【世界のトヨタ・ヤリス】SUVやGRモデルだけではない? ヤリス・ファミリー8種
勢い止まらぬトヨタ・ヤリスtext:Takahiro Kudo(工藤貴宏)editor:Taro Ueno(上野太朗)
「ヤリス」とはトヨタを代表するコンパクトカーだ。
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日本では2020年2月に、フルモデルチェンジすると同時に従来の「ヴィッツ」から改名。世界戦略車でもあり、欧州では初代ヴィッツの世代からヤリスというネーミングが使われている。
トヨタ・ヤリス(ハッチバック)
そんなヤリスが、次々と記録を打ち立てているのだ。
まずは欧州市場での人気。今年(2021年)1月、欧州(EU加盟27か国)内における新車販売ランキングでヤリスが販売トップを達成するという快挙を実現した。
フォルクスワーゲン「ゴルフ」やプジョー「208」など競合を抑えてのトップには大きな意味がある。
また、3月には「欧州カー・オブ・ザ・イヤー2021」も受賞。過去1年内に発売されたクルマの中から欧州7か国の審査員の投票により選定されるこの賞は、ユーザーの視点に立った評価の色合いが濃い。
そんな中で「今年イチオシのモデル」として欧州メーカー車ではないヤリスが選ばれたことは大きなトピックだ。
そして日本においては、「2020年度(2020年4月〜2021年3月)」にもっとも売れたクルマにヤリスが輝いた。
過去3年連続で君臨していたホンダ「Nボックス」からその座を奪ったことからもヤリスの人気の高さがうかがえる。2020年度の販売台数は20万2652台(ハッチバックのほかに「ヤリス・クロス」や「GRヤリス」も含めた数字)だった。
ところで、ヤリスといえば一般的には日本でも売っているハッチバックをイメージするだろう。
しかし世界を見まわすと、車体が異なる多くのモデルでファミリーを構成しているのだ。今回はそんなヤリスファミリーを紹介しよう。
日本でもおなじみのモデルヤリス(日本/欧州向けハッチバック)
ヤリスの中心的存在といえるのが日本や欧州で販売しているハッチバックモデル。
日本で販売ランキング上位の常連になっているほか欧州におけるトヨタの最多販売モデルであり、生産は日本のほかフランスでもおこなわれている。
トヨタ・ヤリス・クロス
2020年2月に発売した新型は、従来モデル(日本名:ヴィッツ)よりも車体を小さくして後席が狭くなる異例のフルモデルチェンジをおこなった。
これは、欧州における「後席はほとんど使わないからその広さよりも、車体が小さく市街地で運転しやすく見えることが重要」と考えるユーザーの意識を反映したものだ。
結果、その判断も大きく効いて欧州での人気が高まったといえる。ボディは、従来まで3ドアモデルが設定されていた欧州も含めて5ドアのみだ。
ヤリス・クロス
ハッチバックのヤリスと基本メカニズムを共用するクロスオーバーSUV。
ハッチバックモデルから半年遅れて2020年8月に日本での正式に発表された。
現行型が初代モデルであり、デビューの背景にはBセグメント・クロスオーバーモデルが欧州で大流行しているという事情がある(欧州ではBセグメント車の販売のうち約4割がSUVとなっている)。
一方で、ヤリス・クロスはハッチバックよりもひとまわり大きな車体として後席居住性や荷室の積載性を高めているのもポイントだ。
パーソナルユースはハッチバック、ファミリーや実用性を求めるユーザーにはヤリス・クロスという棲み分けがおこなわれているのである。
ヤリス・クロスが存在するからこそ、ハッチバックのヤリスは車体をサイズダウンできたといっていい。
ハッチバックと同様に日本のほかフランスでも生産される、欧州市場の主力モデルの1台だ。
戦闘力抜群 WRCに向けたGRヤリスGRヤリス
見た目はヤリスのハッチバックに近いが、3ドアとしたドアの数だけでなくプロポーションも別物。空力特性を重視してルーフ後方が低くなっている。
しかし、違うのは見た目だけではない。プラットフォームの後半は通常のハッチバック用よりも上級で「カローラ」などに用いられる「GA-C」と呼ばれるタイプを組み合わせて能力を向上。
トヨタGRヤリス
