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東京・池袋で2019年4月に乗用車が暴走した死傷事故について、6月22日放送の「情報ライブ ミヤネ屋」(日本テレビ系)が取り上げた。

自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致死傷)の罪で起訴された男性(90)は、6月21日に東京地裁でおこなわれた被害者遺族による被告人質問に対し、あらためて無罪を主張。公判後開かれた会見で、妻と長女を亡くした松永拓也さんは「加害者を心から軽蔑します」など憤りをあらわにしていた。

この裁判について、番組にコメンテーターとして出演した中央大教授の野村修也弁護士が「会見で松永さんが言われた一番重い言葉は『刑務所に入って欲しい』という言葉」と言及したうえで、その理由について「90歳を超えた方が仮に実刑判決を受けても刑務所に入らないという選択があるからなんですね」と説明した。

「このこと自体をおそらく松永さんはずっと感じていると思う。(男性が)時間を稼いでいるんじゃないかと、この公判が長引くことに懸念を感じているんじゃないかと思う」と被害者遺族の心情を推察していた。

池袋暴走事故の裁判は社会的に大きな注目を集めており、90歳を超えた人が実刑判決を受けて確定しても刑務所に入らないということになれば、新たな波紋を呼びそうだ。本当にそんなことはあるのだろうか。神尾尊礼弁護士に聞いた。

●高齢を理由に刑を執行停止する制度自体はあるが…

--「90歳を超えると刑務所に入らないという選択がある」というのは本当でしょうか。

懲役・禁固のようにいわゆる刑務所に行くことを「自由刑」といいます。この自由刑の執行を止める制度は、刑事訴訟法上2つあります。

1つは480条です。病気等の影響により心神喪失状態にある場合には、その状態が回復するまで、刑の執行を停止します。ただ、これはほとんど例がないと言われています。

もう1つは482条です。この中の第2号に、「年齢七十年以上であるとき」とあるので、70歳以上だと刑務所に行かない場合があることになります。

自由刑は、受刑者の状況によっては本人や家族にその罪以上の不利益を与えることがあります。この典型例が482条4号で、出産後60日以内であれば刑の執行を停止できるとされています。

これは、この期間に母が刑務所に入ってしまうと、残された赤ちゃんの生育に影響を与えかねないからです。このように、受刑者の状況に応じて、刑を止めることができるとしたのが自由刑の執行停止という制度です。

ただ、これらの事由に当たったとしても、全員が執行停止になるわけではありません。482条は「任意的執行停止」と呼ばれるもので、検察官の裁量で決まります。

--高齢を理由に自由刑を執行停止する制度自体はあるということですね。実際にはどのような運用になっているのでしょうか。

受刑者等から上申があると、まず検察官が審査し、検察官が執行停止相当と認めたときにはじめて執行停止に至ります(執行事務規程31条)。

矯正統計をみると、「入出所事由」のうち、刑の執行停止は平成30年で「18人」、令和元年で「17人」です。出所数が両年とも約5万人弱ですので、執行停止は限定的な運用がされているといえると思います。

●池袋事故「仮に実刑判決なら、執行停止しない可能性ある」

--高齢者だと刑務所に入らないという印象がぼんやりとあるようにも思います。

「高齢者だと刑務所に行かない」という説が広まっているのは、そもそも高齢者が起こす事件は万引きなどの比較的軽微な犯罪が多く、不起訴となる確率が高いからだと思われます(平成30年版犯罪白書『進む高齢化と犯罪』)。

なお、高齢者でも刑務所に行くことは当然あり、その多くは窃盗です(同白書)。認知症による万引きなどの場合、刑務所に入れても解決にならないケースがあり、我々弁護人としても医療に繋ぐなどの弁護活動をすることもあります。

--池袋暴走事故の被告人についてはどうでしょうか。

重大な犯罪で有罪となり、執行停止事由に該当しない、あるいは検察官が執行停止は相当ではないと判断した場合には、原則どおり刑務所に入ることになります。

まだ裁判中であって証拠もみていないので軽々に論じることはできませんが、仮に実刑判決が出された場合、検察官が執行停止相当とは判断しない可能性があろうかと思います。

【取材協力弁護士】
神尾 尊礼(かみお・たかひろ)弁護士
東京大学法学部・法科大学院卒。2007年弁護士登録。埼玉弁護士会。刑事事件から家事事件、一般民事事件や企業法務まで幅広く担当し、「何かあったら何でもとりあえず相談できる」弁護士を目指している。
事務所名:弁護士法人ルミナス法律事務所
事務所URL:https://www.sainomachi-lo.com