“笑顔のGK”から笑みが消えた。前半アディショナルタイム、吉田麻也が相手の足につまずき、倒れる過程で相手を踏んでPKを取られたのだ。

それまで無失点でしのいできた日本の絶体絶命のピンチだった。西川周作は4回小さくジャンプし、頬を大きく膨らませて息を吐き出すと、ゴールライン上にどっしりと構えた。

西川はイランとの対戦前に「日本とはまったく違う雰囲気でやれるのがいい」と語っていた。プレッシャーを受けることを自らの成長のために欲していたのだ。だが、同時に「無失点に抑えることを考える」とも願っていた。

代表チームのライバルである川島永嗣は、現在所属チームが見つからず招集が見送られている。国際試合での経験を積み、1つしかないポジションを奪い取るためには、失点の少なさという“結果”が必要だ。たとえPKだったとしても失点はイヤだっただろう。そしてもしPKを防ぐことが出来れば、大きなアピール材料にもなる――。

アシュカン・デジャガがボールを蹴る直前に西川は体重を右半身に移した。そして狙いどおりボールは西川に向かって飛んでくる。だが、ボールのコースは甘く中央寄りに入ってきたことで西川がボールに触ると、ボールはゴール前に戻ることになった。

再びデジャガがボールを蹴る。反応した西川は力一杯左手を伸ばす。だが、ボールは西川の手に触れたものの、そのままネットに飛び込んでいった。西川は座り込み、3度地面を叩いて吠えた。失点後に、西川がこれほど感情を爆発させることは、あまりない。

西川はすっかり気落ちしたのだろうか。そんなことはなかった。

「PKは見せ場だと思いました。前半は押されていたので、流れを変える作業が必要だと思っていました。結果的にゴールを決められてしまったけれど、一度止めたことで流れは変わったし、個人的にも自信がつきました。今後はさらに厳しい戦いが待っていると思う。この経験をしっかりと生かせるようにしたいと思います」

西川から普段の顔を奪い去ってしまうほどの強烈な経験がPKの場面にはあった。経験値が大きく上がったのは間違いないだろう。

【中畑忠】