大阪北部地震で明らかになった“人災”「阪神・淡路大震災から23年5か月の不覚」
「東西に延びる有馬―高槻断層帯と、南北に延びる生駒西麓断層帯の交点が震源でした。有馬―高槻断層帯は1596年9月、豊臣秀吉の時代に愛媛、大分に続きM7以上の大地震が1週間以内に3連続発生し、秀吉が“明智光秀の祟りに違いない”と慌てふためいて明智の居城『坂本城』を壊しにいったエピソードで知られます。
国内の主な活断層はおおむね400年周期で活動が活発になっている。1995年1月の兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)以降は近くで大地震が発生していないため、“次はまた400年後だろう”と警戒を怠っていた側面もあるのではないか」
立命館大学・環太平洋文明研究センターの高橋学教授(災害リスクマネジメント)はそう指摘する。
よく起こるレベルの地震でも大災害になりうる
高橋教授は「地震と震災は全く別もの」と続ける。
「大阪北部地震のM6・1は規模としてはそれほど大きくありません。5年に6回程度起きている地震です。しかし、震源地周辺は地盤が軟弱で、人口密集地でした。住環境や発生時間帯などの条件を加味して備えなければ、よく起こるレベルの地震でも大災害を招きかねないのです」
気になるのは、6月に入ってからM4・0以上の地震が頻発している千葉県沖の地震との関連性だ。ニュースでは「スロースリップ」現象という耳慣れない言葉が飛び交い、17日には群馬県でも震度5弱を観測するなど不気味な展開をみせていた。
「東日本の太平洋側では2011年3月の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)以降、大慌てで沿岸部の海中にヘビのように連なる地殻変動の観測網を設けたんです。スロースリップとは、プレート同士が境界でゆっくり滑る現象を指し、1日に数ミリ動くような細かい地殻変動まで読み取れるようになりました。
西日本にも同規模の観測網を設ければ、おそらくスロースリップは観測されるでしょう。問題は、観測機器設置から日が浅いため、スロースリップがあったといっても、現時点ではそれが大地震にどうつながるのかわかっていないこと。経験則がないんですよ」
と高橋教授は説明する。
つまり、こうした微細なデータを収集したのちに大地震が起きて初めて、その次の大地震発生に向けたデータ分析などができるようになるというわけ。
「家庭内シェルター」を設けるのが理想
一方、千葉のスロースリップ地震に限らず、今春以降の列島各地の地震発生状況をみると、安穏としてはいられないという。
「4月16〜17日には紀伊半島南端で地震が連続し、6月に入るころから徳島県南部や紀伊水道を震源とする地震が続いています。太平洋側のフィリピン海プレートに押される陸側のユーラシアプレートが、いよいよその圧力に耐え切れなくなって悲鳴を上げ始めたんです。
政府は30年以内に南海トラフ地震が起きる確率を80%としていますが、その発生日には、今日も明日も含まれます。さらに対象エリアについても、西端をフィリピン、台湾まで、東端には首都圏まで含める広範囲なスーパー南海地震を警戒する必要があると考えています」(高橋教授)
余震の心配もある。そのとき、災害から身を守るにはどうすればいいのか。大阪北部地震では、屋外でブロック塀が倒壊し、屋内でタンスや本棚などが倒れて犠牲者が出た。
「小学校のブロック塀倒壊は人災ですよ。名古屋ではブロック塀のかわりに植栽で目隠しする防犯対策が進められており、補助金が出ます。税金を何に使うべきか再考したほうがいい。
タンスや本棚の倒壊被害を防ぐには、1部屋だけでも室内に危険な物を置かない“家庭内シェルター”を設けるのが理想です。エアコンの落下なども想定しておきましょう」(同教授)
災いは虚を突いてやってくる。万全な備えを──。
〈PROFILE〉
たかはし・まなぶ 立命館大学教授。1954年愛知県生まれ。環境考古学(環境史、土地開発史、災害史)が専門。著書『平野の環境考古学』(古今書院)など