国立天文台教授が語る宇宙。近く発見されるかもしれない「第二の地球」とは
私たちが存在する宇宙には多数の神秘が隠れています。太陽系でなぜ地球だけに生命が生まれたのか。太陽がいまの大きさでなかったとしたら、地球はどうなっていたのか。そして宇宙人はいるのか…。宇宙には、考え出すとキリがない不思議が数多くあります。
史上初のブラックホールの撮影に成功したEHTプロジェクトの日本チームのリーダーである、国立天文台・水沢VLBI観測所の所長の本間希樹先生に、宇宙の不思議について解説してもらいました。
水沢VLBI観測所
太陽系にはたくさんの惑星や衛星がありますが、今、生命が見つかっているのは地球だけ。元は同じ成分から生まれた惑星のはずなのに、なぜ地球だけに生命が誕生し、ほかの惑星では生命が誕生しないのか。その謎について本間希樹先生は、「最大の理由は太陽から地球の距離にある」と語ります。
「生命誕生に必要な要素は、『海』の存在です。地球には液体の海があったからこそ、その中に溶けている様々な物質が化学反応を起こし、最終的に生命が生まれたと考えられます。太陽系の場合、水が液体として存在できる太陽からの距離は、だいたい1億3000万キロメートルから2億キロメートルほどの範囲だと考えられています。これ以上太陽に近すぎると熱くなって水は蒸発してしまいますし、これ以上遠ければ、寒くて水は凍りついてしまいます」
このように水が液体の状態を保つことができ、生命が生まれる可能性を秘めた場所を「ハビタブルゾーン」と呼びます。地球と太陽の距離1億5000万キロメートルはまさにこのハビタブルゾーンの範囲内で、じつに絶妙な位置なのだとか。
「太陽系の惑星を見たときに、『水が液体で存在できる距離』に位置しているのは地球だけです。余談ですが、土星の衛星のタイタンは、土星の近くにあって水は凍りついてしまう場所ですが、メタンでできた大気があり、川や湖もあると言われています。液体の海が存在するという条件だけを考えれば、ひょっとしたら生命体が生まれている可能性もあります。もっとも、水ではなく、液体メタンの海で、どのような生命が誕生しうるかは謎ですが」
太陽系の中心にある太陽は、地球にとっては欠かせない存在ですが、仮に太陽の重さが今よりもっと重ければどうなっていたのでしょうか。
「太陽のように燃える星のことを恒星と呼びますが、質量が重ければ重いほどに、星は早く燃え尽きてしまいます。現在、太陽が生まれてから46億年と言われていますが、仮に太陽がいまより2倍ほど重ければ、大量の寿命は10億年ほどしかもちません。今から30億年以上前に太陽が燃え尽きているはずなので、人類誕生する前に太陽は光を失い、人類はおろか、地球上の最初の生命すら誕生しなかったでしょう」
では、反対に太陽がもっと軽かった場合は、人類にはどんな変化が生まれていたのでしょうか。
「その場合、太陽が発する熱量も小さくなります。すると、現在の地球の位置からは太陽が遠すぎて水が凍ってしまうので、生命の誕生は難しかったでしょう。もしかしたら、ひとつ内側の軌道にある金星あたりがハビタブルゾーンとなり、人類が誕生して、『地球人』ならぬ『金星人』が誕生していたかもしれません」
また、仮に金星で生命が誕生していた場合は、いまの私たちとはまったく違う世界に住んでいたはずだと本間先生は続けます。
「大きな違いは、空の色でしょうね。いま、私たちが住んでいる地球の空が青く見えるのは、太陽から届く光の中に青い成分があり、その光が大気の中で散乱されるからです。いまよりも太陽が小さくなっていた場合、青い光が少なく、赤い光や赤外線が強くなるので、より赤みがかって見えるようになります。そうなれば、昼間の空の色は青ではなくなっていたでしょう。もしかすると、一日中、夕焼けが続くような景色が広がっていたかもしれません」
驚くべき偶然によって生まれた地球。しかし、近年、「じつは、地球以外にも、地球のような星があるのではないか」という議論に、注目が集まっています。
「この10年間で、『系外惑星』と呼ばれる太陽系の外にある惑星の存在が、多数見つかっています。現在、太陽のような燃える星(恒星)が惑星を持っている確率は10%程度と推測されていて、恒星が2000億個以上あると言われる天の川銀河には、系外惑星系が推定数百億個はあると考えられています。昨今の観測技術が進化によって、太陽系以外にも惑星がどんどん見つかっています。その流れで、地球に環境が似た『第二の地球』と呼べるような惑星が発見されるのも時間の問題と言われています」
第二の地球の発見がされた場合、気になるのが「生命はいるのか」という疑問です。とはいえ、ロケットに乗って現地に行くことができない以上、どうやったら第二の地球に生命体がいるかを探すことができるのでしょうか。
