M&Aで買収した企業の再建という結果にコミットできず、RIZAPが赤字転落による窮地に立たされています。本業のジム事業は好調をキープしているものの、ブランドイメージの低下は避けられないようです。何がこのような事態を招いてしまったのでしょうか。店舗経営コンサルタントの佐藤昌司さんが自身の無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』で、その原因を探ります。

RIZAP、コミット失敗で70億円の最終赤字へ

「結果にコミットする」がコンセプトのRIZAPグループは11月14日、2019年3月期の連結業績予想を修正し、最終損益が当初の159億円の黒字から70億円の赤字に転落すると発表した。積極的なM&A(合併・買収)で成長を続けてきた同社だが、グループ企業の経営改善が遅れたことが響いた。経営改善を優先させるため、M&Aを原則凍結することも合わせて発表。経営責任を明確にするために、瀬戸健社長は1年分の役員報酬を全て自主返上するという。

本業のRIZAPブランドの個人向けジム事業は順調だ。関連商材を含めた18年4〜9月期の売上高は137億円で、前年同期から7割増えた。同事業の19年3月期通期の営業利益は、前期比43%増を見込んでいるほどだ。しかし、「グループ企業の再建という結果にコミットできなかった」という認識が世間に広まってしまえば、本業にも悪影響が及びかねない。RIZAP王国が崩壊するかもしれない瀬戸際に立たされたといえ、今後、難しい舵とりを迫られそうだ。

RIZAPは業績不振の企業を中心に買収を進め、それら企業の業績を改善させることでグループの成長を図る戦略を採ってきた。不振が続いていたカジュアル衣料品店のジーンズメイトの業績が上向くようになるなど再建に一定のメドがついた例もある。しかし、多くが道半ばだ。

CD・ゲームソフト販売のワンダーコーポレーションやフリーペーパー発行のぱど、補正下着販売のMRKホールディングス(マルコから社名変更)などの子会社が損失を計上している。こうした子会社が足を引っ張り、18年4〜9月期の連結最終損益は85億円の赤字(前年同期は29億円の黒字)となった。

こうした状況を受け、19年3月期通期の連結営業損益を従来予想より263億円下方修正し、33億円の赤字を見込む。経営再建の遅れにより71億円押し下げると見積もった。また、M&Aの原則凍結により103億円押し下げる。さらに、構造改革に伴う費用などの非経常的損失として83億円計上するとしている。

今後はM&Aを凍結するほか、業績改善が見込めない事業や他のグループ企業との相乗効果が見込めない事業は縮小・撤退する方針だ。

避けられぬブランドイメージ低下による客離れ

RIZAPはM&Aで手に入れる企業の条件として「自己投資産業」に該当するかどうかを挙げている。例えばジーンズメイトは、「おしゃれになる」という「自己投資」を実現するための商品・サービスを提供する「自己投資産業」に該当するということになり、M&Aの対象となったわけだ。

ただ、この「自己投資産業」という言葉は非常に曖昧だ。いくらでも拡大解釈ができる。自己投資とは無縁と思われる産業であっても、ちょっとした工夫を凝らすだけで自己投資産業になり得る。例えば、飲食店は一般的に自己投資産業とは見られないだろうが、健康に良いとされる飲食物だけを扱えば、「健康になる」という自己投資を実現するための商品・サービスを提供する自己投資産業と考えることもできるだろう。ジーンズメイトを自己投資産業とするならば、この解釈は十分可能といえる。

RIZAPは自己投資産業という概念を都合よく拡大解釈してM&Aを進めてきた。はたから見れば、無秩序なM&Aだったように思うが、当人たちはそうは思っていなかったようだ。ジーンズメイトの業績が上向くようになったのは、自己投資産業だからという理由ではない。たまたま上手くいったのがジーンズメイトだったというだけだ。それに、ジーンズメイトの再建が成功したと判断するのはまだ早計といえる。

一方で、自己投資産業でなくても、本業との相乗効果が見込める企業であれば問題はなかった。ただ、RIZAPがM&Aで手に入れた企業を見渡す限り、本業との相乗効果が見込めそうな企業はそう多くはない。ジーンズメイトやワンダーコーポレーションなどは本業との相乗効果は相当低いと言っていいだろう。

例えば、RIZAPで痩せた人がおしゃれに目覚め、ジーンズメイトで衣料品を買うようになるという構想を描いていたが、決して安くはないRIZAPを利用する人がおしゃれに目覚めて大衆向けのジーンズメイトを利用するかというと、はなはだ疑問だ。相乗効果は相当低いといえるだろう。

また、グループ内のファッション企業同士の相互送客など、本業以外のグループ内企業同士の相乗効果は多少見込んでもいいだろうが、とはいえ、相乗効果を生むために必要なコストを吸収できるだけの相乗効果を生むとなるとハードルは相当高くなる。片手間でできることではないが、RIZAPは闇雲に手を広げすぎたがために片手間となってしまい、次第に無理が生じるようになり、期待したほどの相乗効果を生み出すことができなかったといえるだろう。

M&Aは本来、手段であって目的ではないはずだ。しかし、RIZAPはM&Aが手段ではなく目的となっていったのではないか。

こうしたM&Aの失敗は、本業にも影響が及ぶ可能性がある。RIZAPはグループ企業の再建という結果にコミットすることができなかったのだから、本業において、痩せるという結果にコミットすることもできないのではないかと疑問に思う人が出てきてもなんら不思議はない。いずれにせよ、ブランドイメージの低下による客離れが避けられないだろう。

必要な「身の丈にあった成長戦略」

こういった状況のため、RIZAPは既存事業に注力し、新規のM&Aは原則凍結する。なお、これにより同社の利益は目減りすることになる。同社は会計のマジックを使って利益をかさ上げしてきた面があるが、今後はそれができなくなるためだ。

RIZAPは経営不振の企業を中心に買収を進めてきた。経営不振の企業を買収する場合によく発生することだが、買収先の純資産を下回る金額で企業を買収できることがある。その金額差を「負ののれん」というが、RIZAPが採用している国際財務報告基準では、負ののれんは利益として一括計上することができる。RIZAPはこの会計のマジックを利用して利益をかさ上げしてきた。

しかし、M&Aを凍結することでこれができなくなる。19年3月期の業績予想にはこのマジックによる利益計上を織り込んでいたが、それが見込めなくなり、先述したとおりM&Aの凍結で103億円の利益が押し下げられる。

今後は一つひとつの企業をしっかり見ていく必要があるだろう。経営改善や相乗効果が見込めない事業は早急に縮小・撤退が必要だ。無理をせず、身の丈に合った成長戦略を描く必要があるといえるだろう。

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