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 みなさん、なんとなく保険に加入していませんか?

 生命保険文化センターの調査によると、国民の約8割の人が生命保険に加入し、1世帯あたり平均で年間38万5000円も支払っているそう。「うち払いすぎかしら?」と思ったあなた、加入した保険が本当に必要なのか、実は、いまが見直すチャンス! 

「貯蓄型保険でおすすめできるものはない」

「保険業界は激動の時代を迎えています。マイナス金利政策による影響で、貯蓄型保険の魅力が大幅にダウンしたのです」

 と指摘するのは、ファイナンシャルプランナーの長尾義弘さん。

 マイナス金利とは、読んで字のごとく、金利がマイナスになること。

 金融機関が日本銀行に預けている当座預金の一部が対象で、マイナス金利のもとでは、預けておいても逆に利子をとられて損をするため、どんどん企業に貸し出し、市場にお金が出回りやすくなるだろうというもくろみだ。これでどんな影響が?

「ただでさえ低金利だったところへマイナス金利政策の影響で、生命保険の『標準利率』が昨年、1%から0・25%に引き下げられたのです。

 結果、終身保険や学資保険、個人年金保険といった貯蓄性の高い保険の保険料が値上がりしました。満期金よりも払い込んだ保険料の総額のほうが高くなるのです。

 これでは商品としての魅力がなく売れないので、多くの学資保険や個人年金などは販売中止になってます」(長尾さん、以下同)

 貯蓄型の保険といえば、お金を増やすのに有効な方法というイメージなのに!

「バブル期に加入したものは別にして、いま貯蓄型保険でおすすめできるものはない、というのが、多くのファイナンシャルプランナーの一致した見解ですね」

医療保険には入らなくていい

 生命保険を大きく変えるもうひとつの波がある。それは、長寿化。

「平均余命が延びたことで、保険料の計算の根拠となる『標準生命表』がこの4月に改定されました。保険加入者が死亡するリスクが減ったわけですから、掛け捨てで死亡に備える定期保険の保険料が値下がりしたケースも出てきてます」

 寿命が延びると、医療にかかる機会も増えていく。そのため“長生きリスク”に備えて、さまざまな医療保険が登場している。

「みなさん不安なので、医療保険はいま、大人気。競争が激しい分野です。実際に、入院・手術に対応する従来型の医療保険のほか、就業不能保険、自由診療や認知症に備える保険など、時代のニーズに合わせたさまざまな商品が誕生しています。

 でも、ズバリ言わせてもらうと、医療保険はほとんどのご家庭には不要です。公的な健康保険制度が充実しているので、民間保険で備える必要はありません」

 もうひとりの保険の達人、横川由理さんも、医療保険に頼ることには否定的。

「必要性を吟味しないまま保険に加入している人が多いですね。なかには入らなくてもいい保険もあって、その最たるものが医療保険です。

 “1か月3000円の保険料なら負担じゃない”と思うかもしれませんが、1年払えば3万6000円、10年で36万円、30年で100万円近くに。そのお金、保険ではなく貯金にまわしたほうがよいのでは?」

 では、いったい、どんな保険で人生のリスクに備えたらいいの? ここからは、ジャンル別の見直し術をご紹介。

死亡に備える見直し術

 一家の働き手にもしものことがあったら……と考えると、つい多額の死亡保障で備えたくなるもの。

「確かに、まだ小さな子どもがいるご家庭は、子どもが独立するまでの生活費や教育費が心配です」

 と長尾さん。いざというときへの備えとして、必要なお金の計算法を次のように説明する。

「子どもが独立するまでの年数に、浪人などを見込んだ数年を足して、そのぶんの生活費を計算します。そこに、大学卒業までの教育費をプラスして。ちなみに教育費は、小学校から高校までオール公立、大学のみ私立文系で自宅通学なら1人あたり1000万円というのが目安です」

 この金額から、公的年金でもらえる遺族年金、すでにある預貯金、妻が稼げる金額を引けば、必要保障額を計算できるという。できれば、子どもの進学や独立などライフスタイルが変わるたびに、こまめに保障の見直しをしたいところ。