「遠くにある系外惑星の生命が住んでいるのかをいきなり検証するのはハードルが高いです。着実な方法は、まずその惑星の環境を調べ、生命が誕生できそうかどうかを調べることです。
そこで参考になるのが、その惑星が反射する『色』を見ることです。宇宙空間から見れば、地球にもさまざまな色が見えます。海を見れば青色で、陸地は茶色。森林地帯を多く含む場所は緑色に見えます。もし系外惑星を大望遠鏡で観測して、緑色が強ければ、植物が存在する可能性が高くなります。もっとも、これは地球同様に植物が葉緑素を持って光合成しているという前提があるうえで、地球と異なる植物を考える場合は、緑色が必ずしも植物の証拠にはなりませんが、地球と同じような植物が存在する可能性を示すヒントにはなります。
また、系外惑星に水があるのかは、その惑星で生命が誕生できるかどうかを知る大きなポイントになります。もしその星に青色が見えれば、海がある確率は高くなり、生命体が存在する可能性も高くなります」
今後、観測技術が進化していけば、星の色から生命体の有無を知ることができるかもしれません。そして、数十年後には、地球外生命体の存在も確認されているかもしれないのです。
そんな本間先生の著書、『宇宙の奇跡を科学する
』(扶桑社刊)には、宇宙のなりたちや専門分野のブラックホール、そしてブラックホールの写真の撮影秘話について語られています。ぜひチェックしてみてください。
●教えてくれた人
国立天文台水沢VLBI観測所所長。1971年、米テキサス州生まれ、横浜育ち。東京大学大学院理学系研究科天文学専攻博士課程を修了し、博士(理学)の学位を取得。専門は、超高分解能電波観測による銀河系天文学。2019年4月、EHTプロジェクトチームがブラックホールの撮影に成功したニュースが世界中を駆け巡る。100年前にアインシュタインが予言した、ブラックホールの存在を視覚的に証明することになった。著書に『国立天文台教授が教える ブラックホールってすごいやつ
』(扶桑社刊)などがある
史上初のブラックホールの撮影に成功したEHTプロジェクトの日本チームのリーダーである、国立天文台・水沢VLBI観測所の所長の本間希樹先生に、宇宙の不思議について解説してもらいました。
水沢VLBI観測所
国立天文台・水沢VLBI観測所の所長の本間希樹さんに教わる、宇宙の不思議
太陽系にはたくさんの惑星や衛星がありますが、今、生命が見つかっているのは地球だけ。元は同じ成分から生まれた惑星のはずなのに、なぜ地球だけに生命が誕生し、ほかの惑星では生命が誕生しないのか。その謎について本間希樹先生は、「最大の理由は太陽から地球の距離にある」と語ります。
●地球に生命が生まれたのは「絶妙な距離感」が理由だった
「生命誕生に必要な要素は、『海』の存在です。地球には液体の海があったからこそ、その中に溶けている様々な物質が化学反応を起こし、最終的に生命が生まれたと考えられます。太陽系の場合、水が液体として存在できる太陽からの距離は、だいたい1億3000万キロメートルから2億キロメートルほどの範囲だと考えられています。これ以上太陽に近すぎると熱くなって水は蒸発してしまいますし、これ以上遠ければ、寒くて水は凍りついてしまいます」
このように水が液体の状態を保つことができ、生命が生まれる可能性を秘めた場所を「ハビタブルゾーン」と呼びます。地球と太陽の距離1億5000万キロメートルはまさにこのハビタブルゾーンの範囲内で、じつに絶妙な位置なのだとか。
「太陽系の惑星を見たときに、『水が液体で存在できる距離』に位置しているのは地球だけです。余談ですが、土星の衛星のタイタンは、土星の近くにあって水は凍りついてしまう場所ですが、メタンでできた大気があり、川や湖もあると言われています。液体の海が存在するという条件だけを考えれば、ひょっとしたら生命体が生まれている可能性もあります。もっとも、水ではなく、液体メタンの海で、どのような生命が誕生しうるかは謎ですが」
●太陽が今より重ければ、人類は誕生していない
太陽系の中心にある太陽は、地球にとっては欠かせない存在ですが、仮に太陽の重さが今よりもっと重ければどうなっていたのでしょうか。
「太陽のように燃える星のことを恒星と呼びますが、質量が重ければ重いほどに、星は早く燃え尽きてしまいます。現在、太陽が生まれてから46億年と言われていますが、仮に太陽がいまより2倍ほど重ければ、大量の寿命は10億年ほどしかもちません。今から30億年以上前に太陽が燃え尽きているはずなので、人類誕生する前に太陽は光を失い、人類はおろか、地球上の最初の生命すら誕生しなかったでしょう」
●太陽が今より軽ければ、地球人は金星人だった?