ボディパネルには軽量化のためにカーボンやアルミを組み合わせるなど、車体そのものが通常のヤリス・ハッチバックとは別物なのだ。
さらに、メインとなるモデルのパワートレインは専用開発となる3気筒の1.6Lターボエンジンに6速MTと新開発のスポーツ4WDを組み合わせて搭載。
ヤリス(ハッチバック)の派生モデルといった存在だが車体もパワートレインも専用開発という、なんとも力の入ったモデルである。
このクルマはWRC(世界ラリー選手権)に参戦するためのベース車両とした開発されただけに戦闘力は抜群。
トヨタを代表するスポーツカーの1台だ。
また、ボディを共用しつつパワートレインを1.5L自然吸気+CVTでFFとした手頃なモデルも用意している。
見慣れた顔? 北米のヤリス北米ヤリス(ハッチバック)
北米で販売されているヤリスは、日本や欧州のものとは全く異なる。デザインだけでなく車体構造からして別設計だ。
外観から気が付いた人もいることだろう。何を隠そう、北米のヤリスはマツダ2をベースとしたOEMモデル。
トヨタ・ヤリス(ハッチバック/北米) トヨタ
トヨタとマツダのアライアンスに基づき、メキシコにあるマツダの工場で生産される。
車体は顔つきこそトヨタ向けの専用デザインだが、ボディそのものやインテリアは基本的にマツダ2と同様。エンジンは4気筒の自然吸気1.5Lでトランスミッションは6速AT。
北米ヤリス(セダン)
北米向けのヤリスは、ハッチバックだけでなくセダンも存在する。
ボディはマツダ2のセダンと共用で、顔つきがトヨタオリジナルだ。
ちなみにマツダ2セダンは日本では販売されていないが、東南アジアや北米などで展開。日本へはマツダ2ではないものの、教習所で運転免許取得の練習に使われる「マツダ教習車」としてタイから輸入されている。
各国の需要に合わせた設計のヤリス新興国向けヤリス
タイや中国、さらに台湾、インドネシア、インド、南アフリカ、中東、そして南米などでは日本や欧州とも北米とも異なるヤリスが展開されている。
プラットフォームは日本&欧州向けの先代ヤリス(ヴィッツ)と共通だが、車体は全長4.1mとひとまわり大きいのが特徴。
トヨタ・ヤリス・クロス(タイ) トヨタ
これは新興国で求められる「ファミリーユースで実用的に使える」というニーズに応えるためのパッケージングだ(平均所得が低い新興国ではファミリーユースであっても大型車ではなく安くて実用的なクルマのニーズが大きい)。
ヤリスATIV
タイなどで展開しているセダン。
新興国向けのヤリスをベースにセダン化したもので、同じモデルを「ヴィオス」という車名で展開している地域もある。
ハッチバックよりも全長が約30cm長く、延長分はすべてトランクスペースに使われているから多くの荷物が積める。
ハッチバックよりも積載性が高いのに加え、車体が大きく立派に見えるので「背伸びをしてクルマを買う層」に好まれる。
ヤリス・クロス(タイ)
タイは日本や欧州とは異なる「ヤリス・クロス」が存在する。
新興国向けのヤリス・ハッチバックをベースとするクロスオーバーモデルだ。
日本や欧州向けのヤリス・クロスとは異なり、専用ボディではないが、車体下部のプロテクターやホイールアーチの装着でSUVテイストを強調。
このヤリス・クロスはアクセサリーパッケージとしての設定だが、30mmリフトアップするサスペンションを組み込むなどスタイルだけでなく機能面でもしっかりクロスオーバーSUV化されているのが興味深い。
ヴィッツから改名 その意図は?
ところで、ヤリスは日本ではこれまで「ヴィッツ」として展開されていてその知名度も高まっていたのだが、なぜ新型ではヤリスという名前に変更したのだろうか。
昨年2月にヤリス(ハッチバック)がデビューする際に関係者に尋ねたところ、3つの理由があるという。
トヨタ・ヤリス(ハッチバック)
「世界統一のネーミングとしてイメージチェンジ」、「ヤリスとして参加しているWRCでの活躍を日本の人々にも知ってもらうため」そして「トヨタ販売店全車種扱いに対応」というものだ。
販売店との兼ね合いに関しては、これまでヴィッツはネッツ店専売だったが、2020年5月からはトヨタ全販売店での扱いに移行した。それに伴い「ネッツ店専売」というイメージを払拭するのが目的である。