新型コロナウイルス感染の拡大で、サッカー王国ブラジルからついにサッカーがなくなってしまった。先週末、アマゾンに近いロンドニア州リーグで3試合が行なわれたのを最後に、すべての試合は延期となった。サッカーのないブラジルなんて、これまで予想もつかなかった。おまけにこの状態がいつまで続くかもわからない……。


デビュー戦のピッチにマスク姿で向かった本田圭佑(ボタフォゴ)photo by KYODO

 いまサッカー界で重要とされているのは、もちろん「どうやって選手や関係者、サポーターを感染から守るか」だが、もうひとつ大きな課題がある。それは「収入がない時期をどう乗り越えるか」だ。

 そもそもブラジルのいくつかのチームの財政難は深刻だ。試合のない状況が数カ月続くと、破産するチームも出てくる可能性があり、すでにその兆候は出ている。

 リオグランデ・ド・ノルテ州の州都ナタールにあるセリエBのクラブABCは、30人のスタッフを解雇、選手には4月から当面給料は支払わないとしている。ポルト・アレグレ州のインテルナシオナルとグレミオも、4月から選手への支払いが滞ることを事前に通知した。

 ブラジル有数の名門、ミナスジェライス州のクルゼイロの会長は「壊滅的な状態」と述べている。「まるで収入がないのに、出費は普通にある。2、3カ月この状況が続けば、存続できるかどうかもわからない」

 オリーブオイルで有名な企業アゼイテ・ロイヤルはリオデジャネイロの4大クラブ(フラメンゴ、フルミネンセ、ボタフォゴ、バスコ・ダ・ガマ)のスポンサーを同時に降りた。経済状況に問題を抱えているボタフォゴとバスコ・ダ・ガマにとっては大打撃だ。

 本田圭佑が所属するボタフォゴの台所事情は以前から厳しかった。本田を獲得した理由のひとつも、ブラジルなり日本のなりの新規スポンサーを誘致することにあった。所属する選手たちの給料も滞りがちだし、以前、在籍していた選手からは給料未払いで訴えられ、裁判沙汰になっている。抱える借金も大きい。

 その打開案として、ボタフォゴは世界レベルのスター選手の移籍交渉をしていた。元バルセロナ、そしてマンチェスター・シティのスタープレーヤーだったヤヤ・トゥーレ(青島黄海)だ。しかし最終的にこの移籍話は破談となった。ボタフォゴの示した金額があまりにも少なかったのだ。

 ボタフォゴのユニホームを着てともにプレーする本田とヤヤ・トゥーレの姿を期待していたサポーターは失望したが、それ以上に落胆していたのはボタフォゴの幹部だった。外国の有名プレーヤーを連れてくれば、さまざまな方法で金儲けができると彼らは算段していたからだ。「ブラジルで一番国際色豊かなチーム」になれば、世界的企業も喜んでチームスポンサーになってくれるはずだ。

 それだけではない。ブラジルではホームで行なう試合の権利を売ることができる。つまり金さえ払えば、ボタフォゴの試合を自分の町に呼ぶことができるのだ。たとえばリオデジャネイロのニルトン・サントス・スタジアムで行なうはずのボタフォゴ対フラメンゴの試合を、アマゾンのマナウスでプレーすることも可能になる。その場合、招致側は、試合の権利費以外にも、両チームの交通費と宿泊費、選手へのボーナスなどを払う必要がある。それでもチームに有名な選手がいるチームを招致できれば、多くの観客を集め、儲けることができる。

 本田とヤヤ・トゥーレがいれば、ボタフォゴはその”興味深いチーム”になれたはずだった。

 試合がすべてストップしてしまった今は、普通の観客収入も見込めない。それなのにスタジアムや練習場の維持には金がかかるし、選手や社員への給料も払わなければいけない。新しいスポンサーもこの状況では期待できないだろう。ボタフォゴは何とかしてこの苦境をくぐり抜けなければならない。

 本田がボタフォゴから受け取る報酬のベースは月給15万レアル(約330万円)と言われている。彼が以前もらっていたものからすれば少額だろうが、それでも本田はこの条件を受け入れた。基本給のほかに、ボーナスが出ることが約束されていたからだと思われる。試合に出るごと、ゴールを決めるごと、試合に勝利するごと、タイトルを取るごとに、ボーナスが出される契約だった。

 しかし、試合がなければボーナスは生まれない。本田の報酬はしばらくの間、基本給のみになる。ただしそれも、ボタフォゴが支払うことができれば、の話だ。ボタフォゴの幹部役員は、ここ2カ月、無報酬で働いている。

 当面、ブラジルの選手たちは自宅で、本田の場合はホテルに閉じこもっていなければならない。ほんの2カ月前に来た町でホテルに軟禁では、本田も辛いだろう。