PDJT-1030 7,150円税込
●THE BEATLES STORE JAPAN限定商品
●オリジナル・アルバム ニュー・ステレオ・ミックス:12曲
●180g/ハーフスピード・マスタリングLP
●アルバム・アートのピクチャー・ディスク仕様
<日本盤のみ>
英文ライナー翻訳付/歌詞対訳付

ザ・ビートルズ日本公式サイト:https://www.universal-music.co.jp/the-beatles/