写真はイメージです(Photo by Hajime Nagahata via Flickr)

写真拡大

 ここ最近、大型イベントが「炎上」する事態が続発している。主にキャパシティを超えて「人が集まりすぎた」ことが原因であり、不慣れな運営サイドのお粗末な対応に非難が集中するケースが目立つ。大型イベントといえば、夏の巨大同人誌即売会「コミックマーケット(通称コミケ)」が8月14日から開催されたが、ネット上では「やっぱりコミケはすごい」と再評価の声が上がっている。

5万人来場イベントに誘導警備たった50人

 8月2日に千葉で開催されたミクシィのスマホゲーム「モンスターストライク」(モンスト)のイベントでは、入場待ちで野外に並んでいた人たちが不調を訴える事態が相次ぎ、11人が熱中症で病院に搬送された。

 入場無料なうえに特典として限定キャラがもらえることもあって、開場時間の朝9時には長蛇の列。だが程なく、連日の猛暑で気分が悪くなった人が続出した。異変に気付いた運営側は、11時半ごろに入場規制を決定。2万人以上が会場に入れない事態となった。

 しかし、入り口で特典をもらうためのシリアルコードを配布するとアナウンスしたため、その後も列は途切れず。JR海浜幕張駅の近くまで列が伸びる有様だったが、運営の対応は鈍いままだったという。正午ごろにやっと救急車が到着し、さらに80人以上が救護室で手当てを受けたことで騒動が明るみになった。

 ツイッター上では参加者たちが現場実況し、以下のような憤りの声があふれかえった。

「人が倒れてるのにスタッフが来ねえ」
「列に横入りするDQNがいてもスタッフが注意しない無法地帯」
「6時間も並んだのには入れないって…交通費返せ!」
「自販機は売り切れで会場内にも飲み物なし、水分取れなくて死ぬかと思った」

 来場5万人に対して誘導警備スタッフが50人しかおらず、完全に運営サイドの想定が甘かったようだ。また、飲み物の持ち込みが禁止されていたという報道もあったが、ミクシィは「そのような事実はない」と否定している。

「無料」の宣伝効果は両刃の剣

 一方、今年5月に東京・表参道ヒルズで開催された「ジェラート博」でも混乱が起きた。同イベントは全国から人気ジェラートショップが集結し、20種類以上のジェラートを無料で試食できると大々的に宣伝されていた。

 ところが、当日は待ち時間が5時間以上という大行列。列の長さは約500メートル離れたラフォーレ原宿にまで及び、警察が出動する事態になった。間もなく、運営サイドは入場規制を実施。新たに並んでも会場に入れないとアナウンスした。それでも列が途切れなかったが、現地の参加者によると「勝手に並んだ列だから解散しろ」といった説明があったという。

 さらに、すでに並んでいた人にも「200人ずつ、30分で総入れ替え」といったルールを告知。参加者からは「それじゃ何も食べられない」「せっかく何時間も並んだのに」と悲鳴が上がった。

「近年のイベントは極端に人が集中するケースと閑散としてしまうパターンに分かれています。また、長引く不況の影響で『無料』や『限定』というキーワードの宣伝効果が高まり、運営サイドが安易に使用するようになっている。これが『行かないと損する』という射幸心のような意識を刺激し、理性的でなくなってしまうことが原因の一つではないかと思われます」(イベント会社関係者)

海外からも評価されるコミケの異常な統制力

 いずれも万単位の人が押し寄せたイベントなのだから、混乱が起きるのも仕方ないという見方もある。

 しかし、コミケは昨年夏の来場者が1日目は17万人、2日目は17万人、3日目は21万人で合計55万人。ケタ違いの来場者を記録していながら、これまで大きな混乱が起きたことはない。

 通常は大規模イベントの行列整理は鉄柵やロープを使用するが、コミケはいずれもナシ。スタッフの誘導と参加者の自主性によって数万人が整然と並んでいる。しかも、スタッフはプロの警備会社ではなく基本的にボランティアであり、そのあまりの見事さがテレビ番組で取り上げられたことも。

 参加者のイライラを軽減するために「ブロックごとに分けて移動」「止まる時は止まる、進む時は一気に進む」などといったノウハウで列が形成されており、何時間たっても崩れることは全くない。

 これは海外でも驚きをもって評価されており、列さばきの見事さをYouTubeなどで目にした外国人たちは「カオスの中の秩序が素晴らしい」「アメリカは日本から学ぶべき」「こいつら宇宙人だろ……」などといった声を上げている。

 最近の失敗したイベントとコミケの根本的な違いはどこにあるのだろうか。

「コミケはイベント慣れしている人が多く、しかも参加者は『自分たちのイベント』という意識が強い。お客様気分ではないのでイベント運営に協力的で、練度が高く秩序が保たれやすい環境です。運営サイドも徐々に参加者が増えていった歴史の蓄積があるため、しっかりと準備している。また、ゴネれば得するという世界ではないので自然と参加者のモラルが高まる」(オタク系ライター)

 近年はコミケでも参加者のモラル低下が指摘され、禁止されている徹夜行為の横行や悪質なパフォーマーが現れるといった問題を抱えている。しかし、それでもこの規模のイベントとしては奇跡的な統制といえるだろう。今後、大規模イベントを予定している企業はコミケから学ぶべきことがたくさんありそうだ。

(取材・文/夢野京太郎)