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賃貸住宅に住んでいると、「このまま賃貸にずっと住んで大丈夫かな?」と思う人もいるだろう。ずっと賃貸に暮らすという選択肢もありなのか、マネープランを中心に考えてみた。

賃貸と持ち家、どちらがおトクとは一概に言えない

まず住居費について簡単なシミュレーションをしてみよう。30歳から90歳まで、60年間にわたって家賃10万円(管理費込み)の賃貸住宅に住み続けたとすると、家賃の総額は12カ月×60年×10万円=7200万円。これに更新料が2年に一度かかるとすると30回×10万円で300万円なので、合計で7500万円だ。

一方、4000万円の家を頭金ゼロ、金利1.2%、35年返済の住宅ローンを借りて買ったとすると、ローンの毎月返済額は11万6680円となり、35年間の総返済額は約4900万円。この住宅がマンションとして管理費・修繕積立金が毎月3万円かかったとすると、60年間で2160万円となり、合計で約7060万円かかる。

もちろん、この設定条件で住める家の広さや設備は地域によっても異なるし、持ち家の場合はリフォーム費用がかかったりするので、一概にどちらがおトクとは言いがたい。言えるのは、賃貸も持ち家もそれなりにかかるということだけだ。

老後も賃貸なら5000万円の貯蓄が必要になる

賃貸暮らしで気になるのは、年金生活になる老後も家賃の支払いが続くことだろう。たいていの場合は生活費と住居費のすべてを年金でまかなうのが難しいので、退職までに貯蓄しておく必要がある。ではいくら貯めればよいのか、ファイナンシャルプランナーの鈴木さや子さんに試算してもらった。

「60歳から90歳まで30年間に必要な住居費は、家賃10万円として3600万円です(更新料除く)。また家計調査(平成28年)によると、2人以上無職・世帯主65歳以上世帯の支出は26万7446円(税金・社会保険料含む)で、うち住居費が1万4294円なので住居費を除く生活費は25万3152円。

同じく家計調査では年金などの収入は20万5682円なので、『25万3152円-20万5682円=4万7470円』を貯蓄から毎月取り崩さなければなりません。

65歳までは再就職などで生活費をまかなうとして、『4万7470円×12カ月×25年=1424万円』が不足するので、住居費3600万円と合わせて5000万円以上の貯蓄が必要になる計算です」(鈴木さん)

【図1】60歳〜90歳の間にかかるお金一例(賃貸)(図表作成/SUUMOジャーナル編集部)

賃貸暮らしは住宅ローンや固定資産税などの負担がない分、現役時代の住居費は抑えやすい。半面、老後も家賃負担が続くので、退職時には余裕のある貯蓄が必要になるのだ。

賃貸住宅に住み続けるには、収入に余裕があるか、貯蓄する能力の高い人であることが求められます。ただ、持ち家に比べて気軽に引越しができるので、収入が減ったら家賃の安い家にダウンサイジングするなど、フレキシブルに対応できる点がメリットでしょう。また万一の場合に帰れる実家があったり、将来の相続財産をあてにできたりする人も賃貸向きと言えます」(鈴木さん)

持ち家と比べて保証はどう? 高齢になっても家を借りられる?

●家の保険
賃貸と持ち家とのお金面での大きな違いとして、保険が挙げられる。持ち家は住宅ローンを借りるときに火災保険への加入が必須となり、地震による被害に備えて地震保険への加入も検討する必要がある。保険料は合計で年間数万円〜10万円前後が一般的。これに対し賃貸は火災対策として、家財保険と借家人賠償責任保険がセットになった保険などに加入するケースが多いが、保険料はせいぜい年間1万円前後だ。地震保険に加入する必要はなく、地震で建物が壊れたら大家に修理してもらうか、転居すればいい(地震による家財のダメージに備えたい場合は要加入)。

●生命保険
一方、生命保険については賃貸暮らしの分が悪くなる。

「住宅ローンを組むと『団体信用生命保険(団信)』に加入するのが一般的なので、万一ローンを組んだ人がなくなった場合は住居費を除いた生活費をカバーできれば大丈夫です(ただし管理費や税金などはかかります)。
でも、賃貸住宅の場合は世帯主が亡くなっても遺族が家賃を支払い続けなければなりません。家賃の安い住まいに引越したとしても、遺族の経済力でまかなえない分は保障の上乗せが必要になります。保障額が徐々に減っていく逓減(ていげん)タイプの『収入保障保険』などが、保険料が比較的安いのでオススメでしょう」(鈴木さん)

●その他
このほか、持ち家の場合は住宅ローン控除などの優遇策が受けられるが、賃貸の場合はそうした制度がないので不利な面がある。また高齢になってコンパクトな賃貸住宅に住み替えようと思っても、借りられる物件が見つかるかどうか心配な人もいるだろう。ただ、そうした賃貸の不安も対応できる場合もあると、鈴木さんは教えてくれた。

「企業によっては社宅や家賃補助などが利用できるケースもあるので、勤務先を選ぶときなどに確認するといいでしょう。また最近はサービス付き高齢者向け住宅などが充実しつつあり、高齢になってからの一般的な賃貸住宅以外の選択肢も増えてきています」(鈴木さん)

賃貸住宅は「いくら家賃を払っても自分の資産にはならない」と考える人は少なくないが、人口が減少しつつあるなか、買った家が数十年後も資産価値を維持している保証はない。老後に備えてしっかり資金を蓄えながら、ライフステージごとに好みの賃貸住宅に住み替えるという選択肢も、検討に値するといえそうだ。

●取材協力
株式会社ライフヴェーラ
(大森 広司)