新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックという通常とは異なる状況下で、人々の心理にはさまざまな影響が現れており、ケーキ・パスタ・パンなどの炭水化物に対する「渇望」ともいえる欲求を訴える人もいます。生物学者・栄養学者などの専門家は「危機に際して炭水化物を食べたくなるのは自然なこと」と説明し、その原因を解説しています。

Carbo-loading in quarantine: Experts explain why we crave bread and pasta in a crisis

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ハーバード大学医学部で教壇に立った経験を持つエヴァ・セルハブ氏は、「空腹や不快感、寒さ、『よりよく理解したい』という欲求など、私たちのバランスを崩しうるものや何かが満たされていないという思いはストレスと見なされます」と述べ、パンデミックという特殊な状況がストレスを生み出していると指摘しました。

セルハブ氏によると、ストレスの原因に対処しようとすると、脳内でドーパミンやセロトニンなどの神経伝達物質が放出され、脳の報酬系が刺激され、ストレスホルモンのコルチゾールの血中濃度が低下するという反応が生じます。こういった一連の反応が生じることによって人は「幸福感と安らぎ」を覚えるわけですが、セルハブ氏は炭水化物にも脳内のドーパミンやセロトニンを放出させ、報酬系を刺激する作用があると言及。この作用を求めるため、パンデミックのようなストレスがかかる状況下では炭水化物が食べたくなるのだと説明しました。



栄養学を専門とするマサチューセッツ大学のナンシー・コーエン氏もセルハブ氏と意見を同じくしています。コーエン氏は「炭水化物は血中のインスリンの増加を引き起こし、インスリンは脳内のトリプトファンの濃度を高め、トリプトファンはセロトニンを産生します。セロトニンは『幸福ホルモン』とも呼ばれ、気分を良くする作用があり、炭水化物を食べた後は実際に気分が良くなります」「短期的なストレスでは、脳はアドレナリンを放出して食欲を抑制しますが、ストレスが長期化するとコルチゾールが放出されて、炭水化物や脂肪の多い食品に対する欲求が高まります」と解説しました。

一方、ニューヨーク州立大学バッファロー校の生物学科の准教授で、進化人類学の専門家であるオマル・ゴックメン氏は、セルハブ氏やコーエン氏とは異なる解釈をしています。ゴックメン氏は「人間の脳は『ライオンに追われている』『パンデミックに直面している』ストレスの原因を区別していません」と述べて、ストレスのかかった状況下では、脳が運動のためのエネルギーを蓄えようと炭水化物を欲するのだと説明しました。



以上のように、炭水化物を食べたくなる欲求には生物学的な理由が存在します。しかし、栄養カウンセラーであるイブリン・トリボル氏は、心理学的な理由もまた食事に対する欲望を生み出していると指摘しました。

トリボル氏は、「料理の匂いを嗅ぐと、過去や未来ではなく、匂いから連想される食事を通して現在に思いが向く」という理由を挙げて、食べ物の匂いはリラックスする作用があると言及。母親が作ってくれた美味しい料理などの良い「思い出」もリラックス作用があるそうです。また、自分で料理をするという人は前もって食事を作っておくことで「今日何を食べようか考える」というストレスを取り除くことが可能で、さらに買い占めによる食糧不足が続くパンデミックの状況下では、「食べ物がある」こと自体がストレスを緩和してくれるとトリボル氏はコメントしました。



しかし、炭水化物を摂取することのリスクも存在します。セルハブ氏は「パンデミックでは、ほとんどの人は走っているわけではなく、座って思い悩んでいるだけです。そういった状況下では、炭水化物は必要ありません。炭水化物を食べてしばらくたって脳内の幸福ホルモンの濃度が低下した場合、より気分が悪化します」とコメント。幸福ホルモンの濃度が低下した場合、脳は疲れ、体は痛み、救いを求める気持ちがより強くなるそうです。

このような理由から、セルハブ氏は「1つの食べ物を食べ過ぎないようにしてください」と忠告。コーエン氏は、果物や野菜を豊富に摂取するほか、全粒粉のパン・玄米などの炭水化物、ナッツなどの種子類、豆腐・シーフード・卵・赤身肉・鶏肉、乳製品などのタンパク質をバランス良く摂取することを勧めました。