日本、韓国、中国、香港の東アジア4カ国で争われるE−1選手権。日本は第2戦で最弱国の香港と対戦した。勝利は戦う前から見えていた。5−0という結果は少し勝ちすぎに見えるが、実際に香港のプレーを見せられると納得したくなるというか、至極、順当なスコアに思える。逆に、日本の方に注文をつけたくなるほどだった。

 日本の先発メンバーは第1戦の中国戦と全員入れ替わっていた。一方、採用した布陣は中国戦と変わらず3−4−2−1だった。

 3バックに古賀太陽(柏レイソル)、田中駿汰(大阪体育大学)、渡辺剛(FC東京)、ウイングバック(WB)に菅大輝(北海道コンサドーレ札幌)と相馬勇紀(鹿島アントラーズ)、守備的MFに田中碧と大島僚太(ともに川崎フロンターレ)、2シャドーに田川亨介(FC東京)と仲川輝人(横浜F・マリノス)、そしてトップに小川航基(水戸ホーリーホック)が配置された(いずれも左から)。


小川航基のハットトリックなどで、香港に5−0と大勝した日本代表

 試合が経過していく中で、最も気になったのは左右のバランスだ。具体的には、WBがプレーに関わる頻度に左右差があった。その機会が多かったのが相馬勇気(右)で、少なかったのが菅(左)だ。

 理由はいくつか考えられるが、ひとつは周囲との関係だ。相馬にはサポートする選手がいたが、菅にはいなかった。3−4−2−1の布陣に照らせば、相馬に一番近い選手は大島で、菅は田中碧だ。

 この川崎のMFコンビは普段から大島が主役、田中碧が脇役の関係にある。田中碧の台頭は著しいものがあるが、とはいえ、川崎のパスサッカーは大島ありきで成立している。大島のサポート役という通常の役をこの日の田中碧は引きずってしまった様子で、プレーに主体性を欠いていた。菅との関係が希薄になったのはその結果だろう。

 川崎の場合、サイドには2人いる。左であればSB(車屋紳太郎)と、4−2−3−1の3の左(阿部浩之、または長谷川竜也)だ。パスの選択肢は外方向に2つある。これに対し、3−4−2−1で戦う森保ジャパンはひとつ。こうした周辺環境の違いも田中碧のプレーに影響を及ぼしたものと思われる。

 菅自身にも理由はあった。1対1で相手に仕掛ける菅と相馬、両者の姿を比較すれば、どちらに縦突破の期待が抱けそうかは明白だった。相馬にある技のキレ味が、菅には不足している。そうした情報が時間の経過とともに選手間で以心伝心したと考える。菅にパスを出しても進展は見込めそうもない。そう考える選手が多かった。これも左サイドの菅にパスが回らなかった理由だろう。

 相馬の魅力が一瞬のキレだとすれば、菅の魅力はピッチの縦幅105mを1人でカバーする馬力というか、アスリート的な能力だ。ところが香港にはサイドを突く力がないので、菅の縦幅を往復する力は無用になっていた。3−4−2−1のWBとしての適性は、相馬ではなく菅の方が上だ。相馬はサイドアタッカーが両サイドに各2人いるサッカー(主に4バック)の方が本来、合っている選手だ。しかしこの試合では、菅の方がよさを発揮できなかった。試合展開と森保式3バックがマッチしていなかったというべきだろう。

 日本と香港のボール支配率の関係を推定すれば70対30。それ以上開いていたかもしれない。しかし、日本は最終ラインにほぼ常時、3人いた。3バックが引いて構えていた。試合展開を考えれば、2人でも多いくらいなのに、3人もいた。非効率なサッカーを展開したにもかかわらず5−0で大勝した。香港の弱さは目に余るものがあった。

 右の相馬にしても、サイド攻撃を再三、仕掛けていたわけではない。サイドアタッカーが2人いるサッカーに比べ、サイドにボール送られる回数は少なかった。攻撃は真ん中方向に進みがちだった。と言うことは、ボールを失う場所も真ん中付近になる。先の中国戦でも同様な傾向は見え隠れしたが、香港は中国より数段弱かったため、真ん中で失ってもその危険性が露呈することはなかった。だが、この傾向は出るところに出れば致命傷になる。相手のレベルが高ければ、それが高い位置(相手のペナルティエリアに近い場所)だったとしても危ない。最終ラインに3人構えていても、だ。

「サイドも中盤に含まれる」とは、これまで話を聞いた欧州の監督がこぞって口にしていた台詞だ。ひるがえって、森保ジャパンの両WBは中盤的ではない。いわば大外で構える槍だ。ウイングや守備的MFと協力しながら上がっていくジワジワ型ではない。ボールがサイドを経由しないでゴール前に向かっていくケースが目立つ、これも大きな理由のひとつだ。

 そもそもこの日、日本がカウンターで攻撃を仕掛けた回数はほぼ皆無だった。ほぼすべて遅攻。にもかかわらず、とくに左サイドにはボールが回らなかった。真ん中に寄りがちな遅攻だった。森保式3−4−2−1は、遅攻との相性が良好とは言えないのだ。次戦の相手、韓国がどの程度のレベルにあるか、なんとも言えないが、どこまでこのプレーを許してもらえるのか。

 今回招集された選手の中で、一番の目玉選手だった仲川も、そうした流れの中に埋没した。遅攻なのにポジションは真ん中寄り。となれば、ドリブルするスペースはなくなる。快足を発揮する場も失われる。一方で、得意とはいえない、相手に背を向けるプレーを幾度となく強いられることになった。その魅力は森保式サッカーにハマらなかった。結果としてミスキャストになってしまった。

 今季のJリーグを沸かせた横浜FMのアンジェ・ポステコグルー監督は、この試合をどう見ただろうか。ハッキリ言えることは、森保式と横浜FMのサッカーは正反対だということだ。今回のE−1選手権は、横浜FM優勝でJリーグが幕を閉じた直後に行なわれているだけに、両者の違いは鮮明になる。横浜FMのサッカーを攻撃的と言うなら、こちらは守備的だ。

 5−0で大勝すれば守備的には映らない。だが、相手は香港である。日本代表サッカーの方向性はこれまで、攻撃的だったはずだ。そうしたコンセプトに基づいて代表監督探しをしてきた経緯がある。

 代表サッカーはいつから方向転換したのか。森保監督はコンセプトを問われると「3バックも4バックも原理原則は同じ」と繰り返すが、そのひと言で片付けられては困るのだ。しかし、この責任の所在は森保監督ではなく、本来は関塚隆技術委員長にある。協会を代表する立場にある技術委員長として、代表サッカーをどの方向に進ませようとしているのか。監督任せにするなら、技術委員長はお飾りになる。方向性は常にしっかりと正されるべきものだろう。