建設が進められている首都高の横浜環状北線と北西線(画像出典:首都高速道路)。

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外環道の東京区間など、高速道路建設にあたり地元との調整がつかず、事業を進められないことがあります。しかし首都高の横浜環状北西線は「PI」という方式を導入し、関係者が感激する状況に。今後、高速道路建設に「PI」は必須かもしれません。

横浜に残る首都高“最後の大物”

 今年2015年3月にC2中央環状線が全線開通したことで、都内の首都高ネットワークの建設はほぼ完了。残すは晴海線の延長だけになりました。首都高の新規路線は神奈川県内、横浜環状北線および北西線が“最後の大物”です。

 この2路線はひと続きで、横羽線の生麦JCTから第三京浜の港北JCTを経て、東名高速の横浜青葉JCTまでを結びます。

 現在、神奈川県の湾岸地区と東名高速との連絡は、一般国道である保土ヶ谷バイパス1本に頼っていますが、ここは1日平均17万4000台(平成17年度道路交通センサス)という膨大な交通量をさばいており、激しい渋滞が常態化しています。東名高速で最大交通量の横浜町田〜厚木間が約12万台ですから、この17万4000台という数字がどれだけ多いか理解できるかと思います。

 横浜環状北線・北西線は、それに並行する路線で、開通によって保土ヶ谷バイパスの渋滞緩和が大いに期待できます。横浜環状北線・北西線は首都高ですから有料ですが、保土ヶ谷バイパスを通行する車両の多くが途中、首都高を通過してきていますから、それらが迂回する分には、それほどの料金負担増にはなりません。

 また、東京湾岸から東名に向かう場合、C1都心環状線やC2中央環状線を経て首都高3号渋谷線経由が一般的ですが、横浜環状北線・北西線が開通すれば、そちらへ迂回したほうが東名の東京〜横浜青葉間分の料金(13.3?/590円)が節約でき、トータルでは安くなります。つまり、首都高3号線や大橋JCTの渋滞緩和も期待できます。

 完成予定は、北線が来年度中。北西線は2021年度です。北線だけでは迂回効果はほとんどなく、逆に北西線だけでも第三京浜経由で迂回が可能なので、そちらの建設を優先すべきでした。その点は残念ですか、仕方ありません。

日本で初めて住民が本格的に参画した横浜環状北西線

 実はこの横浜環状2路線のうち、北西線のほうは日本で初めて本格的に「PI(パブリック・インボルブメント)」が導入された路線です。PIとは住民参画のこと。計画の構想段階から住民に意見を求めつつ進めていく制度です。

 発祥の地はアメリカで、訴訟が連発される社会風土で公共事業を進めるには、スタート時点から徹底した話し合いが必要ということで、90年代に始まりました。

 日本の公共事業も以前は構想の計画段階ではなく、構想ができた段階で住民側に提示されていました。高速道路でいえば、国交省など行政側が通過路線を決めてから「どうですか」とやるスタイルで、その上でどうしても反対が強ければ地下化を検討するなどしてきたわけです。住民側からすれば、まずいきなり「ここを通します」があるわけで、その時点で感情的になりがちですし、用地買収も難航します。

 その例が外環道東京区間です。1966(昭和41)年に都市計画決定されていながら、住民の大反対で4年後に建設が凍結。最終的に大深度地下へ変更され、建設開始まで約40年もかかってしまいました。

 日本の都市間高速道路計画は、1987(昭和62)年に路線追加されたのが最後。首都高もほとんどの路線が昭和期からあった構想に沿っていて、まず「ここを通します」とやられた住民側との軋轢が各地で発生していました。

 それを回避すべく、欧米に倣って約10年遅れで導入されたのが、PI制度なのです。

関係者が感激した横浜環状北西線

「横浜環状北西線へのPI導入は、2002(平成14)年8月の国土交通省の市民参画型道路計画プロセス(PI)の決定によるものです。ちょうどその時期、北西線も構想段階になっておりまして、それを受けて構想段階から市民等に情報を提供し意見を聞くことで、手続きの透明性、客観性、公正さが高まり、計画がより良いものになると考えました」(横浜市横浜環状北西線建設課)

 具体的には、まず路線の必要性の説明から始まり、港北JCT〜横浜青葉JCT間を結ぶ構想であること、ついてはどこを通すべきか、住民側に意見を求めました。

 その結果、行政側が提出した“たたき台案”を含め13ルートが検討されたのち、それが7ルートに絞られ、最終的に“たたき台案”のトンネル部を長く取った修正案が概略計画として示されたのは、PIが開始された2003(平成15)年6月の約2年後。その後は環境への影響や出入口についてなど具体的な話し合いが続き、最終的に計画が決まったのは2011(平成23)年。着工は2014(平成26)年で、PI開始から約11年後でした。

 11年は長いといえば長いですが、外環道東京区間のように40年も動かないのに比べればスムーズだといえます。

 関係者によれば、従来の手法で計画が進められた北線では、予定地に建設反対ののぼりがずらっと並び、ルートが一目瞭然になるほどだったのに対して、「北西線では最後の住民説明会で、反対意見がひとつも出ませんでした。そんなことは初めての経験で、本当に感激しました」とのことでした。

 横浜環状北線のほかには、阪神高速淀川左岸線延伸部でPIが導入されています。今後、高速道路の建設にあたっては、このPIが必須になるでしょう。

 といっても、これから日本で高速道路が新規に計画されることは、ほとんどなさそうなのですが。