最近はすっかり二千円札を見かけなくなりました(写真:ニングル / PIXTA)

間もなく、2019年も年末を迎える。サラリーマンにとってはボーナス、年末年始の帰省費用、お年玉の準備など、お金が動く時期だ。金融機関におけるATMの混雑は年末の風物詩になっている。

そうした中で一向に目にしないのが「二千円札」だ。

二千円札は沖縄サミット開催を記念して、19年前の2000年7月19日に発行された紙幣だ。それゆえ、表の図柄は肖像画ではなく、沖縄首里城の守礼門となっている。欧米主要国では、アメリカは20ドル紙幣、イギリスは20ポンド紙幣、EUでは20ユーロ紙幣のように「2のつくお金」が発行され、よく流通していること、現金の支払い・受け取りに要する紙幣を節約できることが、二千円札の発行理由として説明された。

紙幣の節約とは、例えば、9000円を準備する場合に、二千円札がないと、五千円札1枚、千円札4枚の合わせて5枚の紙幣が必要だが、二千円札があれば、五千円札1枚に二千円札2枚のあわせて3枚で済むという意味だ。

そうして発行された二千円札は間もなく発行20年目を迎える。

いったい、二千円札はどこに行ったのか?

しかし東京在住の筆者は、ここ10年の記憶をさかのぼっても、二千円札を目にしていない。いったい、二千円札はどこに行ってしまったのだろうか?

日本銀行の時系列統計データ検索サイトでは、種類別通貨流通高が検索できる。2019年10月現在では、一万円札が約99.5億枚、五千円札が約6.5億枚、千円札が約41.5億枚。それに対し、二千円札は約1億枚で、発行当時、目標としていた10億枚に遠く及ばない水準だ。

沖縄では二千円札はかなり利用されている。下図は日本銀行那覇支店がHPで公表している全国と沖縄県の二千円札の発行高推移だ。全国で見ると2004年8月の流通量5億1000万枚となったのを境にピークアウトし、現在の約1億枚の水準まで急減した。一方で沖縄県内ではじわじわ拡大し、2019年10月現在で約658万枚が流通していることがわかる。


沖縄では銀行のATMでお金を引き出すと二千円札が出てくるようだが、東京ではどうだろうか? 実際に筆者が調べてみた。みずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、りそな銀行で確認したが、二千円札の入金はできるものの、出金(引出し)はできなかった。いずれの銀行も窓口で両替を申し出れば可能だ。自行の口座を持っていれば一定枚数まで手数料無料という銀行が多い。

街中の自動販売機などではどうであろうか。まず、鉄道。JR東日本、京王電鉄、小田急電鉄で確認したが、自動券売機で二千円を使えた。一方、西武鉄道では使えなかった。西武の自動券売機自体は二千円札対応のようだが、画面の紙幣の種類表示のところの二千円札が「×」になっており、使えない。西武鉄道に聞いたところ、使えるようにするとお釣りとして出てしまい、これが利用者からの苦情になるからだという。バスではたいてい高額紙幣を使えない会社が多く、紙幣は千円札のみというところがほとんどだろう。

一万円、五千円の高額紙幣を使えるものは二千円札を受け付けるようだが、やはり、紙幣は千円札のみという自販機も多い。

対面販売でも試してみた。コンビニで大学生と思しきスタッフに二千円札を出してみた。お札を見て固まってしまい、ほかのスタッフに使えるか聞いていた。日本女子大学生協の販売スタッフに聞いたが、まず二千円札を出す学生はいないという。

若者は二千円札をどう思っているのか?

日本女子大、立教大学のゼミ生(20歳、21歳中心の3年生)計28名に対し、二千円札についてアンケートしてみた。発行される少し前の1998〜99年頃に生まれた世代だ。

まず、二千円札を手に取ってみたことがない学生が7人いた。手に取ってみたことはあるが使ったことはない学生は15人いた。合計で22人が使ったことがないということとなり、その割合は28名中22名で、80%近い。使ったことがあるのは6名だった。

手に取ってみたことはあるが、使ったことがない学生が多かったのは、親などが持っているのを見た、アルバイト先でお客が使ったなどで、手にしたことはあるが、自分は使っていないという理由だ。

アンケートでは、もしATMやお釣りとして二千円札が出てきたらどう思うかも聞いてみた。受け取りたくないなど否定的な意見は5人。逆に、うれしい、ラッキーだと思うなど肯定的な意見が14名、どちらでもないという意見が9名だった。受け取ることを好意的に感じる者が50%を占めた。

筆者自身が街中で調べた感じでは、当初の予想より二千円札が使えるという印象だ。しかし、銀行のATMで二千円札を出金できないことから、これが二千円札が流通しない理由だと感じた。

かつて、サラリーマンは給料日に封筒に入った現金をもらったが、現在は口座振り込みとなり、必要な現金はATMで引き出すことがほとんどであろう。沖縄ではATMで当たり前のように二千円札が出てくるという。ATMで手にする機会が沖縄を除いてほとんどないことが、二千円札が全国的に流通しなかった主な原因といえる。

日本銀行はホームページで、「二千円券の流通促進に向けて」というページを設けている。そこで掲載しているリーフレット「日本銀行券 弐千円物語−もっと身近にご利用いただくために」は二千円札発行当時のものと思われ、そこで示されているデータは発行した2000年当時のものだ。本気で利用促進する気があるようには思えない。

二千円札は忘れゆくお札になってしまうのか?

2020年には東京オリンピックを機会に多くの外国人が訪日する。財務省・日本銀行は観光庁とともに英語版「Japanese small cultural property 2000Yen Note」というリーフレットを日本語版と共に出している。彼らが二千円札を手に入れる機会がどの程度あるかは不明だが、利用時にけげんな態度を取られるようなことがあれば、「おもてなし」の心に反するだろう。

2019年4月9日に 麻生太郎財務相は2024年度上期をメドに一万円、五千円、千円の新紙幣を発行すると発表した。これに二千円札は含まれなかった。現に二千円札は需要が少ないことから、2003年度(平成15年度)以降は製造されていない。二千円札は不遇なお札として歴史に残るのだろうか。