今の会社がどのようなフェーズにあるのか、どのように見極めればいいのでしょうか(写真:Elnur / PIXTA)

『会社を育てる戦略地図』を著した事業戦略家の山口豪志氏が、クックパッドの上場やクラウドソーシングのランサーズの急伸を実現した事業戦略を公開します。

「昇る朝日も、沈む夕日も、同じように見える」

一度はヒット商品を出したのに、その後が続かない。顧客が定着しない。思うような人材が集まってこない。時間をかけて育てた社員の退職が相次いでいる。このような問題にどう対処したらいいのかわからないという経営者は少なくありません。

問題を放置したままでは、会社の成長は止まってしまいます。早急に何か策を講じなければいけません。

私は経営コンサルタントとして、あるいは上場を目指す会社の一社員として、これまで数多くの会社の成長に尽力させていただきました。会社の「フェーズ(成長段階)」ごとに生じる課題を整理し、その対処法をなるべく具体的に論じ、冒頭で挙げたような問題までカバーしています。

「昇る朝日も、沈む夕日も、同じように見える」

これはグーグルの日本法人社長を務めたこともある実業家の辻野晃一郎氏に教えてもらった言葉です。私たちは傾いた太陽を見たときに、「朝日だ」あるいは「夕日だ」と理解することができます。太陽が東にあれば朝日、西にあれば夕日です。方角がわからなくても、時間の感覚で理解することもできるでしょう。でも、そういった情報を一切持たずにただ傾いた太陽だけを見た場合、それが朝日なのか夕日なのかは簡単にはわかりません。

夕日を見てから「今日は洗濯日和だ」といって洗濯物を外に干し始める人がいないように、会社も「今どの状態にあるか」によって、経営者、社員がすべきことは変わってきます。

たとえば、昨今盛んに言われているダイバーシティ(多様性)は、あたかもすべての会社に必要であるかのように言われていることがあります。でも私は、それは誤りだと考えます。ダイバーシティが必要なフェーズというのは限られていて、フェーズによってはむしろ会社の成長を阻害することすらあります。

「0 to 100(ゼロ・トゥ・ヒャク)」という数字は、会社のフェーズを表しています。0 to 1が起業、100が上場に当たりますが、どんな大企業も、いきなり10や20から始まることはありません。

必ずゼロから(正確には起業家が起業の準備をする0以前の段階から)ビジネスが始まっており、創業者は産みの苦しみ、育ての苦労を経験しています。そしてこのフェーズは100になったら終わりではなく、それ以降も会社は存続し続けることが求められます。

今回、0(0以前含む)から100までのフェーズを6つの段階に分けました。それぞれの呼び方、重要テーマ、目安の社員数(経営者含む)は次のとおりです。会社という組織がどのようなプロセスで成長していくのかを知れば、自分の会社を俯瞰して見ることができるでしょう。

<→0>(ゼロマエ):起業前夜(1人)
<0→1>(ゼロイチ):顧客の発見(1〜3人)
<1→10>(イチジュウ):商品の完成(3〜20人)
<10→30>(ジュウサンジュウ):採用と組織づくり(20〜50人)
<30→50>(サンジュウゴジュウ):新事業開発(50〜100人)
<50→100>(ゴジュウヒャク):上場に向けて(100人〜)


フェーズごとのチェックシート(出所:山口豪志『0 to 100 会社を育てる戦略地図』(ポプラ社)P28より掲載)

前述のとおり、会社に立ちはだかる課題はフェーズごとに異なり、すべきことも変わってきます。たとえば<10→30>では、中間管理職の育成や給与制度等の内部の仕組みづくりが課題となり、<30→50>では定番商品への進化や取引先企業との関係づくりが課題となります。

先ほどのダイバーシティが重要視されるのは、新規事業の開発が必要になるこのフェーズから。それ以前のフェーズでは多様性よりも均一性を重視し、会社が一丸となって前進するための基盤を強化すべきです。20人規模の会社で多様性を重視していたら、会社の推進力はむしろ低下してしまいます。戦略は、フェーズに応じて変えなければなりません。

やるべきことに漏れがないか、チェックリストを活用


フェーズごとのチェックシート(出所:山口豪志『0 to 100 会社を育てる戦略地図』(ポプラ社)P29より掲載)

それぞれのフェイズにおける課題を、チェックリストにしています。たとえば、採用と組織づくりが重要となる<10→30>フェーズでは、

・「中間管理職(マネージャー)」が育っていますか?
・信頼する創業メンバーに、しかるべき役職を与えていますか?
・人事制度、給与設計、昇給制度など「内側の仕組み」は整いましたか?

など8つの項目があります。なぜそのような課題をクリアしないといけないのか、具体的にどういったことをすればよいのかといったことを著書で述べました。もし会社の成長が止まっているのであれば、そのフェーズのチェックリストのどれかが未達成、あるいはあいまいになっている可能性が高いと考えられます。チェックリストの課題を1つずつクリアしていくことで、会社の成長も見えてくるでしょう。



フェーズごとのチェックシート(出所:山口豪志『0 to 100 会社を育てる戦略地図』(ポプラ社)P30〜31より掲載)

「フェーズ」を知っておくべき理由

私はレシピサイトのクックパッドで社会人生活をスタートし、同社の上場を見届けてから、クラウドソーシングのランサーズで働き始めました。いずれも入社当時は初期フェーズの会社でしたが、小さな会社が成長していく喜びを実感できたことが、スタートアップを支援する現在の仕事につながっています。創業間もない初期フェーズの会社の成長に貢献することが、私の性には合っているようです。

ただ、私がこの「フェーズ」という考え方をいちばん身に付けていただきたいと思うのは、経営層よりもむしろ、社員として会社の中で働く皆さんです。会社の成長に欠かせないのは、言うまでもなく社員の力です。経営者一人でできることには限界があります。

社員の方がフェーズを意識して、今の会社の立ち位置を知ったうえで働くことができれば、今よりも高いパフォーマンスを発揮しやすくなります。会社はもちろん、個人の成長にもつながるでしょう。


注意していただきたいのは、人にはそれぞれ、フェーズとの相性があるということです。ここでミスマッチが起こると、社員が力を発揮しにくくなります。刺激に満ちあふれた初期フェーズでバリバリ働きたいという人もいれば、中期フェーズで落ち着いて働きたいという人もいます。

同じ業種でも、フェーズが違えば求められるスキルも異なります。人数の少ない初期フェーズでは、一人で複数の業務をこなさないといけませんが、ある程度社員数が増えてくると、作業が分担化され、より専門的な仕事が求められるようになります。

そういう意味では、これから就職活動を始める学生も、会社のフェーズというものを意識しておくといいかもしれません。どのフェーズの会社で働くかによって、仕事へのやりがいは大きく変わってきます。会社の名前よりも、待遇よりも、「自分が生き生きと働くことのできるのはどのフェーズか」を考えてみましょう。


0から100までの成長段階(フェーズ)(出所:山口豪志『0 to 100 会社を育てる戦略地図』(ポプラ社)P22〜23より掲載)