左から辻仁成、市村正親、有村昆

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 キャリア志向の母親、イクメンの父親が増えてきたことで離婚後、これまで当たり前と思われていた子どもの親権の行方に変化が。父親が子どもを引き取る、そのための最適な方法とはーー。

【写真】福原愛、テレビで放送された夫との濃密キスショット

父親が親権を持つのは「厳しい」現実

 子どもの親権を手にする芸能人パパが増えている。イクメンで知られるココリコ田中や辻仁成。最近では72歳の高齢で2人の子どもの親権を持った市村正親や、浮気発覚で騒がれた有村昆のケースも話題になった。

 そもそも、親権とはどういった権利なのだろうか。離婚問題に詳しい高橋裕樹弁護士は、

「親権には法律上2つの要素があって、ひとつは子どもの財産を管理する財産管理権。もうひとつは親として一緒に住んで面倒を見たり教育をする身上監護権。例えば大学に入る資金については財産管理権で、どの大学に進むかは身上監護権。相互に関わってくるので、この2つをはっきり分けるのは難しいです」

 親権というとかつては母親が持つイメージが強かった。だが、昨今は父親側の親権獲得が増えているのであれば、その背景には、どんな理由があるのだろうか?「一般には父親が親権を持つのはなかなか厳しいのが現実です」というのは、夫婦・家族問題評論家の池内ひろ美さん。

「幼い子どもがいる場合、裁判所で争うとほぼ100%母親側に親権が認められます。母親側に有利なのが日本の法律。父親は養育費を払うことで離婚後の母子を経済的に支えるケースが多いです」

 高橋弁護士も、

「母性優先的な発想が日本の裁判所にはある」

 と指摘しつつ、

「親権獲得の判断材料となるのが、子どもの養育の状況や子どもとどれだけ一緒にいるか、懐いているかという部分。特に子どもが小さい場合、母親と接する時間が長いため、養育に適しているのは母親だと判断されるケースが多い。実際に判決を見ていても、裁判所が父親の親権を認める例は非常に少ないです」

 では、芸能人の場合が特別なのか? 父親側に親権が渡るのはどんな事情がある場合だろうか。

「母親が親権者として争わない場合と、争うことができない事情がある場合。父親側が親権を得るのは主にこの2つが考えられます」(池内さん)

 とりわけ近年増えているのが前者、権利を放棄するケース。子どもがいると仕事がしにくい、経済的に厳しいというのが主な理由で、時には新しい男性の存在があることも……。

「離婚の成立には長い時間がかかります。その間に浮気相手の存在がバレるとスムーズに離婚ができなくなる。加えて不倫をしているということで慰謝料を請求されてしまう」(池内さん)

 後ろ暗いところがある場合、ヘタに争えば不都合な真実が表沙汰になる。スクープの危険にさらされる芸能人ならなおさらで、父親に親権が渡った芸能人夫婦の多くは母親側にこの事情が当てはまりそうだ。

 しかしより深刻なのは後者、争うことができないケースだと池内さんは話す。

「父親側が経済的、あるいは社会的に強大な力を持っていて、母親が親権を主張することを許さない。跡取りが欲しいために父親が子どもを取り上げてしまう。私自身、相談を受けてきた中で、こういう男性はモラハラ的なタイプが多いので、そこで争うと嫌がらせをされるおそれがある」

親権者の変更は条件により可能

 親権を手にした有名人パパを振り返ると、跡取りが必要な家系が目立つ。強大な権力の前では母親も手出しができず、泣き寝入りを余儀なくされるというわけだ。ただし、

「1度親権が相手側に渡ったとしても、両者の話し合いまたは裁判所の決定により、親権者を変更することは可能です」(高橋弁護士)

 親権の取り戻しという手段に訴える道もあるのだ。安室奈美恵がその例で、離婚時は父親のSAMに親権があったが、3年後に安室が申し立てを行い、親権を獲得している。

 安室の場合、SAMが多忙なことと、彼が再婚することが変更の理由だった。しかし一般に親権者変更申し立ての理由になりうるのが、親権者側に虐待や精神疾患、経済面などの問題が発覚した場合。さらに離婚時の状況も申し立ての要素のひとつになるという。

