アイルランドの首都ダブリン。1000年を超える豊かな歴史と伝統を育んできたこの街は、数多くの著名な作家や芸術家、音楽家を輩出してきました。

現代的で機能的な街並みに古色蒼然とした歴史的建造物が溶け込んだ、躍動感あふれる都市の姿が魅力です。

そんなダブリンを代表する観光スポットのひとつが、街の中心に建つクライストチャーチ。ダブリンに2つある大聖堂のうちの古いほうで、ダブリン最古の教会として知られています。

ここに最初の教会が建てられたのは、1038年のこと。

北欧系のデーン人によって木造の教会が建てられた後、1172年には当時の大司教であったローレンス・オトゥールと、ノルマン人騎士のリチャード・ド・クレア=ストロングボウによって、石造りの大聖堂が建造されました。

現在見られる建物は、1870年代の大修復によって、12〜13世紀の資材とヴィクトリア朝のゴシック様式とが融合したものです。

数あるヨーロッパの教会のなかでも有数の歴史を誇るだけに、その姿は質実剛健としていて重厚感たっぷり。一見すると直線的で簡素ですが、計算された造形美は圧巻。見る角度によっては、お城のようにも見えます。

大聖堂内も、外観同様に力強くどっしりとした造り。

内部には複数の礼拝堂があり、正面の最奥に位置する聖母礼拝堂には、現代美術家イモージェン・スチュアートによって1991年に制作された聖母子像が安置されています。

南翼廊にあるダブリンの守護聖人ローレンス・オトゥールの礼拝堂では、ロマネスク様式とゴシック様式のアーチが重なる珍しい装飾が見られます。ここには鉄のケースに入った聖人の心臓が納められていましたが、2012年に盗難に遭い、2018年に再び警察を通じて大聖堂に返還されました。

ミイラ化した聖人の心臓を盗んでどうするつもりだったのか・・・謎は残りますが、何はともあれ無傷で返還されたことは喜ぶべきことでしょう。

13世紀に造られたタイルで彩られた身廊には、ストロングボウの大きな墓があります。ストロングボウとは、1170年にダブリンを征服したアングロノルマン人の指導者。

1176年にこの大聖堂に埋葬されましたが、もともとの墓は1562年に起きた屋根と南壁の崩壊により破壊され、新しい墓石が造られたため、遺体は墓の中にはありません。

このように地上階にもさまざまな見どころがあるクライストチャーチですが、実はそれよりも有名なのが地下室かもしれません。

その歴史を11〜12世紀にさかのぼるこの地下室は、中世の地下礼拝堂としてはアイルランドとイギリス最大級。さらに、現存するダブリン最古の建造物でもあります。

ほかの多くの教会では、地下礼拝堂は教会の地下の一部にのみ設けられていますが、ここでは教会の地下全体に空間が広がっているため、石柱の森さながら。地下は人目につきにくいという理由から、ウィリアム3世が寄付したプレートをはじめ、歴史的な聖宝も展示されています。

この地下礼拝堂の名物ともいえるのが、ネコとネズミのミイラ。

この2体のミイラの背景には、「悲劇」というべきか「笑い話」というべきか、迷ってしまうようなエピソードがあります。

1860年代に、ネズミを追い回していたネコが、パイプオルガンのパイプ内に逃げ込んだネズミを追いかけて自分もパイプに飛び込んだものの、体が大きすぎてパイプから抜けなくなってしまいました。

一方のネズミも、目の前にはネコがいるためにパイプから逃げ出すことができず、結局ネコとネズミは仲良くミイラ化・・・やがて時が流れ、改修工事でパイプオルガンのパイプが解体されたときに、ようやく発見されたとか。

ネズミの表情を見ていると、「逃げたいのに逃げられない」というジレンマと、ネコに対する恐怖心が伝わってくるような気がしませんか。

この2体のミイラには「トムとジェリー」というニックネームが付けられているそうです。「トムとジェリー」は意外に目立たず、地下大聖堂のショップの目の前にひっそりと展示されているのでお見逃しなく。

長い歴史をもつだけに、数々の逸話に彩られたクライストチャーチ。ここを訪れずして、ダブリンの歴史を語ることはできません。

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