東京メトロと都営地下鉄、運賃一体化の行方は?
2017年6月29日、東京メトロの新社長に就任した山村明義氏は就任会見の席で、都営地下鉄との乗り継ぎ時の「通算運賃」利用を都に提案していると発言し、大きな話題となった。東京メトロと都営地下鉄とを乗り継ぐ場合の料金の一体化にメトロのトップが意欲を示したからだ。さらに内容が具体的であることも目を引く。運賃一体化の実現を「東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年」を念頭にしているとしたのだ。
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東京メトロと都営地下鉄の経営統合は2010年に当時副都知事だった猪瀬直樹氏によって提案されたが、双方の経営規模の違いのほか課題が山積。そんな中、東京メトロ半蔵門線と都営地下鉄新宿線のホームを隔てていた九段下駅の通称「バカの壁」をぶち抜くパフォーマンスは記憶に新しい。これに代表されるように双方は「改札通過サービス」を6箇所で導入、互いの構内を通過できるようにするなどの歩み寄りもされている。さらに駅の案内表示を統一するなどして、時間の正確さ・清潔さなどでは世界的な評判を得ている。
しかし、案内表示の統一がかえって混乱を招いているとも言える。というのも、2事業者の路線が混在していると認識しているのは、東京近郊に在住し、都内の地下鉄をいつも利用する人に限られると言っても過言ではない。東京以外の地方の人が都内で地下鉄を利用する際、同じ区間でありながら金額が異なることに面食らうだろう。初乗り運賃の二重取りは路線が異なれば発生する。しかし双方の地下鉄の場合は同じ地下を走り、案内表示が統一され、改札通過サービスがあるにもかかわらず、経営統合の本丸とも言える『運賃一体化』のみが棚上げされたままなのだ。
日本人でも混乱しやすい「運賃」を棚上げしたまま、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを迎えた場合、外国人客はさらに混乱する可能性が高い。だからこそ、東京メトロ新社長が期限付きで提案をしたというのも頷ける。
この発言に対し、都営地下鉄側は「なにも決まっていない」と即座に反発。東京メトロ側の提案である「値下げ」案に同調すれば、利用者数や経常利益ともに東京メトロの3分の1程度の規模しかない都営側にとって、乗り継ぎ時の初乗り運賃を失うことになるからだ。
メトロ側も都営のこうした反応を見て「まだ都営側と勉強している段階」とし、事態の沈静化に走った。現在もこの問題については交渉中とみていいだろう。
地下鉄運賃の一体化は利用者への究極のサービスと言える。2020年という節目の年にまで実現させたいというメトロ側の意向は現段階では極めて実現が難しそうだ。