文春オンラインで中間発表された「プレステアンケート」の上位に「信長の野望」が入りました。「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」などの人気シリーズのように華々しい売れ方をしているわけではありませんが、37年売れ続け、多くのファンの支持を得ています。任天堂の家庭用ゲーム機「ファミリーコンピュータ」より前に生まれた本作。ロングヒットの魅力は何なのでしょうか。

【画像】懐かしい……初代「信長の野望」のゲーム画面


超ロングセラーゲーム「信長の野望」はなぜここまで愛されるのか ©コーエーテクモゲームス(信長の野望「大志」より)

“初代”は近畿と中部だけ 夢のまた夢だった「全国制覇」

「信長の野望」シリーズは、日本の戦国時代を舞台に、織田信長らになって天下統一を目指すシミュレーションゲームです。1983年にPC向けに発売されて以降、数年に一度のペースで発売され、本編シリーズだけで15作もあります。

 ポイントは、同じ戦国時代をテーマにしながら、毎回出すたびに新しいアイデアを盛り込んでいること。シリーズ初代はまだ当時のPC性能やメモリ容量が追いつかず、プレイ可能地方は近畿・中部地方のみでしたが、第2作「全国版」(1986年)は文字通り全国(50カ国)になりました。第3作「戦国群雄伝」(1988年)では、家来となる武将も約400人登場して、人気を不動のものにしました。

 全国をフォローできなかったシリーズ初代の発売後に、ユーザーから「地元の英雄(戦国大名)になって天下統一をしたい」という要望が寄せられたというのですから、当時からの人気のほどがうかがえます。

 その後も、国から城単位の攻防を描いて論功行賞(人事)を取り入れた「覇王伝」(1992年)、合戦がターン制からリアルタイム制になった「嵐世記」(2001年)などバリエーション豊かに展開。

 シリーズ最新作の「大志」(2017年)では、AIを活用して「義のために戦う上杉謙信」や「関東制覇を目指す北条氏康」など各大名が取った“史実の戦略”そのものを再現して、さらに経済圏の概念も取り入れました。また、コンピューターの大名が自分の置かれた立場を学習するのも特徴で、「あのプレイヤーに裏切られた」というようなことも忘れません。当時の価値観も反映して、室町幕府と戦争をすると心証が悪くなり、外交交渉で聞く耳をもってもらえなくなる。天下統一を目指して領土を拡大すれば、必然的に敵が多くなるのです。

作った本人がテストプレイで「思わず徹夜」

 同シリーズを手掛けたのは、コーエーテクモゲームス会長の襟川陽一さん。ゲームに表示される「シブサワ・コウ」は、クリエーターとしてのペンネームです。これまで何度も取材する機会をいただいたのですが、栃木県足利市という歴史の色が濃い街で育ち、東映の時代劇も見ていた「もともと歴史好き」なのだそうです。還暦を過ぎた今でも、「ドラゴンクエスト」などのRPGから、「スプラトゥーン」などのアクションシューティング、さらにはVRまで、自社だけでなくライバル会社のゲームもプレーし、エンタメコンテンツを見るために舞台にも足を運ぶといいます。

「信長の野望」の誕生は、1978年の起業後にヒットしたPCゲーム「川中島の合戦」(1981年)というゲームの人気を受けて、好きな織田信長に目を付けたのが始まりでした。それまでのシミュレーションゲームは戦闘のみでしたが、「信長の野望」は領国経営(経済の概念)を取り込んで、戦争と経済を“両輪”にして誕生。タイトルの「信長の野望」も、信長の天下統一の志から合う言葉を選び、さまざまな候補から「野望」と名付けられました。

 襟川さんは、頭の中で完成予想図を描き、約2カ月かけて制作。テストプレイでは、自分で作ったゲームにもかかわらず、その予想を遥かに超える面白さにのめりこんで徹夜をしてしまい、天下統一をしたときは思わず「やった!」と吠えて大喜びしたといいます。

 PCの性能や使えるデータ容量がアップするのに合わせて、ゲームも可能な限りパワーアップ。ロングシリーズになるにつれて武将数も増えていき、今では2000人以上ですから、歴史好きでも知らない武将がいるはずです。

武将の能力設定は「数値が1違うだけで大騒ぎになる」

 その武将ですが、能力の設定はユーザーからいろいろな要望が寄せられるクリエーター泣かせのテーマだといいます。わずかな能力値の差にもこだわる熱烈なユーザーから「この武将の能力は98じゃない! 97だ」など、「こうするべき」という思いのこもった指摘が来ることも少なくないからです。

 武将の能力値は、これまでのシリーズの設定、合戦の実績を総合的に勘案して決めており、その結果として一応“最強武将”といえば、上杉謙信になっています。ただ、数値が劣っていても「特殊能力」でゲーム中の使い勝手は変わるそうで、「〇〇が最強」とは一概には言えません。また、一度決めた武将の能力設定を維持することもなく、毎回調整をかけ、開発者の考えによる違いも踏まえながら、同じ能力の武将が固まらないようにも配慮しています。

 さらには、大河ドラマなど一般からの注目度、歴史のニュースにも目を光らせ、そこでも調整。大河ドラマ「独眼竜政宗」の影響を受け、当時は「謀略にたけた武将」としていた最上義光を、調べ直した結果、「戦闘に強い武将」に変更したケースもあります。

 ちなみに、同社には、武将のプロフィールを作る専門の生き字引がいて、社内にライブラリーもあります。襟川さんの知らないことも答えてくれるそうで、こうした力があってこその「信長の野望」なのですね。

ロングヒットを支える職人芸

 コーエーといえば「歴史ゲーム」が“代名詞”。中国の楚漢戦争や水滸伝、幕末、ナポレオン、太平洋戦争など、さまざまな歴史ゲームを世に送り出してきました。

 しかし、いまだに出ているのは「信長の野望」と「三國志」シリーズだけ。その理由を(図々しく)襟川さんに聞いたところ、答えはシンプル。「その2つが売れるから」というものでした。華々しい販売数がなく、地味であっても、これだけの長期間にかけて新作が定期的に出るということこそが、しっかり売れている証といえそうです。

 こうしたロングセラーを支える最大のポイントは、毎回テーマを決めて、前作とは違う遊びを提案する「創意工夫」。また、ドラマやマンガなどのコンテンツで、無名だった人物がフィーチャーされると、そこを確実にフォローしていることでしょう。「花の慶次」のヒットを受けて前田慶次を登場させたり、NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」のタイミングで井伊直虎で遊べるようにしているのはその一例です。

 また、歴史ゲームは情報量が多いだけに、それを視覚的に伝わりやすく整理してユーザーに理解してもらう必要があります。この技術は「削りすぎても残しすぎてもダメ」な、まさに“職人芸”。

 ゲーム業界の垣根を越えてその職人ぶりは知れ渡っており、2016年放送の大河ドラマ「真田丸」では、フル3DCGの技術を提供して「3D地図監修」にシブサワ・コウの名前がクレジットされました(余談ですが、「シブサワ」の由来は、来年の大河ドラマの主人公で、実業家の渋沢栄一に由来しているのだそうです)。

 シリーズ最新作の「信長の野望・大志」が出たのは2017年。そろそろ次の発表があっても良さそうです。そして次はどんな視点から戦国時代を切るのか、ファンの一人一人が楽しみにしています。

(河村 鳴紘)