経済界として東京五輪をサポートする体制は万全なのか

写真拡大

2020年東京五輪・パラリンピック組織委員会の副会長を、トヨタ自動車豊田章男社長が2015年12月21日付けで辞任した。経済界を代表する後任副会長には、パナソニックの津賀一宏社長が就任する。

豊田社長サイドはあれこれ理由を述べているが、「唐突感は否めない」(財界ウォッチャー)辞任劇であることは間違いない。「寄り合い所帯の組織委員会の迷走を豊田社長が嫌った」(中部財界関係者)との観測が真相に近いとみられているが、多くの五輪関係者が豊田社長の真意を測りかねている。

「談話」では「私自身の役割・立場を整理」

米国人女性役員の薬物疑惑が2015年夏に持ち上がった際には、いちはやく記者会見し、自らの考えをとうとうと披歴した豊田社長だが、今回の組織委副会長辞任については「談話」を公表したのみで、肉声を公にしていない。その談話は「2016年のリオデジャネイロ五輪を前に組織委員会と経済界の連携がますます重要になってくることから、私自身の役割・立場を整理し、経済界としての大会支援体制をさらに充実強化していきたいと考えた」というものだ。

「談話」で指摘した理屈は分からないでもない。豊田社長は、経済界にお願いする立場の組織委員会副会長(今回辞任)と、お願いを受ける立場の経団連などでつくる五輪支援の協議会の会長、さらには経団連のスポーツ推進委員長も務めている。また、トヨタ社として国際オリンピック委員会(IOC)および国際パラリンピック委員会(IPC)と最高位スポンサーの契約も結んでいる。役割や立場を整理したいと考えても不思議はない。経団連の榊原定征会長もちょうど2015年末に設定されていた報道各社のインタビューで、「ご本人の話では、要請する立場とそれを受ける立場を整理したいようだった」と述べた。

エンブレム問題で改革チームも率いていたが......

しかし、「お願いし、お願いされる立場」を両方やることは就任した時から容易に想像できたはずだ。今回の辞任について、もっともらしい理屈ではあるが、はじめから分かっていたことを理由にするから臆測を呼ぶ。

関係者が「可能性」として口にするのが、組織委員会のヨレヨレの体たらくが理由との見方だ。寄り合い所帯を、財務省元事務次官で元日銀副総裁の武藤敏郎事務総長が実質的に仕切っているが、会長の森喜朗元首相の老害的妄言をはじめとする横やりに右往左往状態が続いている。豊田社長は公式エンブレムの白紙撤回問題を受けて発足した改革チームを率いていたが、意思決定システムをつかめないまま時間を浪費したとの思いが強かったとされる。その結果、豊田社長が組織委員会に愛想を尽かした――というのが、現時点で、最も真相っぽい見立てだが、「何か腑に落ちない」と、経済界には疑心暗鬼がくすぶっている。