札幌大谷高等学校(北海道)【後編】

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 今年の春、全道大会を制した札幌大谷。前編では1年生の活躍について触れていきましたが、後編では1年生の活躍に刺激を受けた3年生たちはどう変わったのか。そして船尾監督の指導論や、夏にかける思いに迫りました。

夏は俺が背番号1を勝ち取る!

小林 京太郎選手(札幌大谷高等学校)

「気迫を前面に出す投球が自分の持ち味です。夏も背番号1を自分が取るつもりで、全力で練習していきたいと思います」と夏に向けて意気込む菊地 吏玖を、しっかりサポートしながらも、ライバル意識を燃やしているのが牧田 惇志(3年)と小林 京太郎(3年)だ。昨秋エースナンバーを背負っていた牧田は、3月中旬に左足首をねんざして1か月近くブルペンに入ることができなかった。

「情けなかった。自分の自覚のなさです」と、直後は松葉杖を使わなければ歩けないほどの重症だったが、気持ちを切り替え公式戦には間に合わせた。「けがをしてしまったことは仕方ない。とにかくできることを探してやってきました。試合をネット裏から見ることも勉強にもなりました」と、転んでもタダでは起き上がらないところが、“元エース”のプライドだ。

 左腕の小林も「春は出番が少なくて、歯がゆい思いをした。冬場に下半身を徹底的に鍛えて自信もついたし、夏は投手陣全員に勝って1番を取りたい」と、静かに闘志を燃やしている。ともに全道大会で結果を残し、エースナンバー争いは、さらに激化している。

 冬場に特に力を入れてきたという打線は木村 洸揮主将(3年)、片岡 新吾(3年)、濱崎 裕生(3年)の3人が中軸に座る。昨秋、札幌第一から1点も奪えずに敗れたことが、主軸の目の色を変えさせた。「とにかく打たなきゃ勝てないんで。冬場はずっと木のバットで振り込んできました」とは木村主将。ティー打撃20本10セットを10秒間のインターバルで一気に行い、ブレないフォームとスイングスピードに磨きをかけた。

 ひと冬越えて打球の質は明らかに変わり、何より厳しい練習をやり遂げた自信が、打席での落ち着きとなって表れている。「ベンチにいる時から投手とのタイミングを計っています。凡退しても内容のいいアウトが多くなってきました」という4番の片岡は、支部代表決定戦で先制の2ランを左翼スタンドにたたき込んだ。

 オフには下半身と背筋を徹底的に鍛え上げたという浜崎は「これまではスイングが大きすぎて雑になっていたけど、コンパクトに振ってもいい打球が飛ぶようになった。クリーンナップが打てば、チームは勝てますからね」と、勝負強い打撃を心掛けている。菊地の活躍に刺激を受けた金沢 勇士、細谷 健の1年生コンビもレギュラーナンバーを勝ち取るなど、野手も競争もますますエスカレートしてきた。

 一昨年12月に就任した船尾 隆広監督のモットーは、「どんな形でも最終的に勝ちきれるチームが強いチーム」。 あえて“大谷野球”というものをつくることにはこだわらず、毎年変わる戦力にあったチーム作りを心掛けている。函館有斗(現函館大有斗)では俊足好打の外野手として甲子園に2度出場。卒業後は社会人野球・新日鉄室蘭、室蘭シャークス、NTT北海道で活躍し、都市対抗には13回、日本選手権には7回出場した。

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実戦形式の練習を繰り返す(札幌大谷高等学校)

 日本代表として選出された97年インターコンチネンタル杯では、上原 浩治(現米大レッドソックス<関連記事>)、川上 憲伸(元中日)、阿部 慎之助(現巨人<関連記事>)、福留 孝介(現阪神)、高橋 由伸(現巨人監督)などとともに世界一に輝くなど、その華々しい球歴は視野の広い野球観に結びついている。08年から札幌大谷中の外部コーチとしてチームに携わってきた経験も、指導の幅を広げることになった。

「ミーティングでも僕の話は短いんですよ。長い話を聞くのは自分が嫌いですから。その分、自分が言ったことを選手が理解しているかどうか、顔や目をしっかり見ながら話すことを心掛けています」とナインに響く的確な言葉を選び、細かい指導は個別に行うのが船尾流だ。そんな指揮官が、早々とこのチームのキーマンに指名したのが木村主将だった。なんとまだ上級生のいた昨年から副主将に任命した。

「中学(札幌大谷中)の頃から、野球以外のところで怒られてばかりの選手だったんです。性格的にも自分がミスをしたら、プイッと背中を向けてしまうような感じで。なんとかひと皮むけてもらいたかった」と船尾監督はその意図を説明した。

「“エーッ?! なんで?”って思いましたよ。中学でも副主将はやっていたんですが、今回はまだ上級生がいる中で、でしたからね」。指揮官に呼び出され、ひざを突き合わせて打診された木村に逃げ道はなかった。アップでは常に先頭に立って大声を出し、ミーティングでも常に発言が求められる環境に、さすがに最初は戸惑った。それでも「地位が人をつくる」という言葉通り、少しずつ自覚と責任感が生まれていった。

 新チームでは当然のように主将に“昇格”。今では試合でエラーをしても、自ら投手に駆け寄りチームの雰囲気づくりを第一に考えられる主将になった。「木村を主将にしたことが失敗すれば、もうこのチームはダメ。周りもしっかりついていくような形にならなければ、目指すところには行けない」という船尾監督の期待はまず、春の全道優勝という形で表れた。

 硬式野球部のある札幌大谷中からばかりでなく、全道各地からも選手が多く集まるようになったことで、チームのバランスもよくなってきた。「チームが大谷中出身の選手たちに染まらずに、いいものが入ってきていると思います」と船尾監督。駒大苫小牧出身で甲子園2連覇メンバーでもある五十嵐 大部長(29)の存在も、チーム内にいい化学反応を起こす要素となっている。

 今春の卒業生で札幌大谷大に進学した連川 諒さん(19)も学生コーチとして加わり、夢舞台を狙う体制は整いつつある。「練習のムードはすごくいい。春の全道優勝が自信になったし、夏に向けての課題も見つかりました。チームがいい方向に向かっている感じがあります」と木村主将は目を輝かせた。全道大会2回戦では因縁の相手・札幌第一も1点差で撃破。春とはいえ全道を制した札幌大谷が、大きく変貌を遂げ、甲子園ロードを突き進む。

(取材・文/京田 剛)

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