アップル、iPhoneの意図的な低速化を無効にできるアップデート提供。クックCEOが「誤解を招いたことをお詫び」
アップルのCEOティム・クックが、古い iPhoneの意図的な低速化を無効にできるアップデートを予告しました。

今後の iOS ではバッテリーの劣化状況をユーザーが把握しやすくなるほか、不意に落ちる現象を抑えるための意図的な処理速度抑制(スロットリング)の有効・無効をユーザーの意思で選べるようになります。

長年使い続けた iPhoneの挙動が遅くなりイライラしているユーザーからすれば、「低速化は意図的でした。設定で無効にもできます」と聞けば、「当たり前だ早くもとのサクサクに戻せ!」と言いたくなるのは自然です。

しかし「意図的な低速化」が批判されて以来、アップルが説明不足をわびつつ釈明を続けてきたとおり、「意図的な低速化」は劣化したバッテリーの出力不足で突然落ちる現象を防ぐための処理速度制限(スロットリング)。

選択肢として用意するようになっても、スロッリング無効化はあくまで非推奨で、副作用としてiPhoneが突然落ちる可能性を承知したうえで選ぶものとされています。

「意図的な低速化」騒動おさらい



今回の「意図的な低速化」騒ぎの発端は、iPhone 6 など動作が全般に遅くなっていた iPhone が、バッテリーを交換したら治ってサクサクになった!との報告が増えたこと。

従来、古い iPhone が遅くなるのは、OSを更新するたびに加わる新機能の負荷に追いつけないことが主な原因のひとつと考えられていました。

仮に最新OSの負荷だけが遅さの原因ならば、バッテリーを交換しても駆動時間が長くなるだけで「重さ」は変わらないはずです。

しかし実際にベンチマークで検証したところ、同じiPhoneなのにバッテリー交換前後で大きく処理速度が変わることが分かり、これはアップルの意図的な仕様なのでは?古いiPhoneだけを敢えて遅くしているのでは?との推測につながり、さらには「本来はまだ十分使えるiPhoneをわざとモッサリさせることで、新機種へ買い替えさせる罠に違いない!」との非難に発展しました。

「計画的陳腐化だ!」との非難はよく聞きますが、なにがそれに当たるかは難しい問題です。たとえば買い替え促進のために新しい製品を盛り上げるのはマーケティングの基本であり、また新機能や新規格に旧機種が追いつけなくなったり、旧機種を対応させるコストを正当化できなくなるのは、特に急速に発達する家電製品ではある程度は仕方がありません。またバッテリーの劣化など技術的制約もあり、いわゆる計画的陳腐化なのか、企業努力による新製品の改善と「自然な」陳腐化なのかは一概には言えません。

とはいえ、歴史的にはまだ使えるものをわざと使えなくする悪質な計画的陳腐化が本当に行われた例があり、特に欧州などでは、消費者保護の観点から厳罰が課される場合もあります。

アップル、電池劣化 iPhoneの低速化で説明不足を謝罪。バッテリー交換の大幅値下げとiOS改良で対処


この非難に対するアップルの回答と対応は、短くまとめると、

・バッテリーが劣化したiPhoneの処理速度を意図的に抑えていたことは認める。

・しかし、理由はバッテリー劣化が原因でiPhoneが突然落ちる(再起動する)現象の頻発を抑えるためで、買い替え促進では決してない。

・一方、この速度抑制(スロットリング)を導入した際の説明は不足していた。この点は謝罪する。

・対応として、将来のOS更新でバッテリーの劣化状況をもっと分かりやすく表示する。また、保証外のバッテリー交換費用を従来の8800円から3200円に値下げする。(対象はiPhone 6以降、2018年末まで、無審査。ただし一回限り)

アップルはバッテリー劣化時の速度抑制(スロットリング)を導入した理由について、処理能力を抑えなければ突然落ちることが増えたり、劣化状況によっては再起動が連続して操作不能になったり、緊急通報など重要な連絡ができなくなる、写真を撮りたい瞬間を逃す(写真アプリを起動した途端に落ちる等)、アプリやゲームの途中で落ちてデータが破損するといった可能性があるため、ユーザーの使い勝手を優先して、速度の抑制を選択した結果と説明しています。

