ディスカウントストア業態で国内トップ

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いま圧倒的に“勝っている”企業はどこか。ビジネス・ブレークスルー大学学長の大前研一氏は、その代表例としてディスカウントストア「ドン・キホーテ」を挙げます。大前氏は「『圧縮陳列』により、店内を探索して回る楽しさがある。そうした高いアミューズメント性が、他社にない差別化戦略となっている」と分析します――。

※本稿は、大前研一『勝ち組企業の「ビジネスモデル」大全』(KADOKAWA)CaseStudy3「ドンキホーテホールディングス」 を再編集したものです。
※2016年12月にBBT大学で行われた講義実施時点の公開情報をベースとした見解、予測等であり、現時点もしくは今後について保証するものではありません。また、当時の状況に基づいて考察できるよう、本稿では、データはあえて更新せずに掲載しています。 

■第1号店の出店以降、増収増益が続く

総合ディスカウントストア首位のドン・キホーテは1980年の設立後、1989年にドン・キホーテ1号店となる府中店をオープンしたのを皮切りに店舗数を伸ばし、2017年4月末時点では首都圏を中心に国内外で計360店舗を展開しています。なお、2013年に会社分割を行って株式会社ドンキホーテHDを設立し、持ち株会社体制へと移行しました。小売事業は株式会社ドン・キホーテを中核とし、長崎屋など買収したいくつかの子会社が担っています。

ドン・キホーテは国内のディスカウントストアのなかで突出した企業です。下のグラフを見ると分かりますが、2015年度の売上高は7596億円、2位のトライアルカンパニーとは売上高、店舗数とも2倍ほどの差をつけています。百貨店や通販などを含めた小売業全体で見ても、12位に位置しています。

1号店の出店以来、一貫して増収増益が続いているのも、ドン・キホーテの特筆すべき点です。業績は1号店を出店した1989年から右肩上がりで伸びています。

■「圧縮陳列」と「深夜営業」で成長

ドン・キホーテがこれほど成長した要因の1つは、同社の特徴である「圧縮陳列」と「深夜営業」です。これらがディスカウント業態の都心展開を可能にし、さらにはインバウンド需要の取り込みにつながっていきました。

ドン・キホーテでは、店舗一杯に商品を詰め込んだ「圧縮陳列」と呼ばれる独自のディスプレイ方法で商品を販売しています。それが“ジャングル”のような雰囲気を生み出し、商品を探し出す楽しさから購買意欲を刺激するという効果を生みます。

また、生活者の活動が24時間化している都市部において、「深夜営業」によるナイトマーケットの開拓を他社に先駆けて推進してきました。この圧縮陳列によるアミューズメント性の高い店舗作りと深夜営業によるナイトマーケットの取り込みが功を奏し、本来であれば地価が高く、薄利多売のディスカウント業態の出店が困難な都心や首都圏の繁華街に、ドミナント出店していくことが可能となりました。

■インバウンド需要の取り込みが成功の鍵

ドン・キホーテが首都圏展開を強化していた同じ時期である2003年4月に、政府の訪日旅行促進事業である「ビジット・ジャパンキャンペーン」がスタートしました。主に中国や東南アジア諸国からの旅行客に対するビザ緩和を進めたこのキャンペーンにより、訪日外国人旅行客は2003年の約520万人から2016年には2400万人を突破しました。

これらの外国人旅行客により、都心部では莫大なインバウンド需要が生まれ、都心の繁華街にドミナント出店していたドン・キホーテはいち早くこのインバウンド需要を取り込むことに成功しました。

ドン・キホーテのインバウンド需要について詳しく見てみましょう。時間帯別免税売上高構成比のグラフを見ると、20〜24時の時間帯に、特に免税売上高が伸びています。午前中から夜にかけて徐々に売上高が伸びていきますが、20時を過ぎるとそれが大幅に増え、ピークは22時です。免税客の平均客単価は1万6200円で、国内平均2500円の6倍以上です。

国別では最も高いのが中国で客単価は2万4500円、国内平均の約10倍にものぼります。2位にはタイの1万8700円、次にベトナム・フィリピン・インドネシアの1万6600円と続きます。