「夫のDVに妻が完全に支配された状態で別れ、強引に親権を奪われるケースがままあって。こうした場合は是正を認める余地はあるでしょう」(高橋弁護士)

 このケースは問題が根深く、いざ訴えても解決が困難な側面も。高橋弁護士はこう続ける。

「元夫が怖くて申し立てまで時間がかかってしまうと父親との生活に子どもがなじんでいることがある。例えば小学生なら転校させるのかという話になり、最初は父親が強制的に得た親権だとしても、裁判所として介入する状況ではないという判断になりえます」

 親権を決める必要があるのは19歳までの未成年。婚姻中は父母の双方が親権を持つが、離婚時はどちらかを親権者として離婚届に記載する必要がある。親権が決まらなければ離婚もできず、親権の行方は話し合いか、決着がつかなければ裁判所の判断を仰ぐことになる。

「親権が一方に渡ると、もう一方が子どもに会える日=面会交流が双方の話し合いにより決められます」(池内さん)

 ただこれもすんなりとはいかないようだ。

「母親が親権者になると父親と子どもの面会は比較的穏やかにいくが、父親が親権を持つと母親は子どもにほとんど会わせてもらえなくなるのが実情です」(池内さん)

 どちらか一方が全親権を持つのが通常の例。ただ芸能界では、財産管理権を父親、監護権を母親が持つことで決着をつけた雛形あきこのケースもある。

「一般の方にもこうした判断をされる人はいます。ただ裁判になった場合はまず分散させず、一方に親権を与えます。そもそも夫婦関係が悪いから離婚するわけで、権利を分けると結局のところまた揉める。一方が管理したほうがトラブル回避になります」(高橋弁護士)

共同親権導入に立ちはだかる“壁”

 また、親権問題で近ごろ耳にするのが共同親権という言葉。2人の子どもを台湾人の元夫との共同親権にした福原愛や、棋士の橋本崇載が子どもの共同親権をSNSを使い訴えるなど、著名人の言動も注目を集めるきっかけになった。

「共同親権を求める男性は最近非常に増えています。全面的に子どもの面倒を見るのは大変だけど、母親だけが親権を持つのはズルイと主張する。これからの時代を象徴するケースですね」(池内さん)

 とはいえ日本では離婚後は単独親権、つまりどちらか一方が親権を持つよう法律で定められている。実際、

「今年2月に母親の単独親権は違憲だと訴えた男性がいましたが、裁判所はこれを退けています」(高橋弁護士)

 争ったところで勝ち目はまずないようだが、世界には共同親権を採用している国は多い。日本でも導入が叫ばれているが、池内さんは「少なくともあと10〜20年は導入されないでしょう」と予測する。

「導入の壁は戸籍の問題。離婚すると子どもは一方の戸籍に入りますが、共同親権となると戸籍法を変える必要がある。伝統や慣習など意識を根底から変えなければならず、日本人にはそぐわないのでは」(池内さん)

 高橋弁護士は現実面の問題について言及する。

「共同親権となった場合、子どもの住む場所や金銭面など実際の生活をどうするか。父母の意見が分かれると、子どもが板挟みになる危惧がある。まだ具体的な提言は少なく、議論の余地は多分にあると思います」

 芸能界で広まる父親の親権獲得の動き。一般には父親が親権を持つのは現状では難しいというが、今後はどうなっていくのだろう。

「一般にもこの傾向は広がっていきます。なぜならいくつになっても恋愛したい、働きたいと思う女性が増えているから。キャリアアップを考えたとき、子どもがいると難しい。人生をやり直したいと願う女性がいる一方、イクメンの増加や少子化の影響で男性の子どもに対する思い入れが強くなっている。男女双方の意識の変化が背景としてある」(池内さん)

 高橋弁護士も同じように、時代とともに変わっていくだろう、と語る。

「以前は父親の多くが親権を主張してもダメだとハナから諦めていましたが、男性も主張していいんだという風潮が生まれてきている。母親の親権優先という裁判所の基本的な判断は変わらなくとも、話し合いの中で父親が親権を持つ可能性が増えていくことは考えられます」

 父親側の親権獲得のハードルは日本ではまだまだ高い。しかし子育てに対する父親母親双方の意識の変化は顕著で、複雑化する状況に合わせた法整備などが必要になりそうだ。

(取材・文/小野寺悦子)