「今の秋山(翔吾)には、何を投げても打たれる感じがします」

 そう語ったのは、ロッテのリリーフ左腕・松永昂大だ。その言葉通り、今シーズンの西武・秋山翔吾は開幕から好調を維持し、ヒットを量産している。

 開幕から40試合を消化し、63本もの安打をマーク(※)。つまり、1試合1.575本のペースでヒットを放っており、シーズン143試合で換算すると225安打となる。これは、2010年にマット・マートン(阪神)が樹立したプロ野球シーズン最多安打記録の214本を上回るハイペースだ。
※今季の成績はすべて5月18日現在のもの(以下同)

 今年でプロ5年目の秋山だが、昨年までの4年間で積み重ねた安打は459本。2013年にシーズン152安打を放ったのがキャリアハイで、打率3割をマークしたことは一度もない。昨年は開幕から極度の不振に陥(おちい)り、ファーム落ちを経験。最終的には123安打を放ち、打率.259まで持ち直したが、秋山にとっては悔しいシーズンとなった。オフには痛めていた右ヒジのクリーニング手術を行ない、今季に備えた。

 キャンプで「しっかり振り込むことができた。いいスイングの形になってきた」と手応えを口にしていた秋山。オープン戦では打率.459をマークして首位打者になるなど、開幕前から飛躍の兆しはあった。野球解説者の大塚光二氏は、今シーズンの秋山について次のように語る。

「今年はボールを点でなく、線でとらえている印象があります。だから、変化球にもしっかり対応できていますし、どんな球に対しても自分のスイングをしています。また左打ちの秋山は、これまで左投手が相手だと右肩が開きやすくなり、外のボールを苦手にしていました。ですが、今年は肩が開かず、外のボールに対しても強いスイングができています。しっかりと振り切れるようになったことで、当たり損ねでもヒットになるケースが増えてきました」

 今季、ここまでの秋山の左右投手別の成績を見てみると、対右投手の打率.338に対し、対左投手は打率.432と打ち込んでいる。左投手を苦にしなくなったことで、安定した数字を残せるようになった。

 次に、チーム別の打撃成績を見てみたい。

対楽天/38打数17安打(打率.447)
対オリックス/33打数14安打(打率.424)
対ソフトバンク/38打数12安打(打率.316)
対ロッテ/35打数11安打(打率.314)
対日本ハム/30打数9安打(打率.300)

 対楽天、オリックスは4割以上の高打率をマークしているが、特筆すべきは全チームから3割以上をマークしていることだ。苦手チームがないということは、好不調の波がなく、コンスタントに数字を残せることにもつながっている。

 昨年、両リーグ最多のシーズン193安打を放ったヤクルトの山田哲人は、杉村繁チーフ打撃コーチから「週に7本ヒットを打つことを目標にしよう」というアドバイスを受け、それを着実にクリアしていったのだが、秋山も「毎試合、ヒットを積み重ねていくことが目標」と語る。ここまで秋山は、1試合2安打以上が21試合あり、逆にノーヒットに終わったのは6試合しかなく、2試合連続ノーヒットは一度もない。

 そして今シーズンの秋山を見ていると、打席での積極性が目立ち、ファーストストライクを打った場合の成績は55打数23安打、打率.418と高い数字を残している。その一方で、追い込まれてからの打席でも74打数23安打、打率.311と粘り強さを見せている。

「甘い球を確実にヒットにできる技術と、際どい球をファウルにする技術が上がってきた証拠です。もちろん、これから相手のマークもより厳しくなるでしょうが、今の秋山の技術ならどんな攻め方をされても対応できると思います。また、夏場になれば体力的にも厳しくなりますが、一昨年に全試合出場の経験がありますし、なによりチームが上位争いを繰り広げている。いい意味で緊張感を持って打席に入れると思いますよ」(大塚氏)

 1994年にイチローがプロ野球史上初めてシーズン200安打を達成し、この年、210本のヒットを積み重ねた(当時はシーズン130試合)。これがきっかけとなり、シーズン最多安打のタイトルも制定されるようになった。

 その後、2005年にヤクルトの青木宣親(現サンフランシスコ・ジャイアンツ)、2007年に同じくヤクルトのアレックス・ラミレス、そして2010年にはロッテの西岡剛(現阪神)とマートン(阪神)がシーズン200安打を達成している(青木は2009年にも達成)。はたして秋山は史上6人目の達成者となれるのか。また、イチロー、マートンを超える安打数を放つことができるのか。ファンにとってはシーズンを通してワクワクできそうな、秋山の挑戦である。
※2005年から2014年までは、シーズン144試合

島村誠也●文 text by Shimamura Seiya