レスター・シティの岡崎慎司が、W杯アジア最終予選・UAE戦の行なわれるアルアインへ旅立った。

 代表戦直前の3月18日には、プレミアリーグ第28節のウェストハム・ユナイテッド戦で先発。公式戦4試合連続の先発出場を果たし、3-2の勝利に貢献した。また、出口の見えないトンネルに入っていたレスターとしても、これで公式戦4連勝。岡崎は気持ちよく決戦の地へ向かった。


先発した岡崎慎司は持ち前のハードワークでチームの4連勝に大きく貢献した 振り返ってみると、日本代表FWの立ち位置はこの1ヵ月で劇的に変わった。

 転機となったのは、クラウディオ・ラニエリ監督の解任。それまでベンチ要員に成り下がり、出場機会は限定的であった。実際、解任までの公式戦10試合を紐解くと、先発数は半数以下の「4試合」。このうちの2試合はクラブとして優先順位の落ちるFAカップでの先発で、まったく出番を与えられなかったのは4試合にのぼった。

「今のところ打開策を見つけられていない」(1月22日/第22節サウサンプトン戦)、「難しい時期に差しかかってきている」(1月31日/第23節バーンリーFC戦)と、本人も出番を与えられない現状に難しさ、もどかしさを吐露していた。客観的に見ても、この時期の岡崎はラニエリ前監督の構想から外れていたように思う。

 それでも日本代表FWは決してあきらめなかった。チームの状況を把握しながら、自分にできること、アピールポイントを正確に掴む。そして同時に、自身の課題を見つめ直すことを忘れなかった。たとえば、出番のなかったエバートンとのFAカップ3回戦(1月7日)では、次のように語っていた。

「このチームにおける自分の役割はほぼ決まっている。『自分のやることは決まっているな』って感じで。でも、その役割(献身的な動きやハードワーク)を果たさないと。まずはそこからだと思いますよね。まずはチームと監督がやりたいことをぜんぶ体現し、そのなかでプラスアルファ、個人のところでゴールだったり、キープ、ドリブル、パスだったり(でアピールしていく)。そういうところでチャレンジしていけたらなと思います。焦っても仕方ない。今は我慢が必要かなと思いますね」

 また、プレミアリーグ第24節のマンチェスター・ユナイテッド戦(2月5日)でも、自身の課題を真正面から受け止めていた。

「自分の課題が、すごく出ているなって思いますね。チームが苦しい状況になったとき、自分で何も(アクションを)起こせない。結局、リンクプレーだったり、守備でしか活躍できない。敵のマークをはがしたり、タメを作って(MFリヤド・)マフレズをフリーにしてあげるとか、そういうことができれば、僕ももう1歩前へ進めると思う。だから、ただただ情けないなって」

 このマンチェスター・U戦で先発した岡崎は、精力的に走ってチームを助けていたが、戦術的理由により前半だけで交代を命じられた。言わば、「采配の犠牲」となる形でピッチを退いたが、クサる素振りも見せずに前を向いていた。

 チームが呪われたように勝てなくなり、自身の出番が減っていった12月以降は、日本代表FWも相当精神的に堪えていたに違いない。しかし本人は、「雑草魂」と言うべき不屈の精神でこの苦境に耐えた。いずれチャンスは来ると、そう信じていたのだろう。

 そんな彼に転機が突然訪れる。2月23日、ラニエリ電撃解任――。

 アシスタントコーチのクレイグ・シェイクスピアが監督に昇格すると、昨季躍進の原動力だった「プレッシングサッカー」へとチーム戦術を修正し、スタメンも昨季の優勝メンバーに戻した。岡崎の風向きは一気に変わり、サブからレギュラーに復帰したのだ。しかしその裏では、不遇をかこったラニエリ時代も「『絶対に使ってくれ!』と思いながら、練習でも(手を)抜かなかった」(岡崎)とアピールを続けた日本代表FWのひたむきな姿と努力があった。

 こうした経緯を経て、岡崎はW杯最終予選に挑む。

 4試合連続で出場していることから試合勘に支障はなく、本人も「コンディションはまったく問題ないです。あと周囲の見方も。『慎司は試合に出ているから』という見方をしてもらえると思う。日本代表は、監督の要求がレスターとまったく違う。チームのスタイルも異なるし、新鮮な気持ちで、もう一度日本代表にいってガムシャラに貢献したい」と意気込む。

 とは言うものの、センターフォワード(CF)の定位置は大迫勇也(1FCケルン)の台頭もあって安泰ではない。「前の4つのポジションだったらどこでもできると思っているが、(ハリルホジッチ)監督からすればCFしかないと思う。ただ、大迫だったり、久保(裕也/ゲント)だったり、いろいろなチョイスがあるなかで、自分もそこで結果を出せるよう準備したい」(岡崎)

 自身が選手としてスケールアップし、日本代表の力にもっとなりたいとの強い想いから、プレミアリーグの門を叩いた岡崎慎司。世界中から猛者が集うイングランドで、屈強なDFと対峙しながらここまで戦ってきた。レスターでの得点は12月3日のサンダーランド戦から遠ざかっているが、プレミアで培ってきた経験、そして磨いてきた感覚はアジア最終予選でも大きな力になるだろう。特に、レスターで精力的に取り組んでいる「前方への鋭いターン→シュートに持ち込む」動きは、前線の力強い武器になるはずだ。

 アグレッシブなプレーとハードワークでレスターに立ち込めていた霧を晴らしたように、今度はゴールで大一番に挑む日本代表を救いたい。

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