中国人観光客にこれほど人気なのは、ドン・キホーテでは自国で買えない成人向け商品を購入することができるというのも理由の1つです。購入した人がブログやSNSなどでその情報を発信し、それを見た人が来日した時にドン・キホーテで買い物するという循環もできているようです。

■長崎屋買収で食品分野と地方展開を補完

ドン・キホーテのもう1つの成長要因は、総合スーパー「長崎屋」の買収による食品分野と地方展開の補完的強化によるものです。従来のドン・キホーテは都心や首都圏の繁華街に出店し、アクセサリー、日用雑貨、家電などを主力商品とし、若者や単身層をターゲットとしていました。

ドン・キホーテ以外の主要ディスカウントストア事業者のほとんどが地方を基盤にしています。そして地方型ディスカウントストアにおける最大の集客品目は食料品です。独自の都市型ビジネスモデルと商品構成を強みとしてきたドン・キホーテは食料品の取り扱いノウハウに乏しく、そのために地方展開が遅れていました。しかし2007年にスーパーマーケットチェーンの長崎屋を買収したことで食料品のノウハウを吸収し、それまで弱点となっていた地方・郊外の店舗を拡大し、主婦やファミリー層もカバーできるようになりました。

商品別の売上高を比べると、長崎屋の買収前はアクセサリー、日用雑貨、家電が全体の7割ほどを占めていましたが、買収後は食品の割合が増大し、2015年度は3割を超えています。同時に首都圏以外への出店も大幅に伸びており、2005年度に4割ほどであった地方店舗は2010年度には5割を上回り、2015年度は6割近くとなっています。

このように都心だけでなく地方への出店も可能となったドン・キホーテは、競合各社を大きく引き離すスピードで成長しています。競合大手には福岡のトライアルとミスターマックス、佐賀のダイレックス、岡山の大黒天物産が挙げられて、いずれも売上高は右肩上がりですが、ドン・キホーテは2位のトライアルを大きく引き離すスピードで成長しています。

■アミューズメント性から差別化戦略が生まれる

ディスカウントストア業態では規模も成長速度も2位以下を圧倒しているドン・キホーテですが、ここで同社を巡る競争環境を整理してみましょう。

圧縮陳列と深夜営業で独自の都市型ディスカウントモデルを強みに、都市部を中心に展開してきましたが、地方・郊外ではその強みは必ずしも活かせません。長崎屋の買収により食品および地方展開の基盤を手に入れたものの、地方には有力な同業他社が多数ひしめいています。

また、都市部においては、コンビニや100円ショップなどの小型業態や通信販売が利便性や安さを武器に競合し、さらに食品スーパーやドラッグストア、家電量販店などが専門性や安さを強みとして戦っています。

ドン・キホーテが同業他社と周辺業態との競争にさらされている状況において、さらなる成長を成し遂げるためには、やはり同社の強みを活かした差別化戦略が重要なポイントとなります。

ドン・キホーテの強みとは、圧縮陳列された多種多様な商品ジャングルのなかを探索して回る楽しさを集客の重要なポイントとしている点です。すなわち店舗をアミューズメント施設と考えている点が他の小売業態と異なる部分であり、そうしたコンセプトに基づく店舗レイアウトや品揃えが同社の強みです。

業界内外の競争が激しい市場でさらに成長するためには、やはり差別化戦略が重要です。高いアミューズメント性こそがドンキの持ち味ですから、この特徴を活かした戦略で、都市部・地方、ECそれぞれでアミューズメント性の再現を図ることが同社の成長戦略の重要な鍵となっていくでしょう。

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大前研一(おおまえ・けんいち)
ビジネス・ブレークスルー大学学長
1943年、北九州生まれ。早稲田大学理工学部卒。東京工業大学大学院で修士号、マサチューセッツ工科大学大学院で、博士号取得。日立製作所を経て、72年、マッキンゼー&カンパニー入社。同社本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、94年退社。近著に『ロシア・ショック』『サラリーマン「再起動」マニュアル』『大前流 心理経済学』などがある。

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(ビジネス・ブレークスルー大学学長 大前 研一、BBT大学総研)