では、反対に太陽がもっと軽かった場合は、人類にはどんな変化が生まれていたのでしょうか。
「その場合、太陽が発する熱量も小さくなります。すると、現在の地球の位置からは太陽が遠すぎて水が凍ってしまうので、生命の誕生は難しかったでしょう。もしかしたら、ひとつ内側の軌道にある金星あたりがハビタブルゾーンとなり、人類が誕生して、『地球人』ならぬ『金星人』が誕生していたかもしれません」
また、仮に金星で生命が誕生していた場合は、いまの私たちとはまったく違う世界に住んでいたはずだと本間先生は続けます。
「大きな違いは、空の色でしょうね。いま、私たちが住んでいる地球の空が青く見えるのは、太陽から届く光の中に青い成分があり、その光が大気の中で散乱されるからです。いまよりも太陽が小さくなっていた場合、青い光が少なく、赤い光や赤外線が強くなるので、より赤みがかって見えるようになります。そうなれば、昼間の空の色は青ではなくなっていたでしょう。もしかすると、一日中、夕焼けが続くような景色が広がっていたかもしれません」
●近く発見されるかもしれない「第二の地球」とは
驚くべき偶然によって生まれた地球。しかし、近年、「じつは、地球以外にも、地球のような星があるのではないか」という議論に、注目が集まっています。
「この10年間で、『系外惑星』と呼ばれる太陽系の外にある惑星の存在が、多数見つかっています。現在、太陽のような燃える星(恒星)が惑星を持っている確率は10%程度と推測されていて、恒星が2000億個以上あると言われる天の川銀河には、系外惑星系が推定数百億個はあると考えられています。昨今の観測技術が進化によって、太陽系以外にも惑星がどんどん見つかっています。その流れで、地球に環境が似た『第二の地球』と呼べるような惑星が発見されるのも時間の問題と言われています」
●第二の地球に生命体がいるかを知る方法は、その星の「色」にあり!
第二の地球の発見がされた場合、気になるのが「生命はいるのか」という疑問です。とはいえ、ロケットに乗って現地に行くことができない以上、どうやったら第二の地球に生命体がいるかを探すことができるのでしょうか。
「遠くにある系外惑星の生命が住んでいるのかをいきなり検証するのはハードルが高いです。着実な方法は、まずその惑星の環境を調べ、生命が誕生できそうかどうかを調べることです。
そこで参考になるのが、その惑星が反射する『色』を見ることです。宇宙空間から見れば、地球にもさまざまな色が見えます。海を見れば青色で、陸地は茶色。森林地帯を多く含む場所は緑色に見えます。もし系外惑星を大望遠鏡で観測して、緑色が強ければ、植物が存在する可能性が高くなります。もっとも、これは地球同様に植物が葉緑素を持って光合成しているという前提があるうえで、地球と異なる植物を考える場合は、緑色が必ずしも植物の証拠にはなりませんが、地球と同じような植物が存在する可能性を示すヒントにはなります。
また、系外惑星に水があるのかは、その惑星で生命が誕生できるかどうかを知る大きなポイントになります。もしその星に青色が見えれば、海がある確率は高くなり、生命体が存在する可能性も高くなります」
今後、観測技術が進化していけば、星の色から生命体の有無を知ることができるかもしれません。そして、数十年後には、地球外生命体の存在も確認されているかもしれないのです。
そんな本間先生の著書、『宇宙の奇跡を科学する
』(扶桑社刊)には、宇宙のなりたちや専門分野のブラックホール、そしてブラックホールの写真の撮影秘話について語られています。ぜひチェックしてみてください。
●教えてくれた人
【本間希樹さん】
国立天文台水沢VLBI観測所所長。1971年、米テキサス州生まれ、横浜育ち。東京大学大学院理学系研究科天文学専攻博士課程を修了し、博士(理学)の学位を取得。専門は、超高分解能電波観測による銀河系天文学。2019年4月、EHTプロジェクトチームがブラックホールの撮影に成功したニュースが世界中を駆け巡る。100年前にアインシュタインが予言した、ブラックホールの存在を視覚的に証明することになった。著書に『国立天文台教授が教える ブラックホールってすごいやつ
』(扶桑社刊)などがある