「家虎」追放、法的に可能? ライブから「厄介」観客を追い出せるか、弁護士に聞いた
アイドルや声優のライブで、曲の合間に「イェッタイガー!」と絶叫する行為、通称「家虎」に対して2020年2月2日、ゲーム・映像コンテンツをプロデュースしライブも主催する「ブシロード」創業者で現取締役の木谷高明氏から「家虎根絶」を宣言するツイートがなされた。
木谷氏はその後、具体的な施策を実行していく旨もツイートし、ブシロードが関わるコンテンツライブのレギュレーション強化も考えられる。だが、もしどうしても「家虎」を叫んで楽しみたい観客に抵抗されたら、運営側はどんな対応手段を打てるだろうか。木谷氏の発言以後、「実際に家虎をめぐって退場者と興行主で裁判になったらどうなるのか?」と興味を示す声優・アニメファンもいる。
弁護士への取材を踏まえ、「家虎」を迷惑行為とみなして退場にできる法的根拠などを探った。
主催者が退場者から抗議されたら?
木谷氏は「家虎根絶」ツイートの後、「早速本日ライブスタッフと意見交換。明日は法務部と打合せします」「既に一部ライブの妨害にあたるお客様の退出は行なっているがそれ以上どこまで出来るか。それ以前に予防策はないか等、検討し施策を実行して行きたいと思います」と投稿した。
「イェッタイガー」通称「家虎」は、声優やアニメ・ゲーム・アニソン系のライブでは基本的に迷惑行為とみなされる。しかしこれもライブの楽しみ方のひとつと主張し、いわゆる「厄介」扱いされながらも、あえて家虎を叫ぼうとするファンもいる。
2月2日の「家虎根絶宣言」の際には、「場合によっては損害賠償請求など法的手段」も検討しているとツイートした木谷氏。既に取組みを進めているようだが、ブシロードなどの興行主は、観客に対しどんな対応策が打てるだろうか。J-CASTニュースは2月5日、アイドル界に詳しいレイ法律事務所の河西邦剛弁護士へ取材を行った。
ツイートだけでは...期日決めて変更告知が妥当
河西弁護士によると、まずライブの主催者は、公演を遂行するために「施設管理権」を有し、これに基づいて迷惑行為などを規定・禁止できる。観客が購入するチケットには皆「係員の指示・注意事項に従ってください」という旨が明記されており、観客はこれに同意して主催者との間で契約が成立し入場できるとみなされる。従って、迷惑行為違反となって退場処分になっても、それは施設管理権に基づいた正当な措置と言えるとのことである。
しかし、もし家虎を行った観客が退場処分になっても「こちらは対価を払ってコンサートを鑑賞しており、迷惑行為には当たらない。不当だ」と抗議した場合はどうなるだろうか。
その際主催者は前述の「迷惑行為に該当」を主張できるだけでなく、「ホームページやライブ会場で『イェッタイガーは禁止』のように明記していたり、ライブの出演者が公演中に同様のお願いをしていれば、より周知が徹底されていて強制力が増すと考えられます」と河西弁護士は解説する。
とはいえ、木谷氏の「家虎根絶」のツイートだけでは、強い法的拘束力は持たないともいう。河西弁護士は「ルールを周知させる一定の期間が必要です」と話し、いきなり「今日から」とレギュレーションを変更するのではなく「〇月〇日から」のように期日を定めてレギュレーションを変える告知を行うのが主催者として妥当な施策だろうとも解説した。
実害が生じれば賠償可能も...
一方、木谷氏が「損害賠償請求も検討」とツイートしていたが、本当に家虎を行った観客に損害賠償請求は可能なのか。河西弁護士にこの点を聞くと、
「損害賠償請求には、実害が生じたとの立証が必要です。例えば家虎によって公演が中断・中止になったというような実害が生じたのであれば、賠償請求が可能です」
と答え、具体的には金銭による賠償請求になるだろうと話した。
また一方で、観客同士のトラブル、例えばライブを静かに楽しみたい観客が家虎を行った観客に損害賠償を求めることは可能だろうか。河西弁護士は、やはり損害が生じたことを立証する必要があると話し、
「家虎を叫んだ観客に殴られた、ケンカになった、などのレベルなら損害を立証できると考えられますが、家虎に妨害されて歌唱や演奏が聴こえなかった、という程度では損害賠償請求は難しいのではないでしょうか」
と答えている。
過去には観客が「やり直し」「賠償」求め訴訟
ライブでのマナーをめぐっては、2017年に興味深い判例がある。ローカルアイドルのライブ会場でオタ芸に妨害されて楽曲が聴こえなかったとして、観客の男性が主催者にライブのやり直しや約100万円の損害賠償を求める訴訟を起こした。原告の男性は、主催者がオタ芸を行う観客を退場させず、楽曲の鑑賞を妨げたのは「債務不履行」にあたると主張したが、大阪地裁での一審から最高裁まですべて原告の主張は棄却された。
大阪高裁判決を見ると、ライブの主催者は「本件コンサートにおける楽曲等の鑑賞に適する環境を維持し,これを害する要因があれば,その除去に向けて適切に対処する一般的な義務を負うものと解される」ものの、観客の態度は様々で「オタ芸一般を迷惑行為として強く非難する意見もあること、その反面、観客によるかけ声は、コンサートの雰囲気を高揚させる側面もある」と認めている。
さらに「本件コンサートにおいて、観客がかけ声を出すことを禁止する方針は採っていなかった」ことなどから、主催者は原告に対し「本件コンサート契約において負担する債務として、オタ芸をする者を必ず退場させることを明示的に約束したとは認められない」としている。
取材結果を踏まえると、この判例では禁止事項に「オタ芸」が明記されていなかったために、オタ芸の行為者を退場させられるか否かが争点となったが、前述のように「イェッタイガー」「家虎」を禁止・退場行為に明記していれば、主催者は行為者を退場処分にできる正当な理由と義務が生じる可能性がある。
(J-CASTニュース編集部 大宮高史)