かつて、Facebookが広告業界のイベントに参加する主な目的は、次の新しい機能を紹介することだった。一方、大きな業界の会合における最近のPR戦略は、新機能の発表より罪の告白に近くなっている。

メディア、広告関係者がフランスのコート・ダジュールに集まる毎年恒例の小旅行カンヌライオンズはもちろんキャンセルされたが、もし予定通りに開催されていたら、Facebookの幹部たちはおそらく、広告主と再び気まずい会話を交わす1週間に覚悟を決めて臨んでいただろう。

ヘイトスピーチや偽情報に関するFacebookの施策に抗議するため、米国の人権団体は広告主に、7月の広告費をFacebookから引き揚げるよう呼び掛け、大きなうねりが起きている。Facebookにとって、最大の広告主とは程遠いものの、ザ・ノース・フェイス(The North Face)、パタゴニア(Patagonia)、REIなどはボイコットへの参加を表明した。電通傘下の360i、IPGメディアブランズ(IPG Mediabrands)、MDCのメディアキッチン(Media Kitchen)といった広告エージェンシーの幹部も顧客に対し、Facebookに投じる広告費を見直すよう助言している。

過去にも見たことがある動き



このような動きは過去にも見たことがある。

2017年、多数の大手ブランドがYouTubeから広告費を引き揚げると宣言した。タイムズ・オブ・ロンドン(Times of London)が調査を行い、広告が不適切で有害なコンテンツに表示されている事実を突き止めたことがきっかけだ。2018年には、いくつかの小規模な広告主がケンブリッジ・アナリティカ(Cambridge Analytica)のスキャンダルを理由に、Facebookへの広告掲載を打ち切ると明言した。2013年にも、同様のボイコットが起きている。このときの理由はヘイトスピーチだ。

もしこうした撤退の狙いがプラットフォームに打撃を与えることだったとしたら、プラットフォームの収益に影響は出ていない。多くの撤退はもともと一時的な対応であり、ほかの広告主も、プラットフォームが実施した広告ターゲティング、データ共有ポリシーの変更に満足し、少しずつ戻ってきた。ひとつ重要なポイントがある。ボイコットはもともと恒久的なものではなく、Facebookにすぐさま変更を約束させるための手段にすぎないということだ。

ボイコットはいつも長く続かない



Facebookとインスタグラム(Instagram)の巨大なオーディエンスへのリーチ、使いやすいセルフサービスのプラットフォームのおかげで、フォーチュン500企業から家族経営の店舗まで、Facebookはメディアプランに不可欠な存在と広く見なされている。Facebookは800万の広告主を抱え、その多くが小規模から中規模の事業者だ。著名な広告主がボイコットすれば、これら中小の広告主がその隙間に喜んで入り込む。

Facebookのグローバルビジネスグループ担当バイスプレジデント、キャロリン・エバーソン氏は「我々はあらゆるブランドの決断を全面的に尊重する。そして、ヘイトスピーチを排除し、意味ある投票情報を提供するという重要な仕事に注力し続ける」と話す。「マーケターや人権団体との会話の内容は、どうすれば一緒に、善を推進する力になることができるかだ」。

おそらく今回のボイコットも前回と同様、規模が比較的小さく、長期的な影響を追跡するのが難しいものになるだろう。それでも、今回は違うと確信できる理由がある。

それでも、今回は違うと確信できる



これまで、マーケターのボイコットは主に影響力の行使で、ターゲティング、測定、詐欺などの広告に特化した変更をテクノロジー企業に要求することが目的だった。一方、今回のボイコットでは、広告主は自らを社会のために正しいことを行う存在と位置づけている。

歴史を振り返ると、大多数のブランドは抗議としてのボイコットに消極的だった。2017年、YouTubeのブランドセーフティ騒動のさなか、キース・ウィード氏はユニリーバ(Unilever)のCMOとして、「サプライヤーと交渉する最善の方法は、1対1でこっそり行うことだ。表舞台に出て、公式声明を発表していると捉えられては困るためだ」と語っている。筆者が聞いた情報では、Facebookが社会的な損害をもたらす可能性を認識し、一時的に広告費を引き揚げたことのある複数の大手広告主が、そうした行動を公にしないことを選択している。エグゼクティブサーチを専門とするスペンサースチュアート(Spencer Stuart)によれば、2019年、CMOの平均在職期間はわずか41カ月まで短縮されていた。この事実を考えると、キャリア志向のマーケターの一部が、公の場で背水の陣を敷くことを恐れるのも無理はない。

しかし、コロナ危機はまだ続いており、そのさなか、ジョージ・フロイド氏が命を奪われ、人種の平等を求める抗議行動が拡大している。マーケターたちは道徳的な問題に対し、声高に主張することに慣れてきた。6月2日には、何百もの広告主が「ブラックアウト・チューズデー(Blackout Tuesday)」に参加。人種差別と警察の蛮行に抗議するため、ソーシャルメディアを黒く塗りつぶした。ティヌイティ(Tinuiti)がデジタルマーケティング情報プラットフォーム、パスマティックス(Pathmatics)のデータを分析した結果、Facebookにはこの日、通常の40%の広告費しか投じられていなかった。

米国の大統領選挙も数カ月後に



また、今回はこれまでと異なり、計画の詳細が決まっている。広告主は7月、一斉に広告費を引き揚げるよう求められているのだ。消費者が自身の立場を表明し、マーケターに圧力をかけられるよう、「#StopHateForProfit(憎悪を利益にするな)」というハッシュタグもつくられた。

世界広告主連盟(WFA)のCEO、ステファン・レールケ氏は「今回とこれまでの違いは問題の性質。そして、私が感じているのは、社会が分断し、大きな混乱を経験しているいま、ソーシャルメディアプラットフォームが社会で果たす役割についての関心が高まっていることだ」と話す。

さらに、米国の大統領選挙も数カ月後に迫っているため、緊張が徐々に和らぐ可能性は低い。むしろ、Facebookのコンテンツ管理ポリシーの有効性に厳しい目が注がれ、ほかのプラットフォームがまったく同じ問題をどう扱っているかについての「比較対照」が活発化する可能性が高い。米議会委員会はこの夏、大手テクノロジー企業による反トラスト法違反の問題を調査することになっている。間違いなく、これが判断材料のひとつになるはずだ。

Facebookは再びその気概を試される



もちろん、Facebookが近い将来、世界No.2のデジタル広告プラットフォームの座を明け渡すことはないだろう。eマーケター(eMarketer)が6月に発表したばかりの最新予測によれば、2020年、米国におけるFacebookの純売上高は5%増の310億ドル(約3.3兆円)となる見通しだ。コロナ危機の影響で、多くのマーケターが一時停止したり、広告支出そのものを削減したりしているにもかかわらずだ。Facebookにはいくつもの嵐を乗り越えた実績がある。

それでも、Facebookは7月、再びその気概を試されることになるだろう。広告主、エージェンシー、さらには、Facebook自身の従業員が次々と立ち上がり、Facebookの悪事についての意見を公言し始めている。7月に向かうムード音楽は間違いなく、これまでと違う音色に聞こえる。

Lara O'Reilly(原文 / 訳:ガリレオ)