 ただ、この計算をするのは大変そう、と尻込みをする人も多いことだろう。そこで、ライフスタイル別に必要保障額の目安も長尾さんに教えてもらった。

◎小さい子どもがいる家庭
子ども1人あたり2000万円プラスα。子どもの独立が近いなら減らす。

◎子どもがいない家庭
教育費がないので、大きな保障は必要なし。夫婦の収入のバランスに応じて、200万〜1000万円の定期保険を用意しては。

◎自営業
自営業やフリーランスの場合、厚生年金に加入している会社員よりも、もらえる遺族年金が少ない。そのため必要保障額に1000万円ほどプラスして。

◎家を購入した
ローンを組む際に「団体信用生命保険」に加入しているはず。借りた本人が亡くなった場合、ローンの返済が免除されるので、死亡保障額を減らしてもいい。

 すでに保険に加入していて、その保障額が多すぎるという場合は、死亡保障額を「減額」する手続きをすれば、月々の保険料はダウンする。

「例えば、定期保険特約付終身保険に加入している場合は、定期保険特約部分を減額または解約しましょう。終身保険部分については、1993年4月より前に加入したものは、予定利率が高い“お宝保険”なので、とっておくことがおすすめ。

 保険会社からは別の保険に加入し直すようすすめられがちですが、惑わされないように」(長尾さん)

 お宝の終身保険でも保険料の負担がつらい場合は、横川さんからこんなアドバイスが。

「終身保険を、払済保険に変更するという方法があります。これは保険料の支払いをやめて、これまでの保険料の支払い実績に応じて保障を減額するものです。なお、特約は自動的に解約扱いとなります。

 払済保険に変更しても、契約時の予定利率で保険金支払いまで運用されるので、高い予定利率のメリットをそのまま受けることができます」

 死亡保障が足りない、これから加入したいという人は、「子どもの独立+数年」など期間を区切って、定期保険や収入保障保険を利用すること。割安な保険料で大きな保障が得られるのでおすすめ。

「特に収入保障保険は、子どもの成長とともに保障額が自動的に減っていくので、無駄がなく安上がりです」(長尾さん)

病気やケガに備える見直し術

「私は、病気やケガによる手術・入院など“起きたとしても出費が少ないリスク”には、貯蓄で備えたほうがいいと考えています」

 と長尾さん。手術や入院の出費が“少ない”ってどういうこと?

「公的な健康保険には『高額療養費制度』というものがあり、1か月の医療費が一定額ですむようになっています。私が2週間入院・手術したときは、高額療養費制度が適用された医療費、差額ベッド代、食費で計14万円ですみました」

 でも14万円って、けっこうお高い金額では?

「では、医療保険の保険料と比べてみましょう。保険料月額4500円の医療保険(入院日額1万円・上限60日タイプ)に加入していたとします。14日間の入院だと、手術給付金と合わせて24万円が受け取れますが、保険料を10年払い続けると50万、20年で100万円を超えます。元が取れるとは考えにくい。

 だったら、医療保険は解約して、保険料分を貯蓄したほうがいいのでは? 30万円ほどキープしておけば、短期入院であればなんとかなります。生命保険の医療特約も同様にリストラの検討を。死亡保障のみ残して、医療特約をはずすことも可能です」(長尾さん)

「日本人の死因の上位を占める、がん、急性心筋梗塞、脳卒中に対して保障する『三大疾病保険』についても、解約を検討してみては。

 急性心筋梗塞と脳卒中は、保険会社が決めた所定の病状に一定期間以上なったら一時金が払われるものですが、条件が厳しすぎて使いものにならないことが多い」(長尾さん)

 一方、長尾さんはがん保険については肯定的だ。

「がんの場合、退院後も、放射線治療や抗がん剤治療のダメージで前のように働けなくなる人がけっこういます。それによる年収ダウンが怖い。

 古いタイプのがん保険は入院保障が中心であまりおすすめしませんが、新しいタイプのがん保険で、診断一時金が出る、そして通院治療に対応するものでカバーするといいですね」

 横川さんも、もしがんに備えるなら新しいタイプの保険をすすめるという。

「ゲノム治療など新しい治療法が出てくる可能性が高い。保険のきかない自由診療に対応するものが安心でしょう」

 がんで収入がダウンするという事態に、がん保険ではなく就業不能保険で備えるという手もある。

「就業不能保険の場合、がんをはじめとする病気やケガで働けなくなったら、入院していなくても毎月、保険金が受け取れます。自営業の人、住宅ローンを抱えている人などはこちらもおすすめ」(長尾さん)

老後に備える見直し術

「国民年金保険料を払わずに民間の個人年金に頼ろうとする人がいますが、大間違いです。公的年金の老齢基礎年金は約10年、受給すれば保険料の元が取れ、その後も生涯もらい続けることができるので、とてもスグレモノなんです。

 満額もらえるよう、まずは公的年金の充実から優先してみてはいかがでしょうか?」(横川さん)

 では、公的年金を補うために個人年金に加入するのはどうだろうか。

「バブル期に加入した個人年金は、予定利率が高いままなので、そのまま持っていてOK。最近のものは予定利率が低く、そもそも販売中止になっているものがほとんどなので、これから加入するのは現実的ではありません」(長尾さん)

 そのかわりに目立つのが、外貨建て個人年金をすすめる保険会社や銀行の動き。これについては、長尾さんも横川さんも否定的な意見だ。

「外国為替相場の変動によって損益が生じる“為替リスク”があるのでおすすめできません。受取時に円高だと損をする可能性があります」

 と声をそろえる。

「老後資金を貯めるなら、個人年金よりも貯蓄や投資、iDeCo(個人型確定拠出年金)などがおすすめ。とくにiDeCoは、運用益が非課税だったりと、節税効果によるお得度も高いんです」(横川さん)

「介護や認知症も心配でしょうが、これらをカバーする保険は、条件が厳しいものもあるのでイマイチです」(長尾さん)

進学に備える見直し術

「いま販売されている学資保険は、多くが元本割れを起こします。貯金だとどうしても使い込んでしまう人以外は加入しないほうがいいでしょう」

 と横川さん。

 ならば、将来の進学に、どうやって備えたらいい?

「まずは、児童手当は使い込みを防ぐために、生活費用の口座ではなく、教育費用の口座に振り込むよう手続きをすること。長年貯めていくうえで、インフレや株式市場の混乱などさまざまなリスクに対応できるよう、複数の方法で運用します。

 例えば、銀行の定期預金、積立NISAなどの投資信託、個人向け国債(10年)に分散。お金が必要になったら、そのとき運用成績がいいものから使いましょう」

入るべきおすすめ損害保険

 最後に、長尾さんと横川さんも太鼓判を押す、おすすめの損害保険を紹介する。

◎個人賠償責任保険
「賠償責任補償特約は、家族やペットが他人にケガをさせたり、他人のものに損害を負わせたりして、損害賠償金を払わなくてはならなくなったときに備えるものです。

 お店の商品を壊してしまったなど比較的少額なものから、“子どもが自転車で人をひいて重度の後遺症を負わせ、親が1億円近い賠償を命じられた”といったケースまで幅広く対応できます。

 ありがたい保険なのですが、これ単体では契約できません。損害保険のオプションでつけることになります。自動車保険につけると示談交渉サービスがあるのでおすすめです。火災保険の特約でつけておくと、年間2000円程度の保険料で、1億円の補償が得られます」(長尾さん)

◎家財保険
「火災保険を申し込むときは、建物だけでなく家財保険もつけておくことをおすすめします。家電をはじめとする家財が、火災はもちろん落雷や水害で被害を受けた場合に、補償してもらえます。

 建物のほうは全焼でもしないとなかなか保険金がおりませんが、家財のほうは比較的保険金がおりやすく、頼りになります。なお、地震による建物や家財の被害は、地震保険でしか補償されません。地震が心配な場合は地震保険も忘れずに契約を」(長尾さん)

◎自動車保険の「人身傷害」
「“歩行中に、保険にきちんと加入していない車にはねられ、相手から賠償金を取れずに困った……”というケースをよく耳にします。自動車保険に『人身傷害』のオプションをつけておけば、家族の誰かが歩行中や自転車運転中に自動車事故にあった場合に補償してもらえますよ」(横川さん)

〈PROFILE〉
長尾義弘さん
ファイナンシャルプランナー、AFP。出版社勤務を経てNEO企画を設立。『保険はこの5つから選びなさい』ほか著書多数

横川由理さん
FPエージェンシー代表、証券アナリスト。大手保険会社勤務を経て現職へ。著書に『保険こう選ぶのが正解!』など