強制性交罪などで異例の「懲役40年」求刑、「上限30年」を超えたのはなぜ?
現在、刑の上限は「30年」とされているが、福岡地裁の裁判員裁判で7月15日、これを大きく超える「懲役40年」が求刑された。
報道によると、2018〜2019年、7人の女性を暴行したとして、強盗や強制性交、強制わいせつ致傷などの罪に問われた男性に対して求刑された。
出会い系サイトを通じて知り合った女性を脅し、山中に車で連れて行って犯行に及んだとして起訴されたが、「合意があった」と否認しているという。
なぜ、今回、上限を超える求刑がされたのだろうか。岡本裕明弁護士に聞いた。
●有期懲役刑の上限が「30年」となるワケ
なぜ、上限が「30年」とされているのだろうか。岡本弁護士はこう説明する。
「そもそも、被告人を有期懲役に科す場合、『20年以下』と定められています(刑法12条1項)。一般的には、上限は『30年』ですらなく『20年』なのです。
しかし、被告人が複数の罪を犯した場合で、その複数の罪が『併合罪』の関係にある場合、『最も重い罪について定めた刑の長期にその2分の1を加えたものを長期とする』(刑法47条)という条文が適用されます。
その結果、有期懲役刑の上限が『30年』ということになります。
日本の刑法は、『併合罪』の関係にある各犯罪に対する刑罰として、有期懲役刑を科す場合、それぞれの犯罪についての刑罰をそれぞれ決めたうえで合算するのではなく、1つの刑罰を科すと定めているのです」
●事件を前後に分けて求刑
今回、懲役「40年」が求刑されたのは、なぜなのか。
「報道によると、被告人は一連の事件の間である2019年10月、別の事件で執行猶予付きの判決を言い渡されており、それが確定していたようです。
そこで、今回の検察官は、別の事件についての判決が確定した日の前後で事件を分けて、それぞれ懲役15年と懲役25年として、合計『40年』を求刑するかたちとしました。
刑法45条では、『ある罪について禁錮以上の刑に処する確定裁判があったときは、その罪とその裁判が確定する前に犯した罪とに限り、併合罪とする』と定めています。
つまり、判決が確定した後であれば、前後の罪は『併合罪』にはなりません。そのため、検察官は前の判決の確定日前後で、科する刑罰を分けて求刑したというわけです」
●「40年」求刑は妥当か?
今回の求刑をどう評価したらよいのだろうか。
「単純に、すべての刑期を合算した刑罰を科すこととした場合、余りに酷な、極めて長期間の有期懲役刑が宣告されることになるため、それを回避しようと、このような定めが置かれたものと理解されています。
しかし、複数の罪を犯したのであれば、その分だけ罪が重くなるのは当然のように思えます。にもかかわらず、単純に刑期を合算するよりも軽い刑罰を科します」
岡本弁護士はその理由をこう指摘する。
「被告人をどれだけ強く非難できるのかという点を考慮して、刑事責任の大きさを定めることになるのですが、その際に、1つ1つの犯罪に対する刑罰を合算した場合、素質や環境など、被告人の刑事責任を増大させる要素について二重に評価されてしまうおそれがあります。それを避ける必要があるためと説明されることが多いです。
一方で、違法な薬物を異なる機会に複数回使用したというような事案であればともかく、今回のようなケースでは、被害者が複数となり、それぞれ深く傷付けているわけですから、二重に評価することにならないのではないかとも考えられます。前刑の判決が確定した日の前後で分けることが適切なのかについても、さまざまな意見があります」
判決は7月29日に言い渡される。
【取材協力弁護士】
岡本 裕明(おかもと・ひろあき)弁護士
刑事事件及び労働事件を得意分野とし、外国人を被疑者・被告人とする事件を多く取り扱っている。多数の裁判員裁判も経験している一方、犯罪被害者の代理人として、被害者参加等も手掛ける。
事務所名:弁護士法人ダーウィン法律事務所
事務所URL:https://criminal.darwin-law.jp/