県立前原高等学校(沖縄)

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去年の悔しさの分まで絶対に勝つ!

 昨秋、そして今春と連続ベスト8の前原。投の山根、打の平良と二人の柱を中心に着実に力を上げてきた。奇しくも春の準々決勝で敗れた美来工科と、2回戦での再戦という可能性を持つ山に組まれたことも、あながち偶然ではないとナインの誰もが思っていることだろう。やるべきことは全てやった、あとは試合を待つのみの前原に、今回はお邪魔してみた。

史上最弱からの奮起

平良 竜哉選手(県立前原高等学校)

 山根 蓮太、平良 竜哉ら現3年生たちは、一年生、そして新人の両大会において予選を勝ち抜くことは叶わず、中央大会に出ることは無かった。一年生中央大会で沖縄尚学を破って優勝したタレント軍団の嘉手納を筆頭に、タイシンガー ブランドン 大河のいる石川、そして武内 由伸や仲宗根 登夢らのいる美来工科が、中部北地区の3強を形成。「嘉手納高校さん、石川高校さん、美来工科さんとは差があった。この春も(美来工科に)負けてしまった。まだまだ埋まっていない。」と大川 基樹監督は語った。

 新チームになっても、何が何でも勝ちたい!という気持ちを出す選手は限られていた。平良一人だけでは勝てないんだよ。そのことに気付いて欲しかった大川監督は、敢えて嫌われるような言葉をナインたちに掛けた。「君たちは、僕が見てきたチームの中で“史上最弱”だ!」。技術的なことではない。気持ち、そして人間性としての足りなさが歯がゆく、ハッパを掛けたつもりだった。「跳ね返してこい!」そんな指揮官の親心はナインにも伝わる。「オレたちは最弱なんかじゃない!」。気持ちが変わると、練習での態度も変わってきた。

ターニングポイントとなった糸満戦

 そして迎えた秋。初戦の相手は強豪糸満。前チームから1番を務める大城 翔太郎と、マウンドを踏んできた平安 常輝らを前にして前原は互角に渡り合う。3回表、下位打線で二死二塁として1番へ返すと、内野安打と四球で満塁とし平良 竜哉のセンター前タイムリーで2点を先制した。ところがその裏、大城 翔太郎にソロアーチを浴びると5回に同点に追い付かれる。しかしここからが「ウチは負けない野球」という前原の真骨頂だった。

 二番手としてマウンドに上がった高江洲 翔が見事なピッチングで糸満打線を寄せ付けず延長10回、自らの打席でスクイズを成功させて決勝点を奪うと、その裏一死二塁と粘る糸満を振り切り勝利を収めたのだ。「この勝利は彼らに自信を与えました。」糸満戦後の練習での身の入りようは、その前とは比較にならないほど熱いものへと変わっていった。

 続く2回戦は9対2の8回コールドで具志川を下すと、3回戦の未来沖縄(KBC学園)戦では、0対0の痺れるような展開を我慢し続け13回裏、平良のサヨナラタイムリーで勝利。秋では5年間、遠ざかっていたベスト8進出を決めたのだった。

[page_break:力の差を見せつけられた負けと、粘りを見せることが出来た負け]力の差を見せつけられた負けと、粘りを見せることが出来た負け

高江洲 翔選手(県立前原高等学校)

「興南を倒さないと、甲子園へは行けないと思い知らされたゲームでしたね」。どこまで自分たちの力が通じるのか!?そう思って臨んだ準々決勝の興南戦だったが、力の差を見せ付けられた。先輩たちがなし得なかったベスト8を手にしたが、高き壁はそう易々とクリア出来るほど甘くなかった。冬場の、きついサーキットトレーニングでもチーム内の意識は高く、興南戦後に覚悟を決めた主将・平良に引っ張られるように、手を抜かないナインの姿がそこには見られた。

 もっと上に行ける!決して驕らず、自分にストイックな平良の姿勢は、同級生と言えど彼らの目標、憧れとなっていった。「練習にどん欲、且つひたむきさがありさらに無邪気さも兼ね備えたキャプテン」と大川監督が絶賛する平良は、比嘉 寿光(1999年選抜優勝)や我如古 盛次(2010年春夏連覇)ら名主将にあった、周りを惹きつける魅力が散りばめられている。「各校のエースが『平良と対戦したい!』と言ってくるのが分かります」

 そして春を迎えた前原は、秋よりも力強さを増し加えていた。八重山商工戦(試合レポート)では1点差を凌ぎきる精神力も見せた。準々決勝の相手は中部北地区のライバル美来工科だ。しかし。「実は平良がインフルエンザにかかってしまって。美来工科との3日前になっても練習が出来ない状態でした」。当日はぶっつけ本番、とはいかない。例えグラウンドに立っても、万全の平良とは程遠いプレーしか出来ないだろう。それでも、ナインの思いを背負った男はグラウンドに立つ。

 しかし、それで勝てるような相手では無かった。四球を除く3打席全てセカンドゴロに打ち取られる平良。打線も繋がりを欠く。7回、二死二塁から山根がタイムリーを放ち1点を返すも9回裏ワンアウト。しかしここから前原は粘った。「この子たちは、ウチの野球をしていればいつかチャンスが来ると信じている。それが最後に訪れた(安打、失策、死球で一死満塁)けど、モノに出来なかった。体調管理も含めて足りなさが出た試合でした」

 しかし、簡単に負けるのと粘って粘って負けるのとでは大きな違いがある。それが春の財産だと大川監督は語った。あのとき見せた粘りがこの夏、報いとして返ってくるとナインは信じている。

 第98回全国高校野球選手権沖縄大会。美来工科と前原は共に1回戦を快勝し、春以来となる再戦が決まっている。「やることはやった」。(大川監督)「(普天間に延長の末サヨナラ負けを喫した)去年の悔しさの分、絶対に勝ちます!」(平良主将)。

 もう上は見ない!目の前の1イニング、1球1球に全神経を集中させる!強い気持ちを持った前原の、夏のステージはまだ始まったばかりだ。

(取材・文/當山 雅通)

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