有名企業の製品を「パクりまくる中国」から学べることとは?(写真:fotoVoyager/iStock)

有名企業の製品をコピーし、発展させるのが中国企業の手法だ。成長を続ける彼らが何に重きを起き、日本人がそこから学べることとは何か? 高千穂大学准教授・永井竜之介氏の新刊『リープ・マーケティング 中国ベンチャーに学ぶ新時代の「広め方」』より一部抜粋・再構成してお届けする。

「中国企業はコピーが上手い」

昔から言われてきたことだが、はっきり言って、この指摘は的を射ている。中国企業は、アメリカや日本の魅力的なビジネスをコピーして取り入れ、自らの成長に利用してきた。しかし、だからといって「中国はズルい」「評価に値しない」と言うのは的外れだ。

「パクる」ことは簡単なことではない

そもそも「他社のビジネスをコピーして成功する」のは、そう簡単な行為ではない。まず日常的に、世界中の同業・他業種のビジネスについて情報収集しておく必要がある。そうして、優れたビジネスを発見したら、即座に「どこが優れているのか」、「なぜその特長は実現できたのか」を分析する。

自社ビジネスと組み合わせられる特長を見つけたら、自社に取り入れる意思決定を迅速に行い、資源を投入して、実現させる。つまりマネるためには、リサーチ・分析・発案・意思決定・資源分配・実行というプロセスが求められる。これだけの複合スキルを発揮できる企業や人材に対して、「ただマネが上手いだけ」とは言えないはずだ。

そのうえ、現在の中国企業はただのマネで終わらない。ただマネるだけでは、本家の劣化版で終わってしまい、競争に勝ち続けることは難しい。そうではなく、他社の優れた特長を自社に取り入れ、ビジネスの新たな組み合わせをつくることで、差別化を量産していっている。

その代表例が、マネが当たり前の中国国内でさえ「パクリすぎ」と非難されながらも、7兆円を超える時価総額に飛躍を遂げた美団点評(メイチュアン・ディアンピン)だ。

2019年、アメリカの経済誌『Fast Company』が発表した「世界で最も革新的な企業」でトップに選ばれたのが、中国ベンチャーの美団点評。同社のCEOの王興(ワン・シン)氏は、自身を「コピーの天才」と称する連続起業家である。

Facebookをコピーした「校内網(シャオネイワン)」、Twitterをコピーした「飯否(ファンフォウ)」に続き、グルーポンをコピーして始めたのが「美団」だった。当時、類似の競合サービスは中国国内に無数にいたが、美団はあらゆるクーポンサービスの特長をコピーして取り入れ、トップシェアを獲得した。

2013年、ワン氏が新たに目をつけたのが、中国で急成長をはじめたフードデリバリーである。これは、もともと餓了么(ウーラマ)が開拓した市場だった。2008年に創業された学生ベンチャーのウーラマは、大学内ではじめたフードデリバリーを学外へ広げ、12都市でサービスを展開していっていた。

この12都市は、もともと屋台・外食文化が強い地域だった。屋台・外食サービスを利用する文化が強い地域には、「レストランの食事を手軽に食べたい」というニーズを持った消費者がすでに存在しており、サービスが受け入れられやすいと考えたのだ。

これに対し、美団のワン氏は「フードデリバリーは屋台・外食文化のうすい地域でも新規顧客を開拓していけるはず」と考えた。ある程度の消費力さえあれば、フードデリバリーの習慣は新たに広められると予測し、ウーラマをコピーした「美団外売」を30都市で一斉に展開した。

加えて、より効果的に集客するために、中国最大のクチコミサイト「大衆点評(ダージョン・ディアンピン)」と手を組むことにした。外食する際、中国の多くの消費者は、大衆点評のサイトをチェックし、店選びをする。日本で言えば、食べログのようなサービスだ。だから、ワン氏はその大衆点評のアプリにデリバリー機能を新たに搭載させれば、すべての消費者にデリバリーサービスを効率的に提案できると考えた。

「パクる」ことこそビジネスの王道

2015年、美団と点評が合併して誕生した美団点評は、ウーラマ不在の18都市でシェアを独占し、残りの12都市でも競争を繰り広げて、フードデリバリー市場のトップの座を奪うことに成功した。2018年時点でユーザー数は6億人を超え、1年間の総取引回数は約64億回、日平均では1750万回で、世界最大規模のサービスとなっている。

その後、美団点評のアプリは、フードデリバリーに加えて、映画・演劇、カラオケ、ホテル・民泊、食品スーパー、美容院、配車、旅行など、ありとあらゆるジャンルの「いいとこどり」をした、オールインワンのサービスとなって、さらに人気を集めている。

