「妻子持ちと不倫」と職場で作り話を言いふらす同僚…名誉毀損になる?
同僚が妻の悪口を職場で言いふらしている--。はた迷惑な同僚に悩む男性からの相談が、弁護士ドットコムに寄せられています。
相談者の男性は、同僚女性であるAの紹介で現在の妻と出会い、結婚しました。しかし、Aは男性に好意があったようで、結婚前から妻の悪口や過去の失態などを話していました。
結婚後、Aの行為はさらにエスカレート。3人は同じ職場ですが、Aは妻について「去年妻子持ちと不倫をして子どもをおろしている」、「自分を差し置いて男性を奪い去った」、「男性に結婚をせがみ、妊娠を急がせた」など事実無根の話を職場で言いふらすようになりました。
そのため、妻は職場で肩身の狭い思いをしていて、仕事にも支障をきたしています。男性が辞めるよう警告しても止まらないことから、ついにAを訴えることにしました。はたして、Aの行為はどのような法的問題があるのでしょうか。櫻町直樹弁護士に聞きました。
●「妻子持ちと不倫した」は名誉毀損にあたる可能性
--職場の同僚が事実無根の悪口を言いふらしているそうです。どのような法的問題がありますか。
職場内において「去年妻子持ちと不倫をして子どもをおろしている」と言いふらす行為は、「妻子持ちと不倫した」という部分が名誉毀損に、「子どもをおろしている」という部分がプライバシー侵害にあたる可能性が高いでしょう。
--そもそも、名誉毀損はどのような時に成立しますか?
名誉毀損は、不特定または多数に対して(=公然と)、対象者の社会的評価(品性、徳行、名声、信用その他の人格的価値について社会から受ける客観的評価)を低下させるに足る事実または意見・論評を表明することで成立します。
「妻子持ちと不倫した」と職場内で言いふらす行為は、対象者(相談者の妻)の社会的評価を低下させるに足る事実を摘示するものといえますから、名誉毀損が成立し、同僚女性は損害賠償責任を負う可能性が高いといえるでしょう。
--職場内の行為ですが、「不特定または多数」に対するものと言えるのでしょうか。
過去の裁判例においては、団体のメンバー6名がいる状況で名誉毀損にあたる内容を述べた行為につき、他者に伝播しないとは言えないから公然性が認められ、名誉毀損が成立するとしたものがあります(東京地裁平成28年2月18日判決・公刊集未搭載)。
今回のケースでは、(同じ職場の人間が)「妻子持ちと不倫した」という内容は、他人の興味を惹くものであり、同僚女性から直接聞いた人がさらに別の人に言いふらす可能性は否定できないといえるでしょう。
そうすると、たとえ同僚女性が直接言いふらしたのが数人にとどまる場合であっても、そこから他の人に伝播しないとは言えず、公然性は認められると考えられます。
●「子どもをおろしている」はプライバシー侵害に当たる可能性
次に、プライバシー侵害は、個人の私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれがあり、一般人の感受性を基準にして当該個人の立場に立った場合に公開を欲しないであろうと認められる事柄であって、現にまだ一般の人々に知られていないものを、不特定または多数に公開し、それによって当該個人が不快・不安の念を覚えたといえる場合に成立します(東京地裁昭和39年9月28日判決・判タ165号184頁)。
相談者の妻に「子どもを中絶した」という事実がないことを前提として、「子どもをおろしている」という事柄は、私生活上の事実らしく受け取られるおそれがあるものであって、一般人の感受性を基準にしてその個人の立場に立った場合に公開を欲しないものであり、公開されれば不快・不安の念を覚える、といえるでしょう。
そして、中絶の事実がないのであれば、そもそも職場内に広まっている訳がないですから、「子どもをおろしている」と言いふらす行為はプライバシー侵害にあたり、同僚女性は損害賠償責任を負う可能性が高いといえるでしょう。
なお、例えば政治家のような「公的な人物」については、事柄によっては公表する必要性がプライバシーとして保護される利益に優越するとされる場合があり、プライバシー侵害にあたらないと判断されることがありますが、「相談者の妻」はそのような公的な人物ではないので、プライバシー侵害の成立が妨げられることはないといえるでしょう。
--知り合い間の誹謗中傷は、どのように解決すれば良いでしょうか。
直接の知り合いであれば、まずはそうした言いふらし行為をやめるように注意するということになるでしょう。
繰返し注意してもやめないような場合は、やむを得ない手段として、損害賠償を求めるということになると思います。この場合、最初は文書で通知し、応じてこないときには裁判に訴える、というように段階をふむことになるでしょう。
なお、言いふらし行為が職場内でなされている場合、会社(使用者)は従業員の生命、身体、健康等に害が生じないよう職場環境を適切に維持すべき義務(安全配慮義務)を負っていますから、言いふらしている人物に対して適切な措置を講じるよう、会社に求めるということも選択肢として考えられるでしょう。
●慰謝料額は低くなる傾向
--民事訴訟で名誉毀損が認められた場合、慰謝料はどのくらいになりますか。
名誉毀損の場合の慰謝料は、摘示された事実の内容、表現の態様、(雑誌等であれば)発行部数、どの程度の範囲に広まったか、行為者(加害者)と対象者(被害者)との関係、対象者の属性等、様々な要素を考慮して判断されるものなので、一概に「いくらになる」と示すことは難しいですが、一般的には100万円前後となるものが多いと思います。
【取材協力弁護士】
櫻町 直樹(さくらまち・なおき)弁護士
石川県金沢市出身。企業法務から一般民事事件まで幅広い分野・領域の事件を手がける。力を入れている分野は、ネット上の紛争解決(誹謗中傷、プライバシーを侵害する記事の削除、投稿者の特定)。
事務所名:パロス法律事務所
事務所URL:http://www.pharos-law.com/