実際に、このスロットリングを導入した iOS 10.2.1 が約1年前にリリースされた際には、iPhone 6などのユーザーから「いきなり落ちる病が治った!改善した」との歓迎の声がありました。

充電池のヘタリとパワーマネジメントの基本


前提知識として、iPhoneのリチウムイオン電池を含む一般的な充電池(化学電池)は、何度も充放電を繰り返すうちに「ヘタる」ことはよく知られています。

スマートフォンなど近代的なデジタル機器では電源管理(パワーマネジメント)が発達したため、バッテリーは残り容量が%で正確に表示できるものだと思われるようになりましたが、充電池が化学反応に依存するアナログな部品であることは、寒い時期になるとスマホやノートPCが急に落ちる現象が増えることでも実感できるとおりです。

繰り返し使ううちに消耗したバッテリーは、放電できる総量が減るだけでなく、安定して出力する性能も落ちてしまいます。残りバッテリー容量がまだあるはずなのにiPhoneなどが急に落ちるのは、アプリの起動やスクロールなどで一時的に負荷が集中して電圧が追いつかず、部品やデータを守るための挙動です。

雑なたとえで言えば、歳をとって身体にガタがきはじめると、持続力だけでなく若い頃のような無理が効かなくなり、同じように働こうと思っても不意に怪我をしたり寝込んだりしてしまうようなもの。

アップルが古いiPhoneの性能を意図的に落としていたと伝えられた際は、「バッテリーが劣化して駆動時間が減るのは分かってるから、容量いっぱいまで高性能のまま使える選択肢をくれ」との声も多々ありました。しかし上の例でいえば、スタミナだけでなく筋力も反応も落ちている相手に「早上がりしても良いから全盛期と同じ活躍をして」というようなもの。

バッテリー管理の高度化で出力の低下や不安定さはかなり隠蔽できるようになりましたが、それでも無理をするとグキッとゆく恐れが増えるのは避けられません。

アップルはこの計画的陳腐化の疑惑に対して、OSの更新でバッテリーのヘタリ状況と、スロットリングの有無を分かりやすくするとまでは回答していました。

ティム・クックの回答(New!)


今回、アップルのCEO ティム・クックは米国 abcnews の質問に対して、この「意図的な性能低下」はユーザーエクスペリエンス優先を意図した次善の措置だったが、説明が足りていなかったかもしれないとして、「(買い替え促進など) なにか別の意図によるものと誤解させてしまった皆様には深くお詫びする」と述べています。

さらに従来のステートメントにはなかった新情報として、今回の批判を受け止め、将来のOS更新ではこのスロットリングをユーザーが無効にすることも選べるようにすると語っています。

スロットリングを無効にすれば突然の電源断の可能性が増えるはずですが、どの程度の割合からスロットリングを有効にするのか、どの程度の電源断を許容範囲にするかはアップルの判断でした。

クックの説明したアップデート後は、いきなり落ちて肝心のときに使えなかったりデータが消えるリスクをどの程度許容するか、普段遅いことのストレスとどちらをとるか、ユーザーが各自の感覚と自己責任で選択可能になります。

なにより、iPhoneが遅くなってきた場合に理由が分かりやすくなり、本体を買い換えなくてもバッテリー交換で改善する可能性があると分かるだけでも、アップルが反省したとおり「ユーザーへの説明」の点で大きな進歩です。



一年前のiOS 10.2.1から導入されていた「バッテリーの保守が必要になる可能性があります」表示の説明。アップルは最近になってこのサポート文書を更新して、「ただ、その間、App の起動に今までより時間がかかったり、スクロール時のフレームレートが低くなったり、その他のパフォーマンスが低下したことにお気づきになる場合があるかもしれません。」の文言を追加しています。