7世紀前半、今のサウジアラビアにあるメディナに、宗教・軍事指導者ムハンマドが現れました。ムハンマドがアラビア半島を征服して以来およそ1400年、イスラームの人々は今日まで、世界に大きな影響力を持ち続けてきました。 私たちにとっては、西洋や中国と比べて接点の少ないイスラームの文化、社会とはどんなものでしょうか。

インフォグラフィックで「イスラーム世界」

普遍性と多様性7世紀のアラビア半島に
成立したイスラーム世界は,
その後,時をへるにしたがって拡大し,今日では東南アジアから
西アフリカにいたる広大な地域が
この世界にふくまれる。

イスラーム世界は,初期をのぞいて
政治的に統一されることはなく,

10世紀ころからは,シリア・エジプト,イベリア半島・北アフリカ,
イラン,トルコ,インドなどの地域が
それぞれ独自の歴史的発展をとげてきた。

しかし,一方ではイスラームという
共通の信仰と法をうけいれることにより,
一つの世界としてのまとまりをも維持してきた。

この世界では,
交易・巡礼・遊学などをつうじて
人や物の移動,学術・情報の交流が
さかんにおこなわれた。

社会は開放的で柔軟性にとみ,
さまざまな出自の人びとが民族の枠に
とらわれることなく活躍した。

ギリシア・ローマ・イラン・インドなどの
古代文明の栄えた地に
成立したイスラーム世界は,
これら古代文明の伝統を継承して融合し,
独自のイスラーム文化を発展させたのである。

イスラーム教の特質イスラーム教は
ユダヤ教・キリスト教の流れを汲む
一神教であり,

『クルアーン(コーラン)』の内容も
『旧約聖書』・『新約聖書』の物語に近い。

モーセやイエスも預言者として登場し,
両聖書も『クルアーン』と同様に聖典とされる。

ただし,最後の預言者ムハンマドを
最良の預言者とし,
最後にくだされた啓示『クルアーン』を
最良の啓示とする。

教義は,正しい信仰をもつだけでなく,
その信仰が行為によって
具体的に表現されなければならないとするもので,
「六信五行」といわれる。

「六信」とは
(1)アッラー,
(2)神の啓示を運ぶ天使,
(3)神の啓示を書き留めた啓典,
(4)それを人びとに伝える預言者,
(5)最後の審判後にやってくる来世,
(6)神の予定の実在
を信じることで,

「五行」とは
(1)信仰告白、
(2)礼拝(1日5回メッカにむかっておこなう)、
(3)喜捨(富者が貧者にほどこしを与える)、
(4)断食(ラマダーンとよばれるイスラーム暦の月に、1カ月間、夜明けから日没までの
すべての飲食と性行為を断つ)、
(5)巡礼
(義務ではなく余裕のあるものがおこなえばよい)を実行することである。



六信の成立は10世紀後半、
五行の成立は8世紀初頭とされる。



以上は神と人間の関係における
規定であるが、
信者同士の人間関係の規範も定められている。



そこでは、
売買、契約、利子、婚姻、離婚、相続にはじまり、
賭け事の禁止、禁酒や豚肉を食べないなどの飲食物の禁忌、
殺人をしない、秤をごまかさない、汚れから身を清める、
女性は夫以外の男性に
顔や肌をみせないようにするなどの
倫理的徳目や礼儀作法などが問題とされる。



たとえば「禁酒」の場合、
イスラーム発生期のメッカの
住民がことあるごとに酒を飲むようになり、その弊害が目につくようになったことから

ムハンマドは禁酒の啓示を何回かうけたあと、ついに全面禁酒の啓示(『クルアーン』の5章90〜91節)を
うけることになった。