こうしたワン氏の戦略は、コピー大国・中国でさえ「パクリすぎ」と非難されてきた。しかし、ワン氏は「本家のモデルを完全にコピーしたうえで、本家よりも充実したサービスにすることができれば、それが王道だ」と語り、その言葉を実現し続けている。

同業他社や他業種の優れたビジネスを分析し、その特長を自社ビジネスに取り入れる。これは、「ベンチマーキング」と呼ばれるマーケティング・スキルのひとつだ。

ビジネスアイデアを次から次へ生み出していくには、他社のビジネスから学び、一部分をマネて取り入れ、そのうえで自社オリジナルの差別化を加える方法が効率的である。0から1を生み出すような奇跡的なアイデアは、長い時間をかけてひらめくことはできても、量産することは困難だ。

中国企業は総じて、このベンチマーキングを得意としている。それは、「パクリが上手い」という簡単な言葉で片づけていいものではなく、彼らの競争優位の源泉のひとつになっている強力なスキルだ。

「成功者のコピー」は当たり前のこと

中国企業は、情報収集に力を注ぎ、成功事例を分析して即座に取り入れ、そのうえで自社オリジナルの価値を創り出していく。だから、互いにベンチマーキング・スキルを発揮し合う中国市場の競争は、激しく、厳しいものになる。

差別化はすぐにライバルにマネされて、コモディティ化してしまう。だから、ひとつの差別化に時間をかけすぎていては、到底勝ちあがれない。ライバルに追いつかれないよう、高速で差別化を量産していくことが求められ、そのためにスキルが日々鍛えられている。

このように、中国では「人気のある何か」「価値のある何か」は、すぐに学んで取り入れるのが当たり前だ。むしろ、それをビジネスの「コピー」「パクリ」と言って、悪として捉える日本の風潮のほうが不自然と言ってもいいだろう。

たとえば、スポーツの世界では、成功者のコピーは当たり前のことだ。偉大な成功者の技術は徹底的に分析され、多くの選手がそれをコピーしたうえでオリジナルの技術へ昇華していく。分析・コピー・昇華が繰り返されるからこそ、あらゆるスポーツの記録は更新され続けているのだ。

職人の世界でも同じことが言える。昔ながらの職人の世界では、技術を手取り足取り教えてくれない代わりに、「目で盗む」のが当たり前だった。観察し、マネをしてみて、コツを覚え、その上で自分なりに技術をさらに向上させていく。

「学ぶは、真似る」という言葉の通り、マネの完全放棄は、学びの完全放棄といっても過言ではない。そのマネ・学習が、ビジネスで行われることに何も不思議はない。ベンチマーキングとは、伝承と進化に欠かせないスキルなのだ。

「日本のメーカー」もパクって成長してきた

中国と対照的に、日本は総じてベンチマーキング・スキルが低い。しかし、第二次世界大戦後の大昔にさかのぼれば、多くの日本メーカーが、このスキルを発揮することで飛躍を遂げてきた。

自動車や家電製品など、欧米の進んだプロダクトを取り寄せては分解し、構造を学び、まずはコピーした。そして、特長を見つけたら、さっそく自社のプロダクトに取り入れ、少しの差別化を加えて新商品としてリリースしていった。日本が誇った「メイド・イン・ジャパン」の背景には、ベンチマーキングが確実に存在していたはずだ。


それがいつからか、オリジナル信仰を持つように変わってしまった。「もう学ぶことはない」とおごり、他社に学ばず、他国に学ばず、自社流・自国流に固執するようになった。

気づけば、平成の失われた30年間にわたって、日本企業からイノベーションは生み出されなくなり、停滞を続けている。自らベンチマーキングを放棄しているにもかかわらず、昔の自分たちと同じように、中国がベンチマーキングから価値を生み出していく様子に、うしろ指を指しているのが日本の現状だ。

古典的に言われているように、イノベーションとは「New Combinations(新たな組み合わせ)」である。イノベーションを生み出すためには、「新たな組み合わせ」に使える多種多様なパーツを用意しておく必要がある。

だからこそ、自社ビジネスや同業ライバル企業のビジネスの分析はもちろんのこと、他業種、他国のビジネスにまでアンテナを張っておき、優れたビジネスの特長をパーツとして頭の引き出しに入れておくことが重要となる。

日本で新たなイノベーションを生み出すためにも、「学ぶは、真似る」を思い出し、まずはベンチマーキングの習慣づけから始めたほうがいいだろう。