8日、Jリーグ・横浜F・マリノスは「試合観戦における不正入場について」と題して、小中学生向けの割安チケットを意図的に購入して入場しようとする大人の客があとを絶たないと指摘する記事を公式サイトに掲載しました。今季は横浜F・マリノス以外にもセレッソ大阪、清水エスパルスでも同様の事態が報告されており、該当者に対して無期限入場禁止などの重い処分がくだされています。
チケット代をごまかそうとして「こども料金」での入場を試みるのは古典的な手法で、それ自体は驚くようなものではありません。これまでも継続的に行なわれていたことに対して、クラブ側で見て見ぬフリができなくなった、ということでしょう。同時多発的に起きているあたりにも、Jリーグ側の本腰を入れた姿勢というものが垣間見えます。

エンターテインメントというのは、「行かなくても問題ない」ものです。興味がなければ観る必要はないし、それで困ることもありません。本来なら、それが観たくてたまらない人が、料金ぶんの価値を認めてチケットを買うべきもの。野菜やコメのように、「食べなきゃ死んでしまうので仕方なく買う」ものではない。「高い」と思うなら、行かなければいいだけの話です。Jリーグが高いと思ったなら、映画にでも行けばいいのです。

こども料金で入場するというのは、「そのエンターテインメントにチケット代に見合う価値を見出していない」けれども「行きたい」という矛盾をはらむ行為です。何故、正規の料金を払う価値がないものに、不正をしてまで出かけていくのか。時間の無駄だとは思わないのでしょうか。単に、不正者を摘発するということだけでなく、Jリーグ側には何故そんな矛盾した事態が起きるのかという点を考えてもらいたいもの。

ひとつは、チケット代に対して試合の価値が低く見なされている。「料金の割にはつまらない」と思われている。試合の価値が高まり、「1万円払っても見たい」と思う人が続出し、席を取ることすら困難であれば「こども料金で不正入場」などやっている場合ではなくなります。とにかくどこか1席でも確保できたら満足、そういう状態になるでしょう。人気の興行では、それがまた「チケット転売」という別の問題を生むわけですが。

そして、もうひとつは「試合目的ではない入場」というものが、Jリーグには比較的多いのではないかという点。Jリーグが発表した2014年ぶんの観戦者調査では、シーズンチケットの保有者は年平均17回、それ以外の観戦者は年平均7回もスタジアムに足を運ぶ、ヘビーなリピーターが多いことが明かされています。「試合を見る」ことより「そこに顔を出す」ことが重要になっていないか。電車のキセルが、電車に乗ること自体に興味があるわけではないように、試合以外の人間関係や交流がメインになっていることでチケット代が惜しく感じられるのではないか。

いずれにしても、不正者を摘発するだけでは根本の解決にならないことは確か。「正規の値段を払って見たい」と思う観戦者をスタジアムの座席数以上に獲得すること。結局はコンテンツの充実がなければ、こうした問題はあとを絶たないのではないでしょうか。そして、このような啓蒙をしなければならないこと自体が、Jリーグのコンテンツ価値という意味では好ましくないでしょう。「ファンでも金をケチりたいようなコンテンツなんだ」ということを大声で宣伝するようなものですから。

わざわざメッセージなど出して犯人を警戒させるよりも、ひっそり粛々と摘発しつづけるのがよいのではないかと思います。

(文=フモフモ編集長 http://blog.livedoor.jp/vitaminw/)