鹿取 義隆氏【後編】「侍ジャパン」への入り口に立つ投手・指導者たちへ
前編では鹿取氏に打撃投手の重要性、また正しい技術を学ぶ大事さを語っていただきました。後編では動作解析を行う大事さや、現在の中学世代に伝えているなどを教えていただきました。
「動作解析」と「基本」が投手への道鹿取 義隆氏(侍ジャパンU-15 監督)
――では、そのような理論を持つ鹿取さんは現役時代、指導者の教えに対して疑問を持つことはあったのでしょうか?
鹿取 ありました。たとえば大学時代「ナイスボール!」といわれて、何が良かったのかが分からない。実はその疑問はプロ入りから現役引退するまでずっと続いていて、自分の何が良いのか、その「絵」が思い浮かばなかったんですよね。感覚はあるんですけど、映像が出てこなかったんですよ。ですから、僕は指導者としてスタートを切った1998年に「動作解析」を始めたんです。
そうやって選手に良い時の投げ方と悪い時の投げ方を比べると、選手も「なるほど」と納得するんです。動作解析することで、良い時のフォームを目に焼き付けて、その再現性を高める。一方でいいフォームでない選手に対しても「何ができていないのか」を映像で理解させる。当時はそれほど広まっていなかったですが、これは少年野球からやったほうがいいですよ。今はスマホでも動画が撮れる時代ですから、良い投げ方をしっかりと撮って、目に焼き付けることが大事です。
――もう少し、投手に指導している内容を教えてください。
鹿取 「真ん中に投げろ」ということです。一般的には「アウトローを投げられることが大事」といいますが、プロでもアウトローにコントロール良く投げることはなかなかできません。まず真ん中に強く、コントロールできるボールを投げることがアウトローよりずっと大事です。実際にピッチングを見る場合は「カーブ行きます!」といっても、ほとんどボールの時は「もう7球連続ボールだよ!」と言って(笑)、真ん中にしっかりと投げることを教えています。
――では正しい投げ方を覚えれば、どんな選手でも投手になれますか?
鹿取 全員がなれると思いますよ。誰でもチャンスがある。私自身も捕手からのスタートでしたし、プロで活躍している投手も、ずっと投手だったわけではなく野手をやっていて、あるときに投手になって、それが一番力を発揮できるポジションだった選手もいます。いろいろなパターンがあると思いますが、正しい投げ方をできれば、投手になれるチャンスは出てくると思います。
[page_break:「上へ昇りつめてほしい」子供たちへ]「上へ昇りつめてほしい」子供たちへ鹿取 義隆氏(侍ジャパンU-15 監督)
――鹿取さんは現在、侍ジャパンU-15代表の監督でもあります。彼ら中学世代にはどんなことを教えているのでしょうか。
鹿取 やはり基本ですよ。先日行われた第3回 WBSC U-15ベースボールワールドカップ2016への選手トライアウトを見ても上手い子が集まっています。飛び抜けて肩が強かったり、足が速かったり、パワーがあったり、速いボールが投げられたり。でも、その中には基本をやらずにできる子もいる。そういう子たちはこのままにすると伸びない可能性があるので、この先、上手くなるために基本的なことや高いレベルのことを教えています。トライアウト中もある中学生投手を見て「この投げ方のままでは故障してしまう!」と、もう一度、正しい投げ方を指導しました。
――これまでそのような形で指導された現在の高校生たちが甲子園に出場していたり、プロ注目の選手になっている状況についてはいかがでしょうか。
鹿取 嬉しいですし、老後の楽しみが増えたと思います(笑)。彼らには「真面目に野球を続けていてくれてありがとう!」と言いたいですし、彼らとはトップチーム、U-23代表で再会する可能性がある。それも楽しみにしています。
――最後に育成年代の指導について思っていることをお願いします。
鹿取 私はプロに入って現役19年間、コーチとしても本当に良い思いをさせていただきました。ですから、野球をやっている子どもたちには上へ昇り詰めていってほしいですし、私はその手助けができればと思います。やはり今は野球をやる子が減っていますので、今、やっている子どもたちをしっかりと教えることが大事だと感じています。
侍ジャパンU-15代表トライアウト中にも、選手・スタッフばかりでなく、会場設営の皆さんにも声をかけ、常に「選手のために、子供たちのために」指導をしている鹿取氏。その丁寧さ、優しさは自らの専門分野である投球論だけではなく、その道のスペシャリストたちに話を聞いて、自分なりに解釈し、分かりやすくまとめた打撃、守備、走塁についての説明もされた「キミも侍ジャパンになれる!世界で通用する野球の技術指導論(竹書房・刊)」内にも現れている。ぜひ鹿取氏のノウハウを明日から実践してみよう!
(取材・文=河嶋 宗一)
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