「おあむ物語」(読みは「おあんものがたり」)と聞いて、どんな話なのかピンと来る人はそう多くはないだろう。「おあむ物語」は、江戸時代のさなか1730年に成立した、戦国時代の混乱を生き抜いた女性の思い出話だ。実の弟が射殺され、冷たくなっていく様子を目の当たりにする様子や、夜のとばりに隠れて城から脱出する話など、戦国の世に翻弄された生を描き上げる。

そんな話をアニメ化したのが、なんと岐阜県の大垣市。PR動画ではあるものの、クオリティは相当なものだ。さらに、大垣市を舞台とした漫画「聲(こえ)の形」で描かれる場所も織り交ぜられており......?


「おあむ物語」(画像はプレスリリースより)

作品内の「たらい舟」 実は全国で大垣市と佐渡島にしかない

岐阜県大垣市が2018年4月に公開したアニメ「おあむ物語 その夏、わたしが知ったこと」は、同市出身の作家・中村航さんが原作と脚本を担当。戦国時代の「おあむ」と現代の「あん」の主人公に、時間を行き来する作りとなっている。戦国時代の「おあむ」を演じるのは今村彩夏さん、現代の主人公「あん」を演じるのは三森すずこさん、その姉の役に佳村はるかさんを迎えるなど、声優キャストも豪華だ。

「水の都」の異名をとる大垣市では「たらい舟」が有名だが、それは戦国時代、大垣市にいたとされる「おあむ」が城から川を渡って逃げる時に用いられたことにはじまる。Jタウンネット編集部が5月2日、大垣市の経済部商工環境課の担当者に取材したところ、

「実は『たらい舟』は大垣市以外には佐渡島にしかないんです。大垣市は川のたらい舟ですが、佐渡島は海のたらい舟で、違いがあるんですよ」

という。動画は大垣市が18年で市制100周年を迎えることを記念したPRという意味合いはもちろん、「たらい舟」のPRという意味合いもあるという。他にも、原作の「おあむ物語」にも関心を持ってもらえれば、とも語った。

動画にアニメを活用したのは「最近ではあまりない」といい、

「もともと、松尾芭蕉の『奥の細道』の終わりの土地であることもあり、大垣市は年配の方や俳句好きの人が主に訪れる場所でした。ただ、市を舞台にした『聲の形』がヒットしたこともありまして、若者という新しい客層に向けてアニメを使ったPRが出来ないか、と2017年度から企画を立ち上げ始めました。具体的な制作は17年の12月ごろだったと思います」

と説明した。

「おあむ物語 その夏、わたしが知ったこと」は視聴回数が15万回を超えるなど好評。大垣市の「美登鯉橋」など、「聲の形」でも登場した場所が描かれているため、「この橋は『聲の形』でも見たことがある」といった問い合わせがあり、中には「『聲の形』のスピンオフなのか」という質問も寄せられるほどだという。担当者も、「かなり練りました」と語るほどの自信作だ。

大垣市は、秋ごろに市制100周年を記念したイベントを開催するといい、「それに向けても今回の動画を何か繋げていけたらと思います」と展望を語った。