NTTドコモが解約金留保を廃止、総務省が「既往契約」の解消に躍起になる理由(佐野正弘)
さまざまな“縛り”があって解約しづらいとされてきた携帯大手の料金プランですが、2019年10月に施行された改正電気通信事業法によってその縛りが禁止、あるいは有名無実化されたことから、現在各社が提供する料金プランを契約すれば、そうした縛りを受けることはほぼなくなっています。
ですがそれ以前に提供されていた旧来の料金プランを契約している人は、現在も縛りの影響を受けているのも確か。例えば2年間の契約を約束する代わりに毎月の料金を引き下げる、いわゆる“2年縛り”のあるプランを契約している人は、同じプランを継続し続ける限り割引の契約も更新され、中途解約すると1万円前後の解約金がかかってしまうことに変わりありません。
ですがその旧プランの2年縛りに関して、2021年9月21日に解約金の廃止を発表したのがNTTドコモです。同社は1年、2年といった縛りのある定期契約プラン契約者が解約した場合、2021年10月1日より解約金を取らないことを明らかにしたのです。
また同社は2021年9月30日をもって、定期契約の仕組みがあるプランの新規受付も終了するとしています。実は4G向けの料金プラン「ギガホ プレミア」「ギガライト」などは現在も2年間の定期契約による値引きが存在、月額187円の割引が受けられる代わりに、途中で解約すると法改正後の解約金上限となる1100円が取られる仕組みなのですが、10月からは定期契約自体ができなくなるとのこと。その代わりとして、新たに毎月の料金支払いを「dカード」などにすることで、月額187円の割引が受けられる「dカードお支払割」が提供されるようです。
そしてもう1つ、解約金の廃止と同時にNTTドコモが打ち出したのが「解約金留保」の廃止です。解約金留保とは、定期契約のあるプランから、定期契約のないプランに移行したとしても、定期契約の契約期間が留保され、その期間内に解約すると以前のプランの解約金がかかってしまうというものです。
この解約金留保は法改正後、KDDIやソフトバンクが早々に免除する措置を打ち出した一方で、NTTドコモだけが継続していたため利用者から不満も出ていました。ですが先の発表によって、NTTドコモも2021年10月1日より解約金留保を廃止するとしており、例えば定期契約のあるプランから、定期契約のない「ahamo」に移った後に解約しても解約金がかからなくなるのです。
しかしなぜ、NTTドコモが法改正から2年が経過するこのタイミングで、旧プランの2年縛りや解約金の廃止に踏み切ったのかといいますと、そこに影響しているのが総務省です。先にも触れた通り改正法は、それ以降に提供された料金プランにしか適用されず、「既往契約」、つまり法改正以前のプラン契約者の縛りはそのまま残り続けている状況です。
ですが乗り換えによる事業者間競争を促進したい総務省は、法改正から2年が経とうとしているタイミングに合わせて法改正後のプランへの移行を促進するべく、有識者会議「競争ルールの検証に関するWG」で議論を進めていました。その中で総務省が問題視していたものの1つが、「不適合期間拘束契約」とする、縛りの影響が残る料金プラン契約者が、2021年3月時点で法改正直前と比べ5割程度残っていたことです。
そこで総務省は2021年9月17日、携帯3社に対して改正法の趣旨に沿った公正な競争環境の確保に向けた取り組みを要請しており、その取り組みの1つとして既往契約の解消、つまり法改正以前のプラン契約者を早期に新プランに移行することを求めています。中でもNTTドコモに対しては、大手3社で唯一継続していた解約金の留保を求めたようで、NTTドコモは総務省の要請を受けて移行促進を図るべく、解約金の留保に加えて解約金の廃止にまで踏み切ったといえるでしょう。
ですが総務省がより問題視しているのは、実はNTTドコモではなくKDDIとソフトバンクで、その理由は「不適合利益提供等」にあります。これは要するに48カ月の分割払いで端末を購入し、24カ月経過後に端末の返却に加え、機種変更をすることで残債の免除が不要になる、以前2社が提供していた端末購入プログラムのことを指します。
しかも法改正前の端末購入プログラムは、長期間の割賦に加え通信契約の継続も求められていたことから、2年縛り以上に契約者を強く縛る“4年縛り”だとして総務省から強い批判を集めていました。それゆえ法改正前に端末購入プログラムを適用してスマートフォンを購入した人は、端末代を支払い終わらない限りプログラム継続が求められ、それが理由で携帯電話会社を乗り換えられないという人も多くいる訳です。
その契約数は2021年3月末時点で、法改正直前と比べKDDIが75%、ソフトバンクが56%と高い割合で残っているのに加え、両社はともに現在の所、旧来の端末購入プログラム利用者に対して縛り要素を排する、あるいは緩めるなどの措置は打ち出していません。そうしたことから総務省は先の要請で、KDDIとソフトバンクには以前の端末購入プログラムを「速やかな撤廃について検討すること」と明記、早期の対応を求めているようです。
さらに総務省は、競争ルールの検証に関するWGの報告書「競争ルールの検証に関する報告書2021」で、既往契約の早期解消のためには、必要に応じて事業者の取り組みを今後の周波数割り当て、さらにはプラチナバンドを含む既存周波数の再割り当ての審査に活用することも「検討に値する」としています。2社の移行対応が進まない場合は、携帯電話事業の要でもある“電波”というカードを容赦なく切ってくることが考えられるだけに、今後2社が旧端末購入プログラム契約者に対して、どのような対応を打ち出すのか注目される所です。
ただ一方で、NTTドコモは先の発表で、解約金などの廃止と同時に「更新ありがとうポイント」の終了も打ち出しているのはユーザーにとってデメリットでもあります。これは2019年5月に終了した料金プラン「カケホーダイ&パケあえる」で定期契約ありの「ずっとドコモ割コース」を選択すると、定期契約更新の度にdポイントを3000ポイントもらえる仕組みで、利用者に長期間契約するメリットを与えるものでした。
ですが改正法では、長期利用割引の提供が1年に1カ月分の料金までと定められるなど、長期契約者にメリットを与えることにも制約が加えられています。それゆえかつては多く存在した長期契約者に対する特典の付与も、現在は大幅に減少してしまっています。
ただ同じ会社のサービスを長く、たくさん利用している“お得意様”に特典を与えるというのは多くの業界で実施されているもの。例えばコロナ禍前は国内外の取材で出張が多かった筆者は、飛行機に乗る回数が多かったことから航空会社のいわゆる「ステータス」を獲得し、有線搭乗やラウンジの使用などさまざまな特典を利用できていました。
一方で、筆者はある携帯電話会社を20年以上契約しているのですが、一連の措置によって契約継続の特典は現在、ほとんどなくなってしまっています。解約がしやすくなること自体が悪いことではありませんが、国がお得意様への特典を与えることまで規制するというのには、今でもかなりの違和感があるというのが正直な所です。
しかもこの決定には当時、総務省の有識者会議でも議論が紛糾したのを覚えています。乗り換えによる競争促進に前のめりになるあまり、長期契約のメリットまで失われてしまった現状が本当にいい状況なのか?という点には大いに疑問がありますし、何らかの見直しを求めたいというのが筆者